夏の終わり。その3
ちゃちゃっと終わらせよう・・と、宣言したキリルさんは、違う部屋へと私達を案内した。
そこは大きなサンルームで、全面ガラス張りで出来ていた。
外は綺麗な庭園が見える。ここから出られるのかな・・。
室内にはギッシリと植物が置いてあり、中央には大きな木が生えている。そして、白い丸い物体がいくつも木々の周りを浮んでいる。
「・・・?セレム・・何か見覚えのあるものが浮いてる・・」
「ああ、あれは森の精だ」
「あ、やっぱり?ここにもいるんだね・・。おもちも連れてくれば良かったかな・・」
「おお、カエさんは森の精をしっているんだね!」
キリルさんは、ニコニコとこちらを見て聞いてくる。
「あ、はい・・コルトのシューレと言う森で会いまして・・、ええとお友達です」
「あまり懐くことがないのに、それは珍しいな!」
「そうだったんですか!?」
おもちは、モルの実あげたらすぐに懐いてくれたけど・・。もしかして、美味しい物が好きなのかも。そんな風に考えていたら、ラウラさんが
「ここエルフの国は、森の精の国とも呼ばれているのよ。だから、よく見かけると思うわ」
「そうなんですね〜。確かに森が多いって聞きました」
うふふ・・と柔らかく笑うラウラさんに、めっちゃ癒される〜。
セレムのお父さんとかお母さんにはまだ会ってないけど、こんな感じの人なのかな・・。
そうして、少し行くと植木鉢がいくつか置いてある所へたどり着く。
キリルさんは、鉢を2つ持ってきて、私たちの前に置いた。
「右側が、ドル・・という国から来た苗木。左側が、セレム殿の国から輸入した苗木だ」
「・・これが・・」
セレムがその苗木をじっと見る。
苗木・・って、私が発芽させたやつかな??な、なんだろう・・・ドキドキしてスカートをぎゅっと握る。
「ここ、ノルウェルはそこまで穢れがない場所だったが、どういうわけか・・穢れを清めるはずの苗木を植えても、何も起こらない・・。それどころか、広まっていこうとするんだ・・」
「え?!そんな・・・」
私は思わず声が出てしまって、慌てて口を閉じる。
・・でも、神様にはちゃんと任せれているはずなのに・・。どうして?動揺しているのがすぐ分かったのか、セレムはそっと手を握ってくれる。
「カエ、苗木を調べてもらえるか?」
「うん・・・」
セレムと一緒に苗木の前へ行き、私はしゃがむと右側のドルという国から来た苗木を、そっと触り、目を瞑ってみる。
瞬間、真っ暗な視界にスポットライトを浴びるように、苗木が映り、そこへ黒い穢れ・・だろうか、液体のような穢れがかけられている・・・。静かに苗木に黒い液体を何度もかけている様子にぞっとする。もしかして・・苗木を穢れさせたんだろうか・・・。
そう思ったら、せっかく神様が穢れを治そうとしてくれたのに・・と、腹が立ってきた。
浄化しようとしてくれる苗木にひどい事をするなんて・・!
触っていた苗木にパワーを流すイメージを浮かべる。
苗木さん・・ごめんね。
元気になってね。
穢れを・・綺麗にできますように・・。
そうすると、触れていた所がほかほかして、苗木が喜ぶような気配が伝わる。治ったらいいな・・。
ゆっくり目を開けて振り返ると、皆が驚いている。
「え?何かありました??」
「カエ、足元を見てみろ・・」
というので、見てみると・・さっきまで浮いていたおもち・・でなく、森の精達が足元から私を、じぃっっっと一斉に見つめていた。な、何ーーーーー????
「へ?え?いつの間に・・・???」
「カエ、浄化したのか・・?苗木に触っていたら、一斉に寄ってきたぞ」
「ああ、なるほど・・」
キリルさんは、浄化・・という単語を聞くと、思い当たることがあったのか、浄化した苗木を触る。
「・・・・・・・つまり、これは穢れていた苗木・・ということだな?」
さっきまでの明るい声とは打って変わって、低い声が響き、私は身をかたくした。