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第24話 赤獅子の提案

「こうなってしまった以上は降伏するしかあるまい!」

「貴様! アーストンの輩に首を垂れろと言うのか! 徹底抗戦する気概を見せるべきだ!」

「軍はともかく一般市民にまで害が及びかねんではないか!」


 ペギンの首都リビィアンでは、市民から官職まで含めた全ての市民がパニック状態となっていた。

 先日のニューブリトン基地陥落の報を受けてから、既に五日。

 今後の対策が話し合われているが、降伏か徹底抗戦か。

 明確な答えが出ない話し合いが今日も行われていた。


「……」


 その様子を呆れたように見ているのは、赤獅子と呼ばれるペギンの英雄バレット。

 話しかけるなというオーラを纏っているため誰も近づこうともしないが、彼の後ろから声を掛ける青年軍人が一人いた。


「爺さん」

「……ロランか」


 青年の名はロラン・クルーガー。

 バレットの孫であり、『若獅子』と呼ばれる次世代のエース候補である。


「良いのか会議に参加しないで」

「ただ互いを罵るだけの会議に何の意味がある。それならこうしてお前と話していた方がいい」

「……例の元少年兵とは決着ついたのか?」

「いや」

「そっか。なら爺さんはまだまだ戦う気なんだな」

「どうしてそう思う」

「あれだけ執着しといて、よく言うよ。コーリンにまで根回ししてたしな」


 肩を竦めながら冗談の如く話すロランに対し、バレットは深刻気に俯く。

 バレットの様子を見たロランは、疑問を思い切ってぶつける事にした。


「どうして奴にそこまで執着するんだ? 仕留められなかったのが悔しいとか?」

「……ふっ。それならどれだけ良かっただろうな」


 バレットは自虐的に笑うと、ポツポツと心情を話し始めた。


「ペギンの赤獅子と呼ばれるまで、儂はこの国のために戦い続けた。それは一重にこの国の平和のためだ」

「……」

「だが奴と対峙し少年兵だった事を知った時、儂の中で初めて恐怖を覚えた。子どもを手にかける事や、そんな子どもが兵士として人を殺しているという事実に対して」

「恐怖」


 ロランの返しに頷くと、バレットは自然と出た震えを押さえる。


「奴が軍を辞めたと知った時は心底安心したが、それでも情報を集め続けた。実力が脅威なのもあったが、何よりももう一度戦って恐怖を乗り越えなければならなかったからだ」

「……」

「分かってくれとは言わん。だがあの時に感じた恐怖を乗り越えるには、奴に勝たねばならん」

「爺さんが言っている事はよく分からない。けどそれが必要だって言うなら、俺は応援するよ」

「すまんな」


 バレットは一言謝ると、赤獅子としての表情に戻り未だ騒ぎ続けている会議を見る。

 既に会議が始まってから二時間が経とうとしていたが、一向にまとまる様子は無かった。


「にしても一パイロットとしては早く降伏か抗戦を決めて欲しいもんだよ。どの道ニューブリトンが落ちた時点で負けてるだから」


 首都であるリビィアンに防衛能力はほぼ無いに等しい。

 アーストン軍は今にも迫っており包囲が完了次第、降伏勧告を行うだろう。

 それはロランだけではなく、ペギンのほぼ全ての市民が思っている事だ。


「そうだな。この戦い、負けは決まっている。だが憶えておけロラン、負け方は時として勝ち方よりも重要なのだ」

「それは、まあそうかもだけど……」


 ロランの頭に手を乗せて微笑むバレット。

 乗せていた手を除けると彼は紛糾している会議場に向かおうとする。


「爺さん?」

「だが見ているのも飽きた。ここは儂が解決してやろう」

「そうは言うけど、どうする気なんだよ」

「……必要最低限の被害で、この戦争を終結させる方法を提示するのだ」


 その時のバレットの表情は、まるで悪戯をする子どものようであったと後にロランは話している。


 二日後

 リビィアンを包囲するアーストン軍に、ペギンから一つの提案がなされる。

 それはペギンの赤獅子とアーストンの白い死神。

 両者による一騎打ちであった

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