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【渡し神】のコマと予感の運命 ~1~

「木洩日。長が呼んでるよ」


 一日の仕事を終え『ふぁーた』、『ふぁーまい』と折り紙などで遊んでいた木洩日の元へ、玄関扉である布を捲り『ふぁーめい』が姿を見せた。


「長が? なんだろう?」

「急いで。木洩日を探しに来たお方が、長のところで待っている」

「え!?」


 木洩日は愕然とした面持ちで立ち上がり、茫然と『ふぁーめい』を見つめた。


「私を……!?」

「そう。さあ急いで。――あんたたちはここで待ってなさい」

「そんなぁ!」


 急いで立ち上がろうとした『ふぁーた』に『ふぁーめい』は睨みの視線を送り、それを受けると『ふぁーた』はやるせなく項垂れた。

『ふぁーた』はため息をつき木洩日に顔を寄せると、小声で囁いた。


「なあ、あとで何があったか教えてくれな?」

「うん、分かった。行ってきます」


 木洩日はどうしようもなく高鳴る胸を押さえながら『ふぁーめい』の元へと駆け寄った。

 長の住処に向かう道中、木洩日の頭の中でいくつもの考えがぐるぐると渦巻き、それに眩暈さえ覚えた。


(誰だろう……?)


 まず真っ先に思い浮かべたのは、お父さんとお母さんの姿だった。顔が掠れて上手く思い出せないが、木洩日の胸にはニライに来てからは感じなかった不思議な温もりの熱が宿っていた。

 長の住処の前までくると、いよいよ胸のドキドキは抑え難いものになった。走ってもいないのに呼吸は早く、頭は白く染まり、手足の先に痺れを感じた。


「長、『ふぁーめい』と木洩日が入ります」

「うん。入りなさい」


『ふぁーめい』が入り口の布を捲った。

 先に木洩日を通そうと、重たい布を頭の上の高さまで持ち上げ、そのままでいたのだが。


「木洩日?」


 しかし、木洩日の足はそこに根が生えたように動かなかった。

 全身でふるふると小刻みに震え、不自然に速く苦しそうな呼吸を繰り返している。それがどうにも抑えられない様子だ。

 ――『ふぁーめい』は微笑み、木洩日に布を持ち上げているのとは逆の手を差し出した。


「深呼吸はしなくていいよ。落ち着くまで手を握っていな」


『ふぁーめい』の手を取り、その温度に触れるうちに、木洩日の呼吸は次第に穏やかなものへと変化した。体の震えも止まった。


「……ありがとう、『ふぁーめい』」

「ん。さあ、潜りな」


 木洩日は少し不安定な足取りで、しかし意を決したように大股で、布の内側へと踏み入った。




 ――このとき、木洩日はきっともう、《《知っていたのだろう》》。




(誰だろう。誰だろう……?)


 やはり思い浮かぶのはお父さんとお母さんの姿だったが。

 ――木洩日を待っていたのは、そのどちらでもなかった。



 長の隣で膝を正し座り木洩日を待っていたのは、木洩日とそう大して歳変わらぬ少年だった。

 美しい白の巻き毛を持つ少年。神職が着るような紅白の装束に身を包んでいる。木洩日はそれを見て神社の神主がそういった装いをしていたことを思い出したが、木洩日の知るそれとは僅かに異なり、少年のそれはより動きやすそうな装いであった。

 少年の両眼。どこまでも澄んだ青色であり、木洩日はこれより美しい色を知らなかった。――それを一見しただけで、その少年が人知を超えた神格を纏う者であることが理解できた。



 木洩日がその少年に何かの反応を示す余裕はなかった。

 部屋に入った木洩日の姿を認めるなり、少年はハッとした顔つきになり勢い良く立ち上がったのだ。


 

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