第22話 ニューブリトン基地攻略戦(前編)
アーストンによるペギン侵攻が始まって三週間が経過。
圧倒的な国力差を前にペギン軍は後退を余儀なくされた。
そしてついに、首都リビィアンまでの最後の砦とされるニューブリトン基地まで追い込まれる事となる。
ペギン軍は残る戦力をニューブリトン基地に集結、アーストンとの決戦の構えを取る。
それに対しアーストン側も、三方向からの同時攻撃をもって基地の突破を狙う。
ユーリたちデュラハン隊は、右翼側の先陣に配属。
そして新西暦六月下旬の午後。
アーストン軍はニューブリトン基地に侵攻を開始したのであった。
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「どうでいファフニールの調子は?」
「問題ない。少なくとも感じてる限りでは」
「砂漠戦用に特殊塗料と調整を行ったって言うのに、相変わらず腕は一流みてぇだな。嬢ちゃんたちは四苦八苦してるみてぇだが」
カゲロウのメインメカニックであるバーナードとユーリは、そんな事を話しながらMTの最終調整を行っていた。
部隊発足から初めての大きな戦闘と言う事もあり、アイシャたちを始めとして他のメカニックたちにも緊張が見えていた。
「で? どうなんでい。お前さんは」
「別に? いつも通りにやるだけさ」
「噂になってるぞ。何でも敵のお偉いさんと因縁があるんだってな」
「全く。そう言った話は伝達が早い事で」
「……勝算はあるんだろな」
厳しい視線を送るバーナードに対し、ユーリは少し考えてから答える。
「前とは状況が違い過ぎる。負ける……とは言いたくないけどな」
「まあ相手さんと戦うとも決まった訳じゃないしな」
【確率は単純計算では三分の一。ですがこちらは中央の戦力が多い。となるとペギンの赤獅子が右翼に布陣する可能性は低いでしょう】
「的確な分析どうもAIの嬢ちゃん。だが世の中そう上手く行かないのが人生って奴さ」
【バーナード主任の言う事は時折よく分かりません】
突然入ってきたアイギスに人生観を語るバーナード。
メカニックとAIとして交流も多く、ユーリを除けばアイギスと一番親しいのはバーナードと言えるだろう。
「ああそれと小僧。例の新装備、今回の決戦には間に合わねぇみたいだ」
「そうか。……まあそれならそれでやりようがある」
「ハッ! 頼もしいこった。……そろそろ時間だ、今回も生きて帰ってこいよ」
「当たり前だ」
場を離れていくバーナードの背を見送りながら、ユーリはコックピットにもたれかかる。
【大丈夫ですかユーリ。心拍数が乱れていますが】
「……まあ多少は緊張しているな」
【こう言い表すべきか分かりませんが、意外です】
「はは。自分でも意外だよ。……心のどこかで赤獅子と戦うのが怖いと思っているのかもな」
【精神の乱れは操縦に直結します】
「心配するな。戦場に立てばあとは敵を打ち倒すだけだ」
言い切るユーリではあったが、アイギスには彼が緊張しているのがデータを通して分かっていた。
【……AIである当機がこの様な言葉を発しても意味は無いと思いますが】
「ん?」
【あなたの身の安全は保障しますユーリ。ですから、全力で戦う事のみに集中してください】
「ふっ。随分気が利くセリフを言えるようになったなアイギス」
【誰かさんが気を使わせる動きばかりするからでは?】
「そりゃ悪かった。じゃあ精々苦労を掛けないよう、頑張ってみせるさ」
笑顔を向けるユーリにAIであるアイギスは反応を示さない。
だがもし表情があるならば、きっと笑顔を返してくれただろうと彼は勝手に思う事にした。
―その二十分後、ニューブリトン基地攻略が開始されたのであった。




