旅の始まり ~1~
木洩日はその晩、その数日いつもそうしていたように『ふぁーめい』と共に眠った。
まだ辺りが暗がりに包まれた早い時間に目を覚まし身を起こすと、木洩日は自身の心が凪いだ落ち着きを見せていることに気付いた。しばし布団の裾を握りながらじっと佇むと、再び横になり、『ふぁーめい』のほうへと身を寄せて目を瞑った。
すると、ふわりと柔らかな腕が背に回り、木洩日はその身ごと『ふぁーめい』の胸へと抱き寄せられた。
「……木洩日」
身を包むような優しい声のするほうへ顔を向ければ、そこには、もう見慣れた『ふぁーめい』の穏やかな顔つきが。
それも今日まで。そのことを思い出し、胸の奥が少しだけきゅっと痛んだ。
「ごめんね、起こしちゃって」
「フっ。つまらないことを言うんじゃないよ。……大丈夫?」
「うん、思ったよりもずっと落ち着いてる。……不思議ね。何が待ち受けているかも分からない旅に出る直前だというのに。まるで、ずっと前からこのときのための準備ができていたように感じるの」
「そう。…………」
『ふぁーめい』はなお一層、木洩日の頭を強く抱き留めた。
木洩日はほんの僅かだけ目を見開くと、少しだけ瞳を潤ませて、身を任せるように、静かに目を瞑った。
まどろみに浸かる意識の狭間で、木洩日は『ふぁーめい』の呟きを聞いた。
「幸せを呼ぶ鳥のように、あなたが求めるものが近くにあればいいのに」
木洩日にはその言葉が、彼女にしては珍しい弱音のようにも聞こえた。
木洩日は微笑み、ほとんど無意識でその呟きに返答した。
「あったよ。貰ったの。近くにありすぎて気付きにくい、私の求めた大切な幸せが……」
ぽしょぽしょと呟いて――木洩日はまどろみに落ち、少しの時間、浅い眠りに身を任せた。




