第90話 襲来する転機
時は少し遡り、戦場となったエリンから離れたガスアとの国境基地。
通常であれば有事の際に対応できるだけのMTが待機されているが、今は最低限の戦力しか展開していない。
そして基地の司令部では若い士官が苛立ちを隠そうともせず歩き回っていた。
「今ごろ王都では国の命運を賭けた戦いをしていると言うのに! ここで待機してる他にないなんて!」
「少しは落ち着きたまえ。紅茶でも飲んで落ち着くといい」
様子を見かねてか歳を重ねた司令官が自ら紅茶を差し出すが、若い士官は逆に激昂し入っていたカップを叩い落す。
「今まさに! 国の行く末が決まる決戦が行われてると言うのに! のんびりと飲んでいる場合ですか! すぐにでも残りのMTをエリンに!」
「そこまでにしておけ」
「っ!」
温和で知られる司令官の初めて聞いたドスの効いた声に、若い士官は上っていた血が一気に引く感覚がした。
黙った士官を睨みつけながら、司令官は浮足立っていた周りにも聞かせるように言い聞かせる。
「確かにいま仲間たちが命懸けで戦っている。ここで待っているだけと言うのは、精神的にも辛いだろう」
「……」
「だがここ放棄して勝てたとして、その隙にガスアが侵攻してきたらどうなる? 結局は領土を大きく削られてしまう」
「あっ」
「その不安を無くすために我々は今ここにいる。他でもない、我々にしか出来ない戦いをするためにな」
徐々に穏やかになっていく司令官の声。
比例して自分がどれだけ自分勝手だったかと意気消沈する士官の肩に、司令官は優しく手を乗せた。
「分かってくれるな?」
「取り乱して申し訳ありません。司令」
「構わんよ。それだけ君が国の事を思っている証拠なのだから。紅茶、飲むかね?」
「頂きます」
一気に司令部の空気が緩和され安堵の様子を見せる者もいる中で、司令官は自ら新しい紅茶を注ぎ若い士官に手渡す。
士官が適温となったお茶に口をつけた時、あるオペレーターがあらん限りに叫んだ。
「し、司令! レーダーに感あり! 友軍ではありません!」
「!?」
衝撃の知らせに場にいた全員が動揺を見せる。
すぐさま駐留してる部隊に迎撃準備をさせるため、司令官が指示を出しかける。
だが指示が発せられる前に、別のオペレーターが叫ぶ。
「司令! 通信が!」
「っ! どこからだ!」
「そ、それが」
通信してきた相手の名を聞き、司令部はさらに混乱していた。
―エリンと離れたこの場所にて、戦況を左右する転機が訪れる。
・・・・・
(まずい)
エリンに設置された作戦指令室にて、指揮官であるエリカは内心焦っていた。
周りに悟れないよう努めてはいるが、作戦を把握している者がいれば状況が悪い事は察せられるだろう。
(第二陣が思ったよりも押し込めてない。このままだと第三陣まで押し込まれるのも時間の問題)
想定以上のリビングデッドの大軍。
そして敵戦闘AIの強化という状況で、第二陣が奮戦しているのは間違いない。
だがそれでも、この不利的状況を覆すには至っていない。
選抜されたエースたちを空中要塞まで届ける弾道ミサイルが迎撃されれば意味がなく、一機でも多くのリビングデッドを防衛線に引き付ける必要あった。
(だからこそ攻めを意識したこの布陣。……なのに!)
圧倒的な物量と再生力による純粋な力押し。
とてもAIが繰り出すように思えない戦略に、エリカは自分の無力さに嫌気がさしてくる。
(落ち着いてエリカ・ブレイン。まずは少しでも敵の注意をこちらに向けないと)
エリカは荒れ狂う心を落ち着かせ、いま打てる手を考えていく。
だが挽回の一手など簡単に思いつく訳もない。
時間が無駄に経過して、エリカの脳内が沼に囚われていた時である。
「指揮官!」
他の声が重なり合っている中、やけにあるオペレーターの呼ぶ声が沈んでいたエリカの意識を呼び戻した。
「何かありましたか!?」
「レーダーに大軍の反応が!」
「!? すぐに映像をメインモニターに!」
エリカの指示に従い、反応が確認された方角の映像が映し出されると指令室にいた全員が驚愕する。
その大軍はリビングデッドでも、ましてやアーストン軍でもなかった。
「……なぜガスアがここに」
―アーストンと対をなす大国であるガスアの大軍であった
まさかの軍勢登場で混沌となる戦場
先の展開がどうなるのか?
ご期待ください!




