それは本当に『真実の愛』ですか?
久しぶりの短編です。『ざまぁ』された側の反省のお話です。
どうされたんですか、王太子様がこんな武器庫に。
見ての通り、鎧兜や武器の手入れをしているんですよ。
えぇ、一人でですよ。
私は雑用係ですからね、装備や武器の手入れもすればトイレ掃除だってしますよ。
それでどうしたんです?
え? 国王様から私に相談してこい、と言われたんですか?
私はただの雑用係ですから王太子様の相談に答えられるかどうか……。
え?真実の愛に目覚めた?
男爵令嬢を好きになってしまって婚約者である公爵令嬢と別れたいんだがどうしたらいい?
……あぁ〜、なるほどね。
あの野郎、人の黒歴史をついて来やがったか。後で文句言ってやる。
あ、いえこちらの話です。
で、真実の愛ですね。
私の経験から言うと愛とはお互いの理解があって成立する物だと思っています。
王太子様は婚約者と最近話していますか?
忙しくて話す暇がない?
それは婚約者が王妃になる為に勉強をしたり学園での生活を円滑にするために行動しているんですよ。
婚約者なんだから当たり前?
では王太子様は婚約者の為に何か努力はされていますか?
男爵令嬢と仲良くしている時間があるのならば婚約者の為に時間をかけた方がよろしいかと思います。
……一つ昔話をしましょう。
十年前の話です。とある国に王太子がいました。
その王太子は大切に育てられ幼い頃には婚約者も出来て順調満帆順風満帆、将来安泰でした。
ですがその王太子には一つだけ欠点がありました。
それは『愛され方』は知っていても『愛し方』を知らなかったのです。
ずっと周囲から褒められ愛を与えられた結果、彼は『愛されるのが当たり前』だと思っていたのです。
それは婚約者に対してもそうでした。
まだ幼い彼にとっては婚約者との関係よりも友人達と遊ぶ事が優先でした。
一応お茶会等もしていたけど婚約者の話も聞き流すのみ。
プレゼントは贈ってはいるんですがそれも人任せ。
えぇ、かなり最低の人間でした。
これが幼い頃の話だったら良かったんですがずっと続いたんです、ずっと。
今考えてみたらいくら婚約者だからと王太子に付き合っていた彼女の事を思うと申し訳なく思います……。
そんな王太子の運命を変える出来事がありました。
貴族学院に入学して最後の学年の時にとある男爵令嬢と運命の出会いをしてしまったんです。
えぇ、王太子様と一緒です。
その男爵令嬢との出会いの場は学院内にある王族しか入れない庭園で男爵令嬢は迷って入ってきてしまったそうです。
ただね、今考えてみればおかしな話なんです。
だってその庭園の入り口には『王族以外立入禁止』と看板が出ているんです。
しかもご丁寧に入学の時の説明会でもちゃんと説明しているんです。
なんで男爵令嬢は入ってきたんですかね?
しかし、その王太子はそんな事も考えられないくらいに男爵令嬢に惚れ込んでいきました。
男爵令嬢は王太子だけでなくその取り巻き達も虜にしていきました。
それもおかしな話だったんですよ。
どうして男爵令嬢に夢中になっていたのか今となってはわかりません。
結論から言えば男爵令嬢は魅了持ちだったんです。
えぇ、魅了持ちは人間関係を崩壊させる禁術の一つで国に報告しなければならない義務があります。
とある国では魅了持ちのせいで貴族達が血生臭い争いを起こして潰れた、という話もありますからね。
王太子はまんまと男爵令嬢の策中にハマってしまったんです。
そして卒業記念パーティーの時に一方的に婚約破棄を宣言してしまったんです。
公爵令嬢にあらぬ罪をかけてね。
その時に王太子が言った言葉は『真実の愛に目覚めた』と。
まぁ、公爵令嬢の罪なんて証拠なんて無いですしすぐに論破されて王太子とその一派は拘束されて会場から追い出されましたよ。
当然国王からお叱りを受けまして王太子の身分剥奪、王籍抹消の上、国外追放となり全てを失いました。
何せ婚約者の父親である公爵は国の実力者でもあり婚約者の事を溺愛していてこの件に関してかなり激怒してましてね、反乱を起こしそうな勢いだったそうですよ。
国王としては国が混乱する事態になるかもしれないのであれば息子を切るのは当然の結果でしょうね。
さて全てを失った王太子はここに来て漸く自分の過ちに気づきましたが後の祭り。
放浪した結果、昔の友人の一人であるとある国の王子を頼ったんです。
……まぁ散々笑われて馬鹿にされましたよ、その王子に。
で、お情けで騎士団の雑用係として働かせて貰っているんです。
……もうお気づきかもしれませんがこの話は全て私の話なんですよ。
私は愛が何たるかを知らない結果、愚かな選択をして全てを失いました。
王太子様、一時の感情で行動すれば身を破滅させてしまいます。
冷静に考える事が必要なんです。
貴方は王族という特殊な立場なんです。
ちゃんと婚約者と関係を築いてあげてください。
そして自分に問うんです。
『それは本当に真実の愛ですか?』と。