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王子の独り言9

ハーリカの所で、発芽できればまぁラッキーだろう・・くらいに思っていたのに、予想を上回る結果になった。


今まで、植物の発芽や成長を促すに留まっていたのに、土の声を聞き、

森の生態系の仕組みを教え解き明かすカエに、俺だけでなく、ハーリカも目を丸くする。

カエのいた世界の知恵のおかげで、大きな突破口が見つかったのは確かだ。


草木の生えなかった・・・放っておけば、穢れの地になるかもしれない土地を森にし、川の水底の土の声まで聞いた時、穢れの地の浄化が、可能だと・・どこか確信めいたものがあった。ハーリカも、確信したのだろう・・。目配せするとゆっくりうなづき、心得ている・・と、目で合図してきた。


森を復活させただけでも、すごいのに畑へ戻って、発芽させる・・と

言うものだから、さすがに焦った。


竜族と違って、お前は人間だというのに・・・。

体の状態を魔法で見ると、確かに疲れはさほど見られない。とはいえ、初めてづくしなのだから、今回は畑の発芽まで!と話す。・・・不満そうな顔をするカエに、モルの実を差し出す。


「お前が大きくしたモルの木から取ってきた。念のため食べておけ。」


手が汚れているだろうし・・と、指でカエの唇をトントンと指す。

カエがギョッとして、目元を赤くし、視線を逸らすとふわりといい香りがする。

瞬間、モルの実を摘んでいた指に、思わず力が入りそうになる。



そっと開けた、唇に、口の中に見えた赤い舌に触れたい・・・


欲に濡れた目を見られたくなくて・・・でも、カエを見ていたくて、

口の中に入れたモルの実を食べ出す姿を見つめる。



「・・・・・・・セレム・・、今、ちょっとこっち見ないで・・・・・・」


赤い顔をしたカエが顔をそらす。

・・・俺からも香りがするんだろうな・・思わず笑うと、悔しがるように俺を見るカエに笑ってしまった。


畑へ戻って、人払いしてもらっている間に、カエが心配そうに体調を気にかけてくる。竜族が恐ろしい程、頑丈・・と知らないとは言え、気にかけてくれる事が嬉しかった。

早く帰って、優しいカエを独り占めしたい・・・。


俺からしたら、小さな少女・・といったカエだが、

森を治した事も関係したのか、畑に一気に芽が出て、作物まで実った時は

驚きよりも、カエの身の安全を心配した。



「カエ!!!お前は大丈夫なのか??」


目を丸くして聞くと、お腹が空いてきたかも・・というから、力が抜ける。

ホッとすると、勝手に触るな・・と以前言われたが、つい抱きしめてしまう。

遠慮がちに背中をあやすように叩くカエに胸が締め付けられる。


「セレム、あの背中汚しちゃったかも・・?」

「構わない」


恥ずかしそうに顔を動かそうとするカエの首元からいい香りがして、うっとりする。

ああ、好きだな・・・。


「いい匂いがする・・」


と、呟いたら・・・すぐに離れろ!!!と、叫ばれたが。

・・・・・・離れたくない・・・・。


一旦、領民に畑の状態を報告したい・・と申し出たハーリカを見送り、一緒に携帯食を食べる。カエは「お弁当」と言ってたが・・、異世界の言葉は面白いな・・と感じる。


護衛の騎士達は心得ているので少し離れて、警護に当たってくれた。

緊張しやすいカエをよくわかっている。


日除けの下で、風に揺られている作物達・・。

横には、気持ちよさそうに風を感じているカエ・・・平和な光景に、穏やかな気持ちになる。

自分の食べたい物より先に俺の好きなものを聞いて、渡してくる姿に、平和な世界で生きてきたんだな・・と、思わせる。


コルト国もずっと平和だといいな・・というカエが可愛くて、カエがいる限り約束する・・と話す。


「いなくても約束してよ・・・。」

「いないと嫌だ」

「えー、でも私寿命が長くてもあと70年くらいしか生きられないよ?」


・・・そうだ・・。カエは人間だ・・・。


「結婚すれば、俺と同じ時を生きられる。」


俺と生きて欲しい。そばにいて欲しい。

初めて聞いた!と言うカエに、そういえばそうだった・・・と思い出す。

何やらホウレンソウが大事!と、力説していたが、カエが一生懸命話す姿、穏やかな時間、何もかもが愛しく思えて、そっと手を握ると



「カエが、この世界に来てくれて嬉しい」


そう呟いていた。

ふわふわと、カエから香るいい匂いと、畑の土の匂い、穏やかこの時間がずっと続けばいいのに・・と思ってしまう。




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