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おまけな話1


朝、空が白み始めた気配で目が覚めた。


ゆっくりと目を開けると、腕の中で、静かに寝息を立てるカエがいる。

目の毒になるので、カエの肩にある毛布を少し上にあげ、顔に掛かった髪を指でそっと耳の後ろへと流す。



昨日の神殿での記憶を思い出す。

神の間で、カエが来る事になった経緯を聞いて、最初は胸が潰れそうだった。



自分は確かに、世界のために・・力を尽くした自負はあった。そのおかげで神の力の一端となれたなら・・喜ばしい事だ。でも、それでも、カエがこの世界に来た事が、果たしてよかったのか・・とも、思った。


言霊の力によって、植物や大地に力を与える事もできるほどの力を神から託された存在。・・・そして、なによりも大切な人・・・。唯一の片翼。



失う事を考えただけで、恐ろしくなる。

それだけ愛しい人なのに・・。


この世界の問題を解決する為とはいえ、一方的に何の関係もないのに、カエを呼ぶ形になった事を、俺は複雑な心境で聞いていた・・・。

涙が流れた顔を見た時は、本気で動揺した。


それなのにカエはあっさり、自分を不幸な人間だと思って欲しくない、俺に会えて嬉しい・・と、伝えてくれた。



怒ってもいい・・、泣いてもいい、なじってくれたって構わない状況なのに。


あっさりと全て必然だったと、神に語るカエに強さと優しさに、どうしようもなくなった。離れたくない、そばにいたい、ずっと笑っていて欲しい。


そう思ったら、神の御前だというのに抱きしめてしまった・・。



そこからは怒涛の勢いだった事は認めよう。

なにせ片翼は、半ば諦めていた存在だ。


あちらの神が、送ってくれた愛しい人だ。確実に、絶対に、自分の元で幸せにしたい。1秒でも早く。


そう思ったら、ローニャを始め・・皆気付いていたのだろう。

驚くほどあっさりと結婚式の準備が整った。

・・カエに、結婚式の準備は本当は3ヶ月から6ヶ月くらいはかかる・・と、言わなくて良かった。カエの事だ、恥ずかしがって、全力で逃げようとするだろう。



慌てふためくカエを、出来る限り安心できるよう、声をかけようと思っていたのに、ドレスを着て、喜んでいる姿があまりに可愛らしくて、言葉が上手く出なくなってしまった・・。可愛いとは、伝えられたが・・、不甲斐ない。



カエが起きたら、たくさん伝えようと思う。


そっと寝ているカエの寝顔を見て、起きた時にかける言葉の練習を頭の中でしてみる。



うん・・、まず可愛い・・だな。

結婚式で、さくらという花に見惚れている横顔が美しかった。


それとドレスも本当に似合っていて、海での思い出をまた作りたいから、海でドレスを着た姿を撮らせて欲しい・・。笑った顔を、俺もたくさん撮りたい。小さい俺だけ、ずるい・・。


その際、海では足を出さないように、しっかり言わなくては・・そう思って、ちらりと昨夜の事を思い出す。



真っ赤に染まった頬が可愛くて、何度もキスした事、

男性と違って、柔らかいんだな・・と、思った事、

恥ずかしそうに目を伏せた表情が、胸を鷲掴みした事、



思い出すだけで、胸の奥が愛おしさで一杯になる。




「・・・くそ、やっぱり俺ばかりが好きな気がする」



一人呟くと、カエが目を覚ました気配がする。



目が合うと、途端に真っ赤になり「ひぇええ・・」と、毛布をあげる。

なぜ上げる・・これから、脳内で練習した成果を見せつける予定なのに。そう思って片翼でなく、カエ本来の匂いを嗅ぐと、甘い香りがした。




まずは、「可愛い」から・・始めよう。


「カエ・・・」


そっとカエの掴んだ毛布を下ろして、じっと見つめて、言葉を紡ぐ。

最後はもちろん・・「愛してる」だな。


そう心に決めて。








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