いざ異世界旅行!その18
「・・・・あれ?」
顔を上げると、まだ夜・・なのかカーテンの隙間から見える空には、星が浮かんでいた。・・・寝ちゃったのか・・。起こしてくれて良かったのに・・。きっとセレムが寝たまま連れて帰って来たんだろうな。
「・・・・ん・・・セレム・・・?」
思わずベッドの中を見ると、誰もいない・・。
ホッとため息をつく。
いやー、流石に大人のセレムと一緒に寝たら、大変なことになるもんね。
はー、安心安心。
私は再び布団の中へ潜り込もうとすると、ふわっといい香りがする。
「・・・起きたのか?」
私の足元のベッドにセレムが腰掛けていた。
一瞬、間が空き、私は瞬時に布団へ潜り込む。
「寝ました」
「嘘つけ、起きたろ」
「爆睡です。お休みなさい」
布団を持つ手に力を込める。絶対出ない。
「・・・今日は、ありがとう」
ん・・・?
頭の上辺りを、ポスっとセレムが手を置く感触がする。
「バシェ国は、戦争に加担してなかったんだが、巻き込まれて・・本当に大変だったんだ。穢れも、戦争の爪痕もひどくて・・、アイシェ姉さんも、かなり復興の為に駆けずりまわっていた・・。だから、カエの植物の力で、土地が浄化されて、星光の虫が帰って来た時、本当に喜んでいたんだ・・」
私は、そろっと布団を持つ手の力を抜き、顔を半分ほど出す。
「・・・そうだったの・・・?」
「ちょうどこっちへ来る前に、星光の虫が再発見されたらしい。この国の民にとっても、希望の知らせだったんだ。30年間・・ずっと穢れで苦しんでたからな」
「30年間・・・」
人が成人してしまうくらいの年月だ・・・。
「カエに、返しきれない恩を受けたって・・」
「ええ・・?種を発芽させたり、花を咲かせただけだよ?むしろ、私の方が、返しきれないくらい優しくしてもらってるのに・・」
「・・・そんな風に言えるから、この世界の神は、カエに言霊の力を授けたのかもな・・」
「いやぁ・・そこまで優しくないって・・、あ、これ前も言ってたね」
私が笑って話すと、セレムも思い出したのか、静かに笑う。
ああ、いいな・・こういう穏やかな時間。
「ねぇ、神様にお礼をいう場所とかあるの?お礼を言いに行きたいって、ずっと思ってたんだ・・」
「それなら神殿だが・・こちらにもあるが、コルトで最初にカエを見つけたから、国の方がいいだろうな。帰ったら一緒に神殿に行こう」
「うん、ありがとう・・」
いきなり異世界に来て、色々あったけど・・
優しい人達に会えて、私はラッキーだったなって思う。
植物を発芽させるだけ・・って思っていたけど、こんなに役に立てたのも嬉しい。
そう思ったら、安心してきて・・眠気が戻ってきた。
「・・・・カエ?」
セレムが頭を撫でるから、気持ち良くて、瞼が重くなる。
「もう眠い・・」
と、おでこにチュッてキスされる。
外人か!あ、外人か・・いや、異世界人か・・なんて、まどろみながら考えていると、瞼に、頬に・・とキスが降ってくる。ふわっといい香りがする。
あ、これ・・まずい???
「セレ・・」
目を開けて、止めようとしたら、蒼い瞳がジッと熱を持って見つめてくる。
ドキッと、胸が大きく鳴って、止めようとした手を絡め取られると、言葉が出なくなってしまう。
「・・・・カエ・・・好きだ」
言葉と一緒に、セレムが唇に触れそうになった瞬間、目を瞑る。
シュン・・・と音がして、体に掛かっていた重みが軽くなった。
あれ?不思議に思って、目を開けると
8歳児セレムが呆然と私の上に座ってる。
「セレム君?!!」
ちびっ子セレムは、自分の顔をペタペタと触り、手をじっと見たかと思うと、がくりと項垂れ、
「・・・・・・・なんで、今??!!!!」
と、悲痛な叫びをあげる。
あれ、中身はセレム自身らしい。