表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
51/118

王子の独り言13

花畑になっている場所の前で、カエの名を何度も呼ぶが、姿が見えない。

気配を辿っても、魔力を辿っても、何も感じられない・・。

しゃがんでいた場所に足跡もない。



この世界から・・まるでいなかったかのように・・。


ザッと体から血の気が引く音がする。


現実を受け止め切れない体が小さく震える・・。



護衛の騎士達と周囲を探すが、気配をまるで感じない。

魔物が出たとしても倒す事は容易だが、何も装備していない状態で長期の滞在となれば心許ない。苦渋の決断だが、一旦転移して城へ戻り、急いでシューレの森でカエを探せるように整える。


水音がしたので、川も関係しているのか・・・?

だが、あそこはただの花畑だ・・・。


ハーリカと兄達に急ぎ連絡を入れ、シューレの森についての資料を探してもらう。


管理していた30年前のシューレの森の地図を広げ、地形を確認する。

川は近くに流れているのは、以前から知っているが、確認できている現状の地図を見比べても、変化は見られない。あの水音はなんだったのか・・。どうしても引っかかるが、時間ばかりが過ぎてゆく。


毎日のように感じていたカエの気配がない世界。

やっと会えたと思っていた片翼。


・・いや、片翼でなくても、力がなくても、カエという存在が、こんなにも大きくなっているのに・・もし、もうこの世界から帰ってしまったとしたら・・・。


ギュッと腕を掴んで、恐ろしい考えを必死に否定する。


カエのいた部屋に、何か手がかりはないかと入ると、朝活けた花束が見えた。

照れ臭くて、顔を見れなかった・・・。

朝食を一緒に取れなかった・・。

朝、挨拶をうまくできなかった・・。


全部、全部、もう一度朝からやり直したい。

後悔ばかりが押し寄せてきて、胸を掻き毟りたくなる。


「・・・・・・カエ」


いつも仕方ないなぁといった顔で、笑いながら返事をするカエの声が聞こえず、俺の声だけが部屋に沈んで消えていった。


2日目、バリス兄さんが大量の資料を持って、転移してくる。

ろくに休んでいない俺を見抜いて、少し休め・・と話すが、そんな気にはなれない。


バリス兄さんと、コルト国の地理の歴史の本を、地図で確認しながら入念に調べていく。昔は鉱山もあったとされるシューレの森、地盤沈下・・、水の流入・・、川の増水、そして洞窟・・。


洞窟・・・。


でも、あの花畑に洞窟らしい入り口はなかった・・。

いや、昔はあったとしたら・・?


バリス兄さんも、そこが引っかかったらしい。

資料を取りに一旦戻り、俺は一人、カエの気配が感じられるようシューレの森へ行く用意をする。何も食べていない俺を心配し、ローニャが「カエ様が育てたモルの実です・・」と、用意してくれた。・・・正直、食べる気なんてなかったが、カエの名前を聞き、持っていく事にする。


シューレの森へ転移し、カエの気配を辿れない事に苛立ちと焦りばかりが募る。


あの小さな体は、怪我をしていないだろうか・・。

どこかで泣いていないだろうか・・。


カエが咲かせた花から、カエの力を感じられる事が・・少しだけ安心させてくれる。ふとローニャが持たせてくれたモルの実を思い出して、一口食べる。

じんわりと胸が温かくなると、会いたい気持ちばかりが募る。


結局、少しでもカエの気配を辿れるよう魔法をかけ、その日は森に一人で泊まった。


3日目の朝、バリス兄さんが情報を持って、森まで転移して来てくれた。いくつか新たにわかった事を説明してくれた。大昔に洞窟がこの近くにあった事、災害でその入り口が変わった事、そして森の精が、人を隠す時がある事・・。最後の話は悠久の時を過ごしているエルフの国で、昔聞いた話だが・・と兄は付け加えた。


だが、全部納得できた。


それならば説明がつく。植物や土の声を聞き、言霊の力を持つカエを、見られなくなって久しい森の精が、穢れを清めるカエを気に入れば・・?・・隠されれば、確かに見つけられない・・・。


バリス兄さんに礼を言って、すぐに洞窟の入り口を探しに行く。

大昔の地図を見ながら進むと、把握していなかった場所に確かに入り口らしきものがあった。


モルの実を食べ、洞窟へ踏み入れた瞬間、カエの気配を感じる。

急いでカエの元へ向かう。



今度は絶対手を離さない・・そう誓うように。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ