いざ異世界旅行!その20
ひとまず今日はお屋敷でゆっくりして、薬ができる、できないに関わらず、少し早いけれど帰ろう・・とセレムが話すので、アイシェさんに伝えに行く。アイシェさんは、大変残念がってくれたが、セレムは頑なに「帰る!」と、譲らなかった。まぁ、一回言い出すと、譲らないですよね・・セレム君。
アイシェさんは、仕方ないなぁ・・という顔をして
「カエちゃん、いつでも遊びに来てね!」
と、心強いお言葉を述べてくれたので、しっかり握手しておいた。セレムが絶対阻止するって目をしてたけど、さらっと無視しておいた。
せっかくだから・・と、アイシェさんは庭園を案内してくれて、咲き誇る花に「綺麗〜!」と言ったら、もっと咲き出してしまって、お花に埋れてしまった・・。お花さんの本気恐い・・。
そんな花もしっかりカメラで撮っておいた。
部屋へ戻って一息つくと、アルバムを作ろうと思って、ローニャさんにノートとナイフを用意してもらう。
机に撮りためた写真を置き、ノートに写真のサイズくらいの大きさにナイフで切れ目を入れて、写真を挟み込む。横でそれを見ていたセレムは、目をパッと輝かせて面白そうに見ていた。
「写真を、こうしてまとめるのか!面白いな!」
「そうでしょ〜?時系列にまとめると、こうしたなぁ・・とか、思い出せるの!」
「ふむ・・、あ、もしかしてアイシェ姉さんの分も作ってるのか?」
「うん!お世話になったし・・。喜んでくれるかな?」
「もちろん!」
ちびっ子セレムに太鼓判を頂いたので、写真を見ながらアルバムを作っていく。
最初はぼやけた感じのちびっ子セレムが、次は綺麗な画像で写っている。
花束が写っていたり、アイシェさんと買い物をしている姿や、ドレスを着ている私だったり、いつの間に撮ったのか、眠っている私もいたり、海や、砂浜、作った山やトンネル、川や、夕陽が映る水面、星光の虫達や、星空・・と、様々な写真が並ぶ。短い間だったのに、楽しくて・・もう終わっちゃうんだな・・と、ふと切なくなる。
「・・セレム、楽しかったね」
「またどこか出かけるか・・」
「うん。あ、またここにもまた来たい!」
「カエが望むなら」
答え方に、気障だなぁと笑ってしまう。
綺麗な蒼い瞳がじっとこちらを見ている。
「カエが喜んでくれて嬉しい」
「・・・セレムは、小さくても大きくても、同じ事を言うね」
「・・・俺だからな」
二人で顔を見合わせて笑ってしまう。
私も喜んでくれるのは嬉しいんだけどね。
夕食の前に、アルバムをアイシェさんとリファートさんに渡すと、アイシェさんは泣きながら喜んでくれたので、びっくりした。離れがたくなっちゃう〜〜って泣きながら言うものだから、私まで泣けてきた。結局二人で抱き合って泣いてたら、間にちびっ子セレムが入って邪魔してきた。
そうして、アイシェさんと色々話してから、セレムと部屋へ戻る。
ちなみに、体を戻す薬は明日仕上がるらしく、悔しがるセレムを横目に、私は大いに安堵した。
でっかいベッドも見納めかぁ〜と、思いつつ、もはや戸惑いなくベッドに寝転がる私を、セレムは複雑な目でこちらを見る。なんだよーちびっ子のくせにー。
「セレム、もう寝ようよ」
「・・・くそ・・体が戻っていれば・・」
「戻ったら、絶対一緒に寝ないよ」
「・・・・・・・・・・・寝る。」
セレムは、ブツブツ言いながら一緒に布団に入る。
その様子に思わず笑ってしまう。いつもはすっぽり抱きしめられてしまう私だが、昨日のように抱きしめてみた。と、セレムはピシっと音がするんじゃないかと思うくらい固まる。
「ふふ、ちびっ子セレム可愛いなぁ〜。ずっとこうだったらいいのに」
「よ、良くない!!!カエ・・あの、もう・・」
腕の中で、セレムがゆでだこみたいに真っ赤になっていた。
あ、そっか・・中身は大人だった・・。
そっと体を離して、頭を撫でるだけにする。
「いつもありがとうセレム、おやすみ」
「おやすみ・・カエ」
異世界旅行、最後の夜は静かに更けていく。またいつか一緒に出かけられたらいいな・・そう思いながら。