王子の独り言6
結局、姉さんとお茶をしつつ、カエの世界の話を聞く。
思い出すと辛いかと思って、あまりこちらから振ることはなかったが、女性同士だからか、カエは自分の世界にあった物について色々説明してくれた。
すまほ・・・?と言うやつは、確かにあったら便利そうだな。
魔法でいくつか出来そうだな・・と思ったので、今度実験してみよう。
姉さんは、カエの事がえらく気に入ったのだろう。ニコニコ笑って話を聞いている。
気に入らない人間の時は、氷のような姉・・。その姿を知ったら、カエは驚くんだろうな。
しきりに姉さんの国へ遊びに来いと誘われて、嬉しそうだったが、もう少し自分の所にいて欲しくて、止めた。
狭量とでもなんとでも言え。
姉さんは苦笑しつつ、帰り支度を始めると、
「セレム、あんまりカエちゃんを囲いすぎないようにね!あと、好きって香りがすんごく強いわよ!ごめんね〜カエちゃん。ちょっと拗れてる弟だけど、よろしくね!!」
爆弾を置いて帰っていった。
絶対、次に会ったら文句言ってやる!!!!
カエの手を繋いでいた俺は、真っ赤になって立ち尽くした。
俺の顔を見て、思い当たる節があったのか、カエも真っ赤になっていた。
・・・もう、誤魔化せない・・そう思うと、ヨロヨロと庭園のサンルームのソファーにカエと座る。
「・・・・セレム・・・・、前に話した香りって・・、もしかして好意を持っていると匂うって事でいいの?」
小さくうなづく。
・・・会った当初から香りがしていた事に、きっと気付いて合点がいってるだろう。
「・・・すまない・・。説明しようと思ったんだが・・、その・・」
冷静になろうとするのに、自分の気持ちがバレてしまった気恥ずかしさと、
逃れられない現実と、気持ちを知ったカエが離れていかないか・・という
不安がドッと押し寄せて、視線が泳ぐ。
「・・・・・竜族は前に説明した片翼を見つけると、つ、付き合って欲しい・・と、伝える代わりに体から香りが出るんだ。あ・・、相手も了承して香りを出した相手と手を繋ぐと、付き合うことになる・・。」
「え?すでに手を繋いでるけど・・・、じゃあお付き合いしてるって事?!」
手を離そうとするが、握りこんでおく。
「い、一応・・・?ただ、カエはその慣習を知らないわけだから・・」
言い訳がましく言うものの、俺としては嫌でないなら、受け入れて欲しい・・・
まだ慣れていないから・・と、抑えていた気持ちが溢れそうになる。
繋いだ手をそっと見ると、カエもその視線に気付いて俯く。
「この世界の神が、竜族は強いから・・片翼は一人と決めてるんだ・・。だから、俺の片翼はカエだけだ」
「ああ、なるほど・・・。便利というか・・なんというか・・・じゃあ、お付き合いをしないとか、考えられない世界なんだ・・」
瞬間、目を見張り、カエを勢いよく見つめる。
「・・・・俺は、ダメか?」
そばにいて欲しい。
・・・せめて、嫌わないで欲しい・・・。
「・・・まだこの世界に来て1週間しか経ってないし、わからない事だらけだし・・、お付き合い・・というより、生活の仕方を覚えていく方が先かな・・って思ってるんだけど・・。」
「覚えながら、付き合っていくのは?」
「ぐ、グイグイ来るね・・・。」
焦りながらも、カエは考えてくれているのか・・
うう・・とうめきつつ、目元を赤く染める。片翼の良い香りがする。
期待してもいい・・・のか?
「カエ、すごくいい匂いがする」
カエの首筋からいい香りがして顔を寄せると、慌てて止めようとする。
「ゆ・・・、ゆっくり!!!!ゆっくりまったりのんびりのお付き合いで!!!それ以外は認められない!!!ていうか、認めません!!!あと説明してない事ってない??!!!」
真っ赤になってカエが答える。
「・・・・付き合ってくれるのか?」
「・・・・お、女に二言はない!」
きっと今、顔が溶けているかもしれない・・・。
それでもいい。嬉しい。愛しい。俺の片翼。
カエの頬を撫でると、首まで真っ赤になっていて息も絶え絶え・・といった様子だった。
「・・・片翼として付き合う事は、人間でいえば婚約者になるって事だ。
よろしく婚約者殿。」
「ちょっっ・・・・・!!!!それ、絶対わかってて言わなかったでしょ??!!!!」
大事な事は、一番最後に言う。
交渉の一つだな。
城中にこだまするカエの声を聞きつつ、そっと抱きしめた。