第23話 ニューブリトン基地攻略戦(後編)
ニューブリトン基地を巡る戦闘が開始されてから一時間ほどが経過した。
ここで勝てばペギンの首都進攻に王手をかけるアーストン軍。
負ければもう後が無くなるペギン軍。
どちらも死力を尽くしての攻防が繰り広げられていた。
そんな激戦の中で、右翼方面に配属されたユーリたちデュラハン小隊も目覚ましい活躍をしていた。
「このぉ! 邪魔!」
迫り来るペギン軍のMTをナギナタのエネルギー刃で舞った砂塵ごと薙ぎ払っていくアイシャのヴルム。
先陣に立って弾丸の如く突撃するアイシャ機を止めるべく、三機が囲いながらブレードを振るう。
「この程度で!」
アイシャは背中に新たに装備されたエーテル刃を発したサブアームを二本展開させ、迫る二機を貫き残りの一機はナギナタで両断する。
砂漠に三つの爆炎が上がるのをバックに、アイシャは少しでも味方の負担を減らそうと前に出る。
一方のペギン軍もこの状況を黙って見ているハズもなく、長距離用にカスタマイズされたMTたちがアイシャを狙っていた。
「……させない」
だがそれは織り込み済み。
長距離射撃部隊を狙い撃つMTが、アイシャ機の上空にいた。
専用のロングレンジライフルを構え、エルザのヴルムが一機づつ確実に仕留めていく。
ペギンは空中戦用の飛行ユニット開発が遅れており、上空に陣取るエルザ機に有効な手が打てずにいた。
しかし皆無ではなく、ペギン軍が設置した対空トーチカがエルザ機を撃ち始める。
絶えず狙われて狙撃を中断するエルザであったが、その顔にはまだ余裕があった。
「敵トーチカの位置を確認。……あとは任せた、カレリン」
「任せて!」
二人より後方に陣取っていたミーヤのヴルムは、サブアームを展開。
右手とサブアームでようやく構える事が出来たのは、試作型の長距離エーテル砲。
旧世代のMTでは反動に耐えられないとされる砲の照準をトーチカに合わせると、ミーヤは若干の躊躇の後に引き金を引く。
青い一条の光が射線上の敵MTとトーチカを貫き、砂漠に爆発音が吸収されていく。
「敵トーチカを破壊。このまま援護に回るね」
放熱が終わった砲塔を背中に収納するとミーヤ機はライフルを構え、前線にいる二人の援護を開始していく。
三人の活躍もあり、右翼側は非常に有利に事を運んでいる。
そして隊長であるユーリも、三人の活躍を目にしながら最前線で戦っていた。
「三人共随分と張り切ってるな。よほど新装備が気に入ったか?」
そんな軽口を叩きながらもユーリの思考は常に敵機に向けられており、今もマシンガンを放とうとしたMTの頭部をライフルで吹き飛ばしていた。
【左翼、中央ともに順調な模様です。このまま行けば陥落ももうすぐかと】
「アイギス。お前、時折フラグとしか思えない言葉使うよな」
接近戦を挑んできたMTの腹部装甲をエーテルサーベルで切り裂きながら、ユーリは呆れたように口にする。
【そうでしょうか? ……高速で接近するMTを捕捉。十秒後に接敵】
「!」
アイギスの言葉を聞き終わる前に、ユーリは既に回避運動を開始。
巨大なランスを構えて突撃してきたMTの攻撃を、ギリギリ肩に掠りながらも避ける。
攻撃してきた機体は停止したのち、ユーリの方に振り返る。
「……アイギス」
【データ参照。間違いなくペギンの赤獅子、バレット・クルーガーのランスロットⅢだと思われます】
「だよな」
ユーリが軽くため息を吐くと同時に、バレットは再び襲いかかった。
巨大ランスを突き出しきたランスロットⅢに対し、ユーリはサーベルを展開。
ランスとサーベルが交差し、火花を散らしながらの鍔迫り合い状態となる。
【やはりあのランスにはエーテルコーディングがされているようです。余程のエーテルを使用しなければ切断できないかと】
「ったく、面倒な事。だなぁ!」
ユーリは膝蹴りを喰らわすと、スラスターを使用して一旦後ろに下がる。
バレットも無理に追う事無く、二機はにらみ合いの状態となる。
「アイギス。俺が勝てる可能性はあるか?」
【現在ファフニールに実体武装はありません。コーティングが機体全体にされてるとすれば、苦戦は必須かと】
「そうか」
答えを予想していたようにあっさりとアイギスの言葉を受け止めると、ユーリは深く深呼吸をする。
それはまるで覚悟を決めたかのようでもあった。
だが、戦いは意外な形での幕引きとなる。
ニューブリトン基地方面から、三発の信号弾が発射された事によって。
「アイギス! 今のは!?」
【撤退の信号と確認。どうやら戦いは我々の勝利のようです】
ペギン軍の方でもそれを確認したのか、次々に武器を降ろして撤退を開始。
バレットが操るランスロットⅢも、撤退する味方を守るようにしながら引いていく。
「とりあえず、終わったか」
【残すは首都のみ。ペギンに反撃する力は残されていないと思われます】
「……だといいがな」
味方が勝利に沸き立つ中で、ユーリはどこか一抹の不安を抱えていた。




