王子の独り言11
昨夜は、兄達と相談を重ね・・概ね話はついた。
バリス兄さんが朝早く転移して、こちらにカエの様子見も兼ねてくる事が決まり、ようやく帰ってきた時は深夜だった。
朝一番に会いたくて、花束を抱えてそっとカエの部屋へ入る。
静かな寝息を立てて、眠っている姿を見ると、胸が暖かくなる・・。
花束を花瓶に入れ、カエの眠るベッドに腰掛ける。兄が来ることを伝えなければな・・と、考えていると、
目覚めたのか布団がもそもそと動く。
頭を上げたカエが、花束に気付いたのか、片翼の香りがふわりとする。
花を見て、俺を思い出してくれた・・・?
と、突然うつ伏せになって、枕を頭の上にのせて唸っている。
「カエ?なぜ、枕に埋まってる?」
思わず聞くと、カエはギクリと体を強張らせ、咄嗟に枕の端っこを掴む。
「・・・・ちょっと、ふわふわ具合を確かめたくて・・・」
「確かにふわふわだな」
ふわふわとカエからいい香りがずっとする。
昨日の事を覚えていてくれたんだろうか・・・。
意識してくれているんだろうか・・。
枕の上をポンポンと軽く叩くと、カエは枕を握った両手にギュウッと力を込める。
枕でなくて、俺を抱きしめて欲しい。
いや・・・抱きしめたいな・・あと、顔を見たい。
そう思いつつ、少し様子を見ていると、急に静かになったので、俺が離れていったのかと思ったのか・・そろっと枕を持つ手の力が抜け、ゆっくり起き上がろうとした。
カエの左手をさっと取って、昨日のように手の甲に
ゆっくりキスを落とす。
ビクッと手が揺れ、一気に香りが強くなる。
「・・・すごくいい匂いがする。」
クスクスと笑ってしまうが、きっと俺からも香っているんだろう。
なんとか枕で顔を覆っているカエが、小さく助けて・・と呟いている。
ローニャが見かねて助けに入るが、ついからかってしまった。
部屋へ戻る際、ふやけた顔をしているな・・と、ドアの前で直してから入ると、バリス兄さんが「・・・ダダ漏れだぞ」と、笑っていた。うちの片翼が可愛いのだから、しょうがない。
うっかり兄が来ている事を伝え損ねたな・・と、入室して来たカエを見て気付いたが、バリス兄さんはソツなく挨拶をし、いつの間にかカエの緊張を解していた。
そうして、いよいよ本題に入る。
この国・・・いや、この世界の穢れてしまった土地の問題だ。
そして、その事でカエに身の危険が及ぶかもしれない話をする。
驚いてはいたが事情を話すと、すぐに理解したようだ・・。
バリス兄さんがカエを感心したように見つつ、ジャケットから種をだす。
昨夜話していた植物だ。
これが発芽できれば、大きく世界は好転する・・・。
あらかじめ用意しておいた鉢に種をそれぞれ植えると、カエが力を注ぐ。
兄達は、万が一うまくいかなくてもいい・・と話していたが、あっという間だった。
カエの言霊の力は、この30年・・誰も発芽させる事が出来なかった植物達を、種まで採れるほどに大きくした。
バリス兄さんは、驚き・・そして歓喜していた。
喜んでもらって、カエは照れ臭そうにしていた。自分が偉業をなした・・とは思っていないのだろうな。そんな欲のない所がカエらしくていいのだが・・。
シューレの森へ行って実験したい・・と話すと、カエは「お出かけ!」と、喜ぶ。
思わずバリス兄さんが「魔物が出るから・・」と注意する。さすが兄・・・。
俺を盾がわりに使えと言うと、いい返事をするカエに、つい憮然とする。
と、カエの手を取り、バリス兄さんが忠誠の誓いをする。
「カエ様、貴方がなさってくださった事をどれほどの感謝を込めても、お礼をし尽くす事ができません・・。このご恩、竜族フォンタム家は生涯忘れる事がないと誓います。」
カエは真っ赤な顔で、返事をしていた・・・。
俺だってそう思っていたのに・・思わず不服そうな顔になる。
兄の顔になったバリス兄さんに、「セレム、頼んだぞ。」と、声をかけられ、ハッとする。
当然だ・・絶対に守る。うなづくとバリス兄さんは、本城へ戻って行った。
そう・・・まだこの国も、まだまだ問題は山積みなのだ。
俺はまず一番先にやるべき課題に取り掛かる。バリス兄さんからキスされたカエの手を入念に洗う事だ。




