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幕間 欠落しているもの

 アーストンの何処かに存在していると言われている特別収容所。

 それは表沙汰に出来ない事件を起こした人物が送られる、言わば国の闇そのものである。


「出せ! 私は何も恥ずべき事はしていない!」


 そんな場所に最近になって入った男が、檻を揺らしながら騒ぎ立てている。

 周りの囚人たちが迷惑に思っているにも関わらず、男は一日中だろうと言葉を吐き続けた。


「くっ! こんな事をしてタダで済むと思っているのか! 必ず裁判で証明して見せる!」


 その言葉には聞いていた囚人たちも思わず鼻で笑う。

 ここは言わば沼、一度入れば二度と抜ける事は出来ないのだから。

 まして裁判など行われるはずもない。

 この男の名はジェイソン・グッドマン。

 アーストン解放戦線のリーダーであり、国に対してテロを行おうとした罪で投獄された者である。


「相変わらず自身の状況しか見えてないようだな。グッドマン」


 そんなグッドマンに檻の外から話しかける人物がいた。

 騒ぐのに集中してて近づいているのにも気づかなかったグッドマンは、その人物を見て驚愕する。


「き、貴様はオーウェン!」

「ふん。流石に覚えていたか」


 スコットには珍しく軽蔑の視線を隠しもしない。

 一方でグッドマンは、顔を真っ赤にしながら喚き散らす。


「忘れるものか! 貴様のせいで私は軍を除隊させられたのだからな! 無実の者を弄んでそんなに楽しいか、スコット・オーウェン!」

「無実。そう思っているのはグッドマン、お前だけだ。少年兵部隊にした行為は決して認められる事ではない」

「黙れ黙れ黙れ! 私はアーストンの未来を考えて行動しているのだ! 貴様のような凡人に分かってたまるか!」


 グッドマンのこの言葉に、スコットはため息を返す。

 話が通じないとは思っていたが、まさかここまでとは思っていなかった。


(この男には、自分が悪いという考えが欠落している)


 そう心の中で人物像を決定づけると、スコットは話を改めて進める。


「まあいい。今回は思い出話をするために立ち寄ったのではないのだからな」

「貴様の話など、どうででもいい! 早くここから出せ!」

「正にその事だ。お前の量刑が決まった。本来なら看守が言うべき事だが、変わってもらった」

「量刑だと!?」


 驚くグッドマンに対し、スコットは淡々とした様子で現実を突きつける。


「喜ばしいよジェイソン・グッドマン。お前のような男を一生ここに閉じ込めておけるのは」

「き、貴様ぁーー!!」


 何とかして掴み掛ろうとするグッドマンであるが、檻に防がれ騒ぎ立てる事しか出来ない。


「貴様! 正義そのものである私に罪を被せようと言うのか! そのような事、決して許されんぞ!」

「勘違いしてもらっては困る。この決定はアーストンが定めた法に則り行われたものだ。国がお前を悪と決めたのだ」

「そんな訳があるかぁ! 私は正しい! 私が正義! 私こそがアーストンの未来そのものだ!」

「随分と大きく言うものだな。ならば問おうジェイソン・グッドマン。貴様の言う通り国を動かし、ガスアとの戦争に勝ったとしてその後はどうするつもりだ」


 スコットの問いかけに対し、グッドマンは叫ぶような大声で答える。


「知れた事! 戦争に勝ったその暁には、汚れたガスアの民を根絶やしにしてやる! 味方した国も、同盟国も全ての民をだ!」

「……全てを殺し尽くす、そういう事だな」

「当然だ! アーストン王国こそ、この世界の中心! それ以外の国など認めん!」


 誇るように言い切ってみせたグッドマンを見て、スコットは再びため息を吐く。


「やはり良かったよ。お前をこの檻に入れられて」

「なっ!? ここまで言っても私の正しさが分からないのか!」

「分かりたくもない。貴様のやろうとしてる事はだだの虐殺だ。認める気など全くない」

「オーウェン貴様! それでもアーストン軍人か!」

「軍人だからこそ認めんのだ。……それが分からんからその中に居る訳だがな」


 それだけ言うとスコットはさっさと檻から離れていく。

 彼の小さくなっていく後ろ姿を見てながら、グッドマンは叫び続ける。


「待て! 話はまだ終わって、おい聞いているのか!」

「……お前が少しでも人を思える人間だったら、結果は違っていたと思うがな」


 スコットが呟いた言葉は、他でもないグッドマンの声によってかき消されるのであった。

グッドマンのその後を書いた幕間でした。

次回も幕間ですが、誰がメインか?

ご期待ください。

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