第16話 ペギンという国
アーストン王国の西部に接している国の中でも、長年争ってきた国が存在している。
その名は『ペギン』。
領土こそ小規模ではあるが、砂漠という条件と兵士たちの勇猛さで幾度となくアーストンの侵攻を食い止めた。
いつしかペギンは騎士の国と称され、恐れられる事となったのである。
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「という事で、次の戦場はペギンだ」
カゲロウに備え付けられた食堂にて、ユーリはサンドイッチを口に入れながら次の行先を三人に報告する。
それぞれ食べる手を止めてユーリを見るが、当の本人は気にした様子もない。
「隊長。もう少し詳細な説明を」
エルザが代表して質問を口にすると、ユーリも食事の手を止める。
「やる事はそう難しい事じゃない。ようはペギン侵攻の一端を担えって事だ」
「ついにこの時が来たって感じね」
アイシャのこの言葉に、エルザとユーリが頷く中で一人理解が及んでいない人物が口を開く。
「ペギンってどんな国だったけ?」
「……カレリンあなた、そんなだからテストでいつも赤点ギリギリなのよ」
呆れて何も言えないといった表情のエルザに変わり、アイシャが説明し始める。
「ペギンは領土のほとんどが砂漠に覆われていて、国のトップはガスアの皇帝とも親しいらしいわ。実際前のガスアとの戦争でも何度もちょっかいを出してきたしね」
「でもそんな国ならもっと早く侵攻してても」
「それが簡単に行かなかったのよカレリン」
エルザが説明を引き継ぐと、持っていた情報端末を使ってある画像を呼び出す。
それはペギンのMTの情報をまとめたものであった。
「ペギンのMTは砂漠戦に特化させているし、こっちは慣れない条件での戦いを強いられる事になる。それに加えて向こうの練度も高い」
「そうだったんだ。……あれ? でも今回攻めるって事は勝算があるの?」
「あんたにしては鋭いわね」
ミーヤの質問に対してアイシャも端末を取り出し、世界地図を見せる。
「確かにペギンは正面から攻めれば苦労する。けれどアーストンは時間をかけて国力を弱らせる方法を取ったの」
「例えば?」
「ペギンと関わっている国に根回ししたり、内部から切り崩したり。他にもしてるでしょうけど、こんなところね」
「実際ペギンの国力はかなり低下しているらしい。それに加えて同盟国であるガスアは別の国と戦争をしていて援助を回す余裕もない」
「まさに攻め時って奴ね」
「そういう事だな」
ユーリたちの会話を大人しく聞いていたミーヤであったが、何か考え込むように黙り込む。
「どうしたカレリン」
「えっ!? い、いや。何でもないです……」
言いよどむミーヤであったが、その様子を見てエルザが呆れたように口を出す。
「下手なのだから嘘をつくのは止めなさいカレリン。バカにはしないからさっさと言った方がいいわ」
「エルザ……」
その後もどうしようか悩んでいる様子のミーヤであったが、ようやく決心がついたのか口を開く。
「……一瞬卑怯じゃないかって思ったのって、やっぱり軍人失格かな」
「はぁ、カレリンあんた」
「確かに軍人としては甘いな」
アイシャが何か口にしようとしたが、ユーリがそれを遮る。
それを聞いて見るからに落ち込むミーヤに、ユーリは言葉を重ねる。
「だがそう思うのはお前がペギンの人間をも思っているからだ。軍人としては甘くても、人間としては嫌いじゃない」
「隊長……!」
ユーリからの言葉を聞いて笑顔を取り戻すミーヤに、アイシャが声をかける。
「まあ隊長の言う通りかもね。けど戦場ではそんな甘い事言わないでよ? こっちが迷惑するんだから」
「アイシャちゃん」
「……カレリンの甘さは筋金入りだから、最初からフォローする気でいた方がマシ」
「エルザ」
それぞれの言葉を受けて、ミーヤは涙目になっていく。
それを見てからかう二人を見ながら、ユーリは天井を見上げながら一人呟く。
「ペギン……か」
第三章開幕です!
果たしてペギン侵攻の先に何が待ち受けているのか?
ご期待ください!




