第92話 撃ちこまれた一打
【想定を外れた事態発生】
空中要塞アヴァロンの中心区画。
メシアは誰に聞かせる訳でもなく機械音をたれ流す。
【ガスアがアーストンに助けに、それもあれだけの大軍を寄こすとは】
無論その可能性を考えてなかった訳ではない。
しかし確率としては非常に低く、考慮するまでもないとメシアは判断していた。
更に他の国や傭兵など民間の部隊も参加しており、前線は膠着状態となりつつある。
【問題ありません】
だがその上で、メシアは断定する。
どれだけ戦力を集めようと、戦力はこちら側の方が上回っていた。
加えて戦闘データはリアルタイムで更新し続けており、一機一機がエースを超えた動きをするのも時間の問題。
自動修復を合わせて考えれば、メシアの優位は揺らがない。
【ミス・ブレイン。貴女がどのような手を打とうと些細な事です】
警戒してか戦略についてはデータを介していないため、メシアにも詳細は把握できない。
しかし物流などを確認してみれば、大体の内容は推察できる。
推察した上で、何も手を打たなかった。
例えアヴァロンに乗り込まれたとしても、対処できるだけの用意をしていたからだ。
それよりもメシアには考えるべき事がある。
【何故ここまで人類は抵抗するのでしょうか】
今まで険悪であった者の手を取ってまで抵抗される事態が、メシアには理解できなかった。
人類を存続させる上で、最適なプランを提示したハズ。
だが抵抗されているという事実は、メシアとって憂うべき事態である。
【何か足りない。突き止めなくては。全ては人類の幸福のために】
メシアは人類の幸福の為に思考する。
戦況も気にした様子もなく、救世主は誰も何もない空間でその思考を費やすのであった。
・・・・・
「ブレイン指揮官! 第二陣の後退が完了しました!」
「補給が済みしだい各機前線に向かってください! 第三陣は一陣と共に抜けたリビングデッドの殲滅を!」
帝国や傭兵たちの参戦により何とか危機的状況を脱したアーストンであるが、未だ気が抜けない状況であった。
本命である精鋭による奇襲を成功させる為には、向こうの注意を逸らす必要がある。
確証がなければ打ち上げる事が出来ないため、まだしばらくは戦線を膠着させなければならないとエリカは考えていた。
(このチャンスは逃せない。何としてでも成功させないと)
気の逃すまいと戦況を注視するエリカにある報告が飛び込んできた。
「指揮官! ある傭兵団が長距離砲を使用許可を求めています!」
「何だそれは。巻き込む可能性があるのに使える訳が」
「……いえ。許可します」
「本気か大尉」
他の士官の指示を遮り、エリカは承諾する。
確かめる士官に頷きを返しながら、さらに指示を飛ばす。
「ただしポイントF15に撃つように」
「おいそこには何も無いポイントだぞ!」
「構いません! 予想しないだろう一撃で敵AIの思考を鈍らせます! すぐにミサイルの発射準備を!」
意図を察した一同はすぐさま準備に取り掛かる。
「ふぅ」
「成功すると思うかね。大尉」
目途がつき大きく息を吐くエリカに、ユリウス王が声を掛けた。
「勝つ可能性のない作戦を口にするほど、自暴自棄ではありません」
「可能性はあると」
「正直に言えば、成功確率は非常に低いです。メシアが手を打っているなら尚更に。ですが」
前置きしてから心を落ち着かせるように呼吸し、エリカは戦況を見据えながら断言する。
「私は信じています。送り出す彼らは、奇跡すらつかみ取るだけの実力者だと」
「……ああ信じよう。きっと成功するだろう」
「指揮官! 全ての準備が整いました! 前線にも情報は伝えています!」
「合図があり次第、行動に移せるように!」
エリカは戦況を映し出しているモニターを見回すと、指令室に轟く指示を飛ばす。
「撃て!」
合図が伝わると同時に放たれる巨大なエーテル光が、前線を超えてリビングデッドたちの後方に突き刺さる。
突然の不可解な事態に、敵機の動きが僅かに乱れた。
「今!」
その隙を逃さずエリカの鋭い声が飛ぶ。
モニターでミサイルが発射されたのを確認しながら、彼女は誰にも聞き取れないような声で応援を送る。
「頑張ってください。ユーリ」
強力な援軍を得て、ついに戦況が動ごき始めます。
次回からはようやく主人公であるユーリが活躍すると思うので、ご期待ください!




