第20話 過去の因縁
―あれは……新西暦四十七年ぐらいの十一月だったか?
激化していくアーストンとガスア。
二大国家の戦争の中で、俺たち少年兵はガスアと協力体制を取っていたペギンに派遣される途中だった。
だけど前線に向かう最中、ペギン軍に追われながら撤退するアーストンの部隊を発見した。
その撤退を援護するために俺を中心とした数名が選出されて、急いで救援に向かった訳だ。
乗っているMTのスラスターからエーテルを吹かせて、友軍を追っていたペギンの部隊に近づく俺たち三機。
接近してきた俺たちを迎撃するために向こうも迎撃の体勢を取る訳だが、こっちもそれなりの場数を踏んでる。
向こうの射程距離に入るまであと少しというところで、敵部隊の一機が轟音を立て崩れ落ちた。
俺たち三機の後方にはスナイパーライフルを構えているMT『ノウム』が援護してくれた。
乗っていた奴の話は主軸とぶれるから置いておくが、砂漠という不安定な足場ながら長距離射撃をこなしてくれた訳だ。
レーダー探索外から放たれた弾丸に倒れた仲間に敵部隊が気を囚われている間に接近した。
ロングソードを両手に、大立ち回りだ。
敵は六機ほどだったが二機は俺が潰したと思うぞ。
やがて猛攻に耐え切れなくなったか、向こうの部隊は撤退を開始した。
俺たちも無理に追う事はせず、味方も無事撤退したみたいだから戦闘は終了したかと思っていた。
……一瞬の油断だった。
引き上げようとする俺たちのカメラ越しに、さっきまでライフルを構えていたノウムが巨大なランスに貫かれてた。
そこには、ゴツゴツとした見た目をした赤いMTがいた。
そいつは貫いたノウムを薙ぎ払らうと、そのままランスを構えながら俺たちに突撃してきた。
当然それを見た俺たちは迎撃を始めた。
かたき討ちっていうのもあったが、何より死にたくなかったからな。
マシンガン二丁とライフルの射撃で動きを止めようしたんだが、向こうは両肩に装備されたシールドと分厚い装甲を使いながら防いでいった。
この時点で相手がエースだと確信した俺は、ライフルからロングソードに切り替えて迎え撃った。
下手に守るより攻めた方が得策だと思ったからな。
迫って来たランスの先端を何とか弾こうとしたんだが、勢いを殺せずに逆に吹き飛ばされてな。
直撃は避けたから何とか動けたが、それでも機体に相当ダメージを喰らってしまった。
その間にも奴はすぐさま反転して、態勢を崩している俺に追い打ちをかけようとして来た。
そこに俺を守るために他の二機がロングソードを構えて立ちふさがってくれた。
……ろくに話した事もない奴らだったが、お互いそれ位の友情は感じてたみたいだな。
だが結果としては時間稼ぎにしかならなかった。
一機は赤いMTの突撃を防ぐ事が出来ずに貫かれ、もう一機はその隙を狙うが胸部に備わっていた機関砲の直撃を喰らい爆死した。
俺が体勢を戻した時、そのエリアに居たのは俺と奴の二機のみであった。
ジリジリとお互い距離を取って間合いを測ったまま時間が過ぎていったが、その状況を崩したのは奴の方からだった。
馬鹿デカいランスを構えた奴はスラスターを吹かせる奴を迎え撃つべく、俺の方はロングソードを両手で持つ。
砂漠に俺と奴が交差し、立っていたのは奴の方だった。
右側の腰部の装甲を丸ごと貫かれた俺の機体は、自重を支えきれず奴の眼前で倒れちまった。
まあ向こうも無傷という訳ではなかったがな。
奴の左腕を切り落とす事に成功したんだ。
だが立つ事も出来ない俺のMTと、未だ右腕が健在の赤のMT。
このままどっちが勝つかなんて事は……言わなくても分かるだろ?
だが突然奴は撤退していった。
その事を不自然に思っていたんだが、味方の大部隊が近づいているのが確認できた。
こうして俺は一命を取り留め、そして人生初のMT戦による敗北を味わった訳だ。
生きる為に戦ってた訳だから、その時は安心しか無かったけどな。
その赤いMTがペギンの赤獅子と呼ばれる男のものである事を俺が知ったのは、軍がペギンから完全撤退した時だったとさ。
・・・・・・・・・・・
「と言う面白くもない話だよ。満足したか?」
「いや、死にかけておいて面白いも何もないと思うんですけど」
戦艦カゲロウの格納庫。
そこでパイロットスーツを着たままどうでもいいように語るユーリに、アイシャはツッコミを入れる。
ミーヤもエルザも頷いており、孤立無援状態のユーリはため息を吐く。
「まあとにかく話はここまでだ。正直向こうが俺を知っていたのは意外だったがな」
「運命というものでしょうか? これも」
「さあな。……さっさと着替えてこい」
「あの隊長! 一ついいですか!」
軍服に着替えようと向かうユーリの背中に、ミーヤが声を投げかける。
「何だ?」
「隊長はどう思いましたか? バレットさんに直に会ってみて」
「別に? 思ってたより友好的に接してくるなとは思ったが」
「……そうですか」
ミーヤは何か言いたげであったが、それだけ言うと早足で去っていった。
ユーリはアイシャとエルザに視線を送り後を頼むと、自分も着替えるためにロッカーへと向かう。
歯に何かが挟まったような、モヤモヤした気持ちを抱いたまま。




