第11話 通信
―翌日
作戦を共にする部隊と合流をしたユーリたちデュラハン隊は、目的地である鉱山跡まであと少しまで近づいていた。
緊張感が高まる中でユーリはファフニールのコックピットで待機していたが、突然アイギスが問いかけてきた。
【少尉、一つよろしいでしょうか】
「何だ?」
【今回の作戦、少尉のかつての上官が関係してるとお聞きしました】
「随分と情報通だな。……誰から聞いた?」
【作戦に関連するとされる情報は自動でアップされるようになっています】
「便利な事で。で? 結局何が聞きたいんだ?」
【その上官、ジェイソン・グッドマンを憎いと思っていますか?】
「これはまた……不躾だな」
アイギスの質問に苦笑いを浮かべるユーリ。
それが質問の内容に対してか、それともアイギスの不躾さに対してかは本人にも不明であった。
【この問いが非常に失礼なのは理解しています。ですが行動パターンに変化があると思われる以上、当AIは聞かなければなりません】
「別にいいさ。こんな質問してきた事自体が驚きだけどな」
【当AIは学ばなければなりません。それがアームストロング博士から与えられた使命なのですから】
「……なるほど」
【少尉、お答え頂けるでしょうか】
その問いかけに対して、ユーリは深く深呼吸するとゆっくりと答え始める。
「恨みがあるか無いかと言われれば当然ある。アイツの命令のせいで死ななくてもいい奴が散っていった。だが憎いかと言われれば、少し違う気がする」
【それは、どういう意味でしょうか】
「さあな。軽蔑もしてるし最低だとも思っている。だが今でも憎いかと言われると疑問がある」
【少尉が言いたい事が、当AIには分かりかねます】
「だろうな。俺自身何言っているか分からん。だがアイギス、これから人間を学ぶつもりなら一つ覚えておけ」
ユーリはアイギスに向けて、真剣な様子で言葉を紡ぐ。
「人間っていうのは理性と感情の二つで動いているもんだ。そしてAIみたいに常に計算して行動できない」
【何故でしょうか? 正しいと思われるならその選択をするべきです】
「それをお前はこれから学ぶんだ。大変だぞ」
【……】
ユーリの言葉に何も答えずアイギスは黙り込む。
再び静まり返ったコックピット内で、再び集中しようとしていると通信が入った。
相手を確認すると意外な相手だったため驚いたが、ユーリは通信をすぐに繋げる。
「シュミット軍曹」
「このようなタイミングでプライベートな通信、申し訳ありません少尉」
通信をしてきたエルザの表情は何時ものようにクールであったが、どこか緊張しているようにも見えた。
「何の用だ? 緊張を紛らわしたいのならカレリンにでも」
「少尉はこの写真の人物に見覚えがありますか?」
ユーリの言葉を遮り通信映像越しにエルザが見せてきたのは、二人の子どもが並んでいるものだった。
「いや、どちらにも無い」
「……そうですか」
「シュミット軍曹。わざわざそんな事を聞くって事は、何か俺にも関係するのか?」
何かを堪えているようにも見えるエルザに、ユーリはそう問いかける。
意を決したように、エルザは写真をもう一度見せながら重い口を開く。
「ここに写っているのは私と双子の弟であるエリック。あなたと同じ少年兵でした」
「……そうだったか」
「初めから知っているとは思っていませんでしたが、もしかしたらという思いがあり質問させてもらいました。お時間を取らせてしまい申し訳ありません」
「言いたい事があるなら言い切った方がいいぞシュミット」
通信を切ろうとするエルザにユーリがそう言うと、彼女は一瞬動きを止め再び向かい合う。
「……この感情が八つ当たりなのは知っています。けれど、それでも! 何でアナタが生き残ってエリックは帰って来なかったの!? 私は! アナタが! 憎い!」
今までため込んできた思いを全て吐き出すエルザを、ユーリはただ黙って見ていた。
肩で呼吸するエルザに、ユーリはただ一言を口にした。
「謝る気はないぞ」
「分かっています。そもそも謝罪が聞きたい訳ではありませんから」
「シュミット」
「それに私情に囚われる気もありません。与えられた任務はやりきってみせます」
「ならいい。……生きて帰るぞ」
「隊長も」
今度こそ通信が切られたのを確認すると、ユーリは浅く息を吐く。
するとコックピット内に、いや艦内中にアラートが鳴り響く。
その中でユーリは、誰にも聞こえないほど小さな声で呟く。
「さて、行くか」
その眼は獲物を見つけた獣のように、鋭く研ぎ澄まされていた。
今回のエピソードは如何でしたでしょうか?
次回はついにユーリが再び戦場に舞い戻ります。
その活躍にご期待ください!