第21話 迷い
「これで……よしっと」
艦内でも眠る者が多い深夜帯。
ユーリはスコットに報告書をまとめたデータを送っていた。
慣れない作業をした所為か疲れた様子を見せるユーリが、寝る為に立ち上がろうとした時であった。
入り口の方からノック音が聞こえたのである。
「? 誰だ?」
そう問いかけても答えなかったため、ユーリはモニターで確認する。
訪問客の正体に驚きつつも扉のロックを解除すると、静かに頭を下げて入って来た。
「随分と大人しいな。いつもの元気はどうした? ミーヤ」
「私にだってこういう時はあります。隊長」
その返事に苦笑いを返すと、ユーリは座るように促す。
ミーヤは頷き座ると、何かを言いたいが口に出せないようであった。
「どうした? こんな時間に来たんだ、何か用があるんだろ?」
「……隊長は、平気なんですか?」
「ん?」
質問の意味が分からず聞き直すユーリに、ミーヤは随分と落ち込んだように喋り始める。
「私はバカだから、戦争相手の事とか深く考えた事ないです。けど、今回バレットさんと出会って……」
「初めて迷いが生まれたって事か」
「……」
頷き同意の意思を示すミーヤに、ユーリは頭を掻きながらどう答えるか考える。
その間にもミーヤは堰を切ったように心情を吐露する。
「前みたいにテロリストや盗賊なら、こんな事なかったと思います。けどバレットさんはそう言った人たちとは違っていて。……こんな考え、軍人として失格ですか?」
心底悩んでいる様子のミーヤに、ユーリはため息を吐きながら口を開く。
「俺も戦場には沢山出ているけどな。人生相談みたいな事はあまりした事ないから、望んだ答えを出してやれるかは分からないが」
「はい」
「そうやって悩むのは普通だと思うぞ? 誰だって知り合いとなんて戦いたくないだろ」
「え?」
その答えが余程意外だったのか、ポカンとした表情を見せるミーヤ。
「け、けど隊長は平気……なんですよね?」
「あ~それは比較対象が悪い。俺はそういった意味では壊れているからな」
「は、はあ」
「小さい頃から戦場に立ってみろ。価値観なんて一般人とズレるに決まっているだろ?」
ごく当たり前の事を話すように自分の事を語るユーリに、ミーヤは何も言えないでいた。
未だ呆けた顔をするミーヤに、ユーリは出来るだけ優しい表情で語り掛ける。
「カレリン。相手を思いやれるのは美徳だと思う。だが戦場に立つなら自分と周りの味方の事だけ考えろ。……もし相手の事で後悔したなら、悩みぐらいは今回みたいに聞いてやるから」
「……はい!」
いつもの様な元気を見せるミーヤを確認して、ユーリは一安心する。
その後、少しばかり談話するとミーヤは自室に戻るべく立ち上がる。
「隊長。今回はありがとうございました!」
「気にするな。まだ寝てなかったしな」
「お礼って言うのも変ですけど、隊長も悩んでいたら相談してくださいね!」
「あ~。まあ気が向いたらな」
ユーリの曖昧な返事にも笑顔を返したミーヤは、そのまま部屋を出ていった。
再び一人になったユーリは、どこか呆れたような顔をしながらも彼女に釣られて笑顔になっていた。
―ペギンの重要拠点であるニューブリトン基地攻略、三日前の出来事であった。




