王子の独り言5
朝、庭園に行って花を摘む。
王子が手ずから花を摘むのを、庭師が申し訳なさそうに見るが、俺がしたいから良い。そう言うと、やっと安心した顔になった。勧められた花を摘んで、足早にカエの部屋行く。
扉を小さくノックしてみるが、返事がない。
まだ眠っているかな・・、そう思いつつ、そっとドアを開けると、テラスのドアが開いている。
朝日の中で外を魅入っている姿は、どこか儚げだ。
ただ、寝間着で外を見るのは頂けない。警備の兵達が飛んでいる。
「あ、起きてる」
わざとらしく声をかけると、驚いた顔をしてこちらを見る。
・・良かった、泣いていない・・。
花束に気付くと、顔を綻ばせる姿にホッとする。
「おはよう。お花綺麗だね。」
「おはよう・・・。庭園から取ってきた。部屋におけば、少し華やかだろ。」
ベッドサイドに置いてある花瓶に花束を入れる。あとでローニャに手入れしておいてもらおう。
カエは嬉しそうに花束を見て、花にそっと触れる。
その姿に、また明日も持っていこうと思う。
実家が花屋だと話すカエに、昨日の水やりが上手だった事に合点がいく。
花の香りを嗅いで、何かを思い出したカエが、
「ねぇ、ローニャさんに言われたんだけど、匂いの話は2人の時にしてって言われたんだけど、どういう意味?」
ピシッと体が固まる。
「ん、あ、それ・・な・・。」
片翼の好意の香り・・。
説明・・すべきか?でもそれだと好きだと伝えてしまうわけだし・・。
慌てて、聞かないでおこうとするカエに、聞いて欲しい気持ちと、まだ知らないでいて欲しいという気持ちがせめぎ合う。
意を決して説明しようとすると・・・・
ローニャに邪魔された。
あいつ・・絶対面白がっている。
でも、まだ黙っておいて正解なのかもしれない。
カエにとって異世界に来て戸惑う事の方が多いのに、好きだという感情を知ったら、混乱するだろう。
ゆっくり慣れていって欲しい。
出来る限り、そばにいて・・カエの世話をする。
嬉しそうに庭園の花を見る顔を見て、こちらも嬉しくなるし、温室の植物に話しかける横顔を可愛いな・・と思う。
ふわふわと時折良い香りがして、その度に胸がドキドキと鳴るが、今はカエの気持ちの安定が優先だと、自分に言い聞かせる。
そんな時、アイシェ姉さんから手紙が来る。
一つは飼っている幻獣が調子が悪いので、植物が欲しい。
もう一つは、カエに会ってみたいという内容だった。
アイシェ姉さんは・・・なんでこうも地獄耳なんだ?
ローニャにカエの支度を頼み、仕事を手早くこなす。
カエが緊張しているからもしれない・・と、心配になり、部屋へ行くと白いワンピースを着て、髪を編み込んでもらったカエが立っていた。・・・・可愛い。
自分から香りが出てるだろうな・・そう思うと照れ臭くて、気もそぞろだ。
瞬間、魔力の気配を察知して、カエを抱き込むと、
「あら〜〜〜!セレムの所へ転移してきたら、すっごい良いところだったぁ?ごめーん!」
と、言う呑気な姉の声がする。
こめかみの辺りが痛くなる・・・。本当にこの人は・・。
抱きしめる形になったカエから良い香りがする。
そっと見上げてきたカエと目が合って、ようやく腕の中のカエが真っ赤になっている事に気付く。気まずくて、でも離したくなくて・・そっと腕の拘束を緩ませる。
アイシェ姉さんは面白そうに俺とカエを見てニコニコしてる。
くそ・・絶対後でからかってくるぞ。
さっさと家に帰そうと思い、温室へ案内し、カエに薬草の説明をしつつ、持って帰る薬草の用意をする。早く帰れ。
アイシェ姉さんはカエを気に入ったのか、色々と話しかけ、自分の国へ遊びに来いと誘う。勝手に連れて行こうとするな!カエもうなづくな!自分の精神年齢がドンドン下がっている気がする・・。
「姉上・・・・」
低い声でジロリと睨むが、姉さんはニヤニヤしていた。・・・・はぁ。