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ロサセアエ  作者: 炯斗
8/8

ヤエヤマブキは結実しないので

咲いていたのは、ヤエヤマブキの花だった。マオの頭に着いているのと同じ花だ。

「さいたばかりですので、いまならすこしかおりがするとおもいます」

言われて鼻を近付ければ、ほんのり甘い、微かにバラのような香りがした。

「ヤマブキに香りなんてあるんだな」

「さききってしまえばわからないとおもいます。ヤエヤマブキはけつじつしないので、花ふんをはこんでもらうひつようもありません」

「種が出来ないってこと?」

「はい。やえざきのヤマブキはめしべもたいかしおしべは花べんになっていますので、かぶわけやさし木でふえます」

「へ~」と返しながら誠は花を覗き込んでいる。

開花に長時間関心が持てない譲は冷蔵庫からアイスコーヒーを取り出しスマートフォンで朝のニュースに目を走らせた。特に気になるトピックも無い。政治家の失言を掘り返しタレントの恋愛関係を暴き立てる、いつも通りの平和な世間だ。他人事であれば平和そのものだが、自分に降りかかってくれば大問題だ。少々酷だが、マオと楽しげに歓談する誠に現実を思い出して貰う事にする。

「ナル、朝飯食ったら一旦帰れよ」

「え~~、うん…」

歯切れは悪いが飲み込んだ。せめて、朝御飯はゆっくり食べる事にした。


「マコトさんは、なぜかえりぎわげん気がなかったのですか?」

「本人に訊け」

そりゃあ憂鬱だろう。死んだと聞かされていた父親が現れて母親が荒れているのだ。千早が千早っている間は譲だって会いたくない。流石にもう理性は取り戻していると思いたいが、憂鬱には違いない。

そうですか、と小さく応えたマオからハラリと一片落ちた。バラの花弁だった。



片桐譲。一ノ瀬誠。一ノ瀬は父の名字なんだと思っていた。祖父母が離婚して姉弟が別姓になっていたとは知らなかった。祖母は誠が生まれる前に亡くなっていて、母が「実家」と言って偶に行くのは祖父の家だった。だから、特に疑問に思わなかった。まさか、母が結婚もしていなかったとは思いもよらなかった。

「吃驚する程クズじゃん」

生物学上の父を名乗る男に引き合わされ、お帰り願ってから、誠は母親を見下ろした。母親は今腹を抱えて転がり回っている。

「あはははははっ、あはは、ムリ、今コメントムリ!」

「ちょっとぉー」

お帰り頂く際に放った言葉が、それを受けての相手の顔が、相当ツボに嵌まったらしい。

乱れた息で涙の浮いた眼を擦りながら漸く立ち上がり、まだ時折震えながら手近な椅子に腰を下ろした。

「はーっ、笑える…ぷふ…」

「変なの家に入れちゃダメだよまったく」

「そうね。それはそう。ごめんね~」

やっと落ち着いたのか、千早は深く息をして誠に顔を向けた。爆笑の余韻の所為か、その顔は微笑んでいた。

「でも誠。残念だけど、あれはお父さんにはしてあげられないからね」

「流石にもう解ってるよ!『みたいなもの』って話!」


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