第8話 受領
「ユーリ・アカバ少尉。貴官を特務小隊の隊長に命ずる」
「はっ。受領いたします」
スコットから正式な命令書を受け取り、ユーリは返答をしながら敬礼をする。
しばらく真面目な空気が流れていたが、それを壊したのはスコットの方からであった。
「これでお前も正式に軍人だ。気分はどうだ?」
「まだ何とも。こんな命令書一枚渡されたところでな」
「ふっ、お前らしい返答で安心した。まあ座れ」
軍の施設内にあるスコットの執務室。
如何にも高官の仕事部屋といった雰囲気の部屋に、ユーリは居心地が悪いのを隠しもしなかった。
スコットは半笑いをしながら、ユーリをソファーに座るように勧める。
ユーリは何の躊躇もする事無く座ると、スコットが淹れたお茶を一気に口に含む。
「どうだ味は。お気に入りの茶葉なのだが」
「味の違いなんて俺には分からん。同意して欲しいならライアン中佐に頼んでくれ」
そう言いながらもティーカップを手放さないところをみると、気に入ったらしい。
スコットはユーリの素直ではない態度に怒る訳でもなく、ただ微笑むながら自分もソファーに座る。
「さて、あの三人とは上手くやれているか?」
「ん? ああアイツらの事か」
突然された質問に、ユーリは茶菓子に伸ばしていた手を引っ込めて言葉を選びながら返す。
「まあ、上手くやれてると思うぞ。向こうがどう思っているかは知らないけどな」
「そうか。選抜しておいて言うのもあれだが、もう少し揉めるものだと思っていた」
「三人共余計なプライドがないのは助かった。実力があるのは分かってくれたから言う事聞いてくれるよ」
アイシャとの一戦以来ミーヤとエルザともシュミレーターで戦いその実力差を見せつけ、その後は連携を深めるべく訓練を重ねていた。
未だ実戦はしてないが、それでも一先ず戦えるようにはなったと自分たちを評価している。
「上手くやれているなら何よりだ。まあ仲良くなりすぎても問題になるかも知れんがな」
「……はぁ、関係を持つかもってか? あり得ないだろ」
「分からんぞ人間関係、特に男女の仲というものはな」
「はいはい」
スコットの言葉に対して適当にあしらいつつ、ユーリは茶菓子に手を伸ばして一気に口でかみ砕く。
やれやれといった表情をするスコットであったが、思い出したように一つ質問する。
「そう言えばもう一人のレディとは上手くやれているのか?」
「?」
「アイギスの事だ、あれから顔を見せに行ったのか?」
「ああ、なるほど」
ようやくスコットが何を言いたいのか理解したユーリであったが、その表情は渋いものであった。
「何度かは。だけれど気が合わないと言うか、水と油と言うか。喧嘩寸前みたいな感じでいつも終わるけどな」
「……ブチ切れて壊す事だけは止めてくれよ」
「さっきから人の事を感情のままに動くと思い過ぎじゃないか?」
ユーリがジト目でスコットに圧力をかけていると、執務室の扉がノックされる。
「入りたまえ」
部屋の主であるスコットが答えると、初老と四十代と思える男二人が入ってくる。
「ユーリ、紹介しよう。ローランド大佐とジェイド少佐だ」
「……ユーリ・アカバ少尉であります」
状況は掴めなかったが敬礼するユーリに対し、二人も敬礼を返す。
「ローランドだ。君の事は少将から聞いている、共に戦える事が喜ばしいよ」
「ええ。私の事は気安くジェイドと呼んでくれ」
「どんな誇張を聞いたかは分かりませんが、……共に戦う?」
ユーリがどう言う事か悩んでいると、スコットが説明をしだす。
「これからお前の小隊には国内外を問わず飛び回ってもらう。その為の艦が必要だろう?」
「ああ、つまりお二人は」
「そう、君が乗る事になる戦艦『カゲロウ』の艦長と副長だよ」
「随分大盤振る舞いだな」
「これくらいは当たり前だ」
スコットはそう答えると、突然真剣な様子でユーリに対し重く口を開く。
「だがしてやれる事はここまでだ。これから先はお前が道を切り開いてもらわないといかん。頼むぞ」
「言われなくても、こっちもやれる事はやってやるさ」
「……ふっ、お前のその言葉は不可能を可能する魔法のような気がするよ」
スコットは再び笑みを見せると、立ち上がり三人に向き合う。
「では、お前の初任務について話そうか」
その言葉を聞いて三人の表情が引き締まる。
「今より二日後、ある過激派組織を壊滅して欲しい」
「過激派?」
「組織名は『アーストン解放戦線』。そしてこの任務はお前の過去にも関係するのだ、ユーリ」
その翌日、新西暦五十六年 四月中旬。
ユーリたちを乗せた戦艦カゲロウが、テルモ基地を出立したのであった。
寒さも和らいで、春らしくなってきましたが皆さまどのようにお過ごしですか?
季節の変わり目となると体調を崩す人も出てきますので、ご注意ください。
今回は第二章開幕。
ユーリたちの初任務を描きます。
何が待ち構えているののか?
ご期待ください!