第13話 黒いMT
前線へと突っ込んだユーリたちデュラハン隊。
無謀に見える行為ではあったが、ユーリなりに勝算があっての事であった。
シミュレーション越しとはいえ三人の実力を感じ取り、この程度ならやり切れると考えての行動。
実際、初陣にも関わらず彼女たちの活躍は目覚ましかった。
「このぉ!!」
接近してきた解放戦線のMTを、アイシャは青白いエネルギー刃を作り出したエーテルナギナタで薙ぎ払う。
遠心力も味方につけた一撃に、元が工業用のMTは成す術もなく両断される。
その後ろから、攻撃の隙を狙って敵機が迫る。
「やらせない!」
だがその機体は、轟音が鳴り響くと同時に吹き飛ばされ爆散する。
ミーヤのヴルムに装備された大型のキャノン砲が紫煙を立ち昇らせる中、彼女は両手にライフルを構え眼前の敵を撃っていく。
「隙だらけ」
そしてエルザ機は派手さは無いが、両手に銃剣付きのハンドガンで一機また一機と確実に仕留めていく。
彼女たちの活躍もあり、前線にMTを引き付けるという目的は既に達成されようとしていた。
【少尉。後方より敵機複数】
「了解っと」
だがやはり、一番撃破数を稼いでいたのはユーリであった。
迫るMTをものともせず、次々に切り伏せる様はまさに死神の異名に相応しいと言えるだろう。
さらにアイギスの的確な指示もあり、まともに被弾すらしていない。
この圧倒的な実力差を前に、解放戦線の士気も下がって行く一方であった。
それもそのハズ。
解放戦線の主力は今の政権に不満を持つ一般人。
有利な時はまだいいが、不利に陥ればこうなるのも当然と言えた。
「レコ。白兵部隊の調子は?」
「現在施設の三割を制圧しました! 皆さんは引き続きMTの足止めをお願いします!」
その言葉を聞いて一層やる気を増していく一同は、もはや数に頼った攻撃すらできずにいる解放戦線を撃破していく。
しかし一方的と言えるこの状況で、ユーリは何かを予感していた。
(まだ一波乱あるな)
それは根拠のない直感である。
だが少年兵時代の経験によって磨かれたそれは、ユーリの中で確信を持つには十分であった。
「待ってください! 目標施設内から未確認のMTが出撃! もの凄いスピードでそちらに向かっています!」
「! シュミット! 右に躱せ!」
「!」
レコの通信と、ユーリが指示を飛ばすまでほとんど差は無かった。
結果として高速で飛来した弾丸によって被害を受けたのが、エルザ機の右腕だけだったのは幸運と言えただろう。
「っ」
「エルザ!?」
「……大丈夫です。一々叫ばないでくださいカレリン軍曹。それより」
「全員気を引き締めろ。どうやら実力者が来たらしいぞ」
ユーリの言葉を受け、全員が弾丸が来た方角を確認する。
そこには黒をメインとした女性的なフォルムをしたMTが、青い大空の中でユーリたちを見下ろしていた。
その機体は、実にゆったりとした速度で長い銃身を向けてきた。
「っ! バカにして!」
「ウェルズ!」
謎のMTの行動を挑発と取ったアイシャは激高し、ユーリが止めるにも関わらず一人突撃する。
フェイントと織り交ぜた動きをしながら、黒いMTに肉薄するアイシャ。
その勢いのままナギナタを振り降ろし、決着がついたと思われたが。
「なっ!?」
黒のMTは大剣を瞬時に引き抜き、ナギナタを受け止めていた。
金属が擦れ合い赤い火花が散り鍔迫り合いが続くが。
突如として大剣の刀身がチェーンソーのように回り始め、ナギナタの柄を切り裂く。
「嘘でしょ!」
受け止めていたナギナタが右腕ごと両断され、大きく後退するアイシャ機を追撃する黒いMT。
「っ!」
殺られると他ならぬアイシャ自身がそう思ったが、二機の間を引き裂くように光が通り過ぎる。
「ぼさっとするなウェルズ! さっさと引け!」
と同時に、ユーリが叫びながら黒いMTに切りかかる。
それを受け止める敵機であったが、繰り出された蹴りは躱せず後退する。
「隊長」
「ウェルズ、二人と合流して他の敵の掃討しろ」
「で、ですけど」
「早くしろ。何時までも向こうは待ってくれないぞ」
「……気をつけて」
アイシャはユーリの言葉に従い下がっていく。
一方でユーリはエーテルサーベルとライフルを構え、何時でも迎撃できる態勢を取っていたが。
【少尉、敵機から通信が入っていますどうされますか】
「……繋げ」
【了解しました】
アイギスが通信を繋ぐと、戦闘中とは思えないのんびりとした表情の女性がモニターに表示される。
「敵機の前に中央突破だなんて、随分と腕に自信があるようね」
「そういうアンタこそ、呑気に敵と通信だなんて余裕だな」
「あらそうでも無いわよ。本当だったら四機とももう切り伏せてるつもりだったから」
「そうかい。それは残念な事で」
「ええ。だから興味があるのよね。それを防いだアナタの実力」
モニター越しに獰猛な笑みを見せる名も知らぬ女に対し、ユーリはため息を吐く。
「悪いがこっちは興味ない。さっさと消えてくれ」
「あは♪ じゃあいいわ。夢中にさせてあげる」
そう言うと女はMTを操り大剣を構える。
「傭兵カーミラ。お相手するわ」
黒と白。
対極的な色をしたMTの激闘が始まろうとしていた。
久しぶりの戦闘シーンを書けて満足です。
次回は特に気合を入れて書いたエピソードですので、ご堪能ください。