王子の独り言4
結婚をしないのか?
・・・一番聞かれたら動揺する質問を、一番動揺させるカエが聞いてきて、
一瞬頭が真っ白になる。
水を飲んで、そっと一呼吸おいてから話す。
「大体人間と同じだけど、違うのは片翼を見つけてから結婚する・・だな。」
「かたよく・・・・?」
「竜族は、この世界の神が定めた片翼の者と結婚する習わしがある・・。見つけて結婚できた時、初めて大人として一人前になれる・・・。」
へぇ・・・と、感心するようにうなづく。
俺にとって、その相手がカエなんだが・・。
お付き合いをする・・と、了承する行為が手を繋ぐ事だというのは黙っていた。
まだ来て間もないし、そういう意図で繋いでいるとは本人も知らないのだから。
・・・俺一人の自己満足だ。
「え、そういうの大体どれくらいで見つけられるの?」
興味を持ったのか、目をキラキラして聞いてくる。
「最長で100年くらい。平均すると30〜40年かな」
俺は大戦もあって、平均して出会う年数を超えてしまい、最長の期間の方に近づくばかりだった・・。そんなどこか諦めかけていた所へカエが現れるとは・・不思議なものだなと、どこか感慨深くなる。
そう・・・だから竜族は、片翼をとても大事にする。
やっと会えた半身とも言える存在を。
家族が増えれば尚更だ。
そう話すと、不意にカエの顔が曇る。
「家族の仲がいいって大事だよね。うちも弟がいたけど家族みんな仲良いよ。」
俯いて、口をギュッと力を入れるように引き結んでいる。
あ、泣く・・
そう思ったらカエのそばに駆け寄っていた。
みるみる瞳に涙がこぼれそうになっている様子に焦って、そっと頭を撫でる。
「・・・不安もあると思うけど、今は俺がいるから・・、その・・」
一瞬目が合うと、くしゃっと顔が歪んで、カエは泣いた。
カエが膝に合ったナプキンを咄嗟に顔に当てて、声を押し殺すように泣く姿に、
どうしようもなく胸が痛む。
いっそ大声で泣けばいいのに、どこか遠慮するように、我慢しないと・・と自制するように泣いていた。
帰してやりたい。
帰したくない。
泣いて欲しくない。
笑って欲しい。
どうにもできず、ただそっと背を撫でるしかなかった。
しばらく泣いていたが、ようやく落ち着いたのか、ナプキンで顔を拭くと
「・・・ご飯食べる・・・」
と、赤い目で俺を見る。
「無理しなくていいぞ・・?」
「・・・・美味しそうだし・・・食べる。ごめんね泣いちゃって・・」
謝らなくていい・・と、頭を撫でると少し照れ臭そうに笑う。
不安だろうに人を気にかけるカエの優しさに、強いな・・と思う。
鼻をすすりながら、「美味しい・・」と食べる姿はいじらしくて可愛かった。
植物の水やりは明日にしよう・・と、心配して声をかけると、「大丈夫だよ、できるよ?」と話すが、今日はゆっくり休んで欲しかった。
夕食後部屋まで手を繋いでいくが、カエの部屋は、俺の部屋の隣なのですぐに着いてしまう。
離れたくなくて、手を離すのが名残惜しかった・・。
「おやすみ」
明日は元気でいて欲しい。
笑顔でいて欲しい。
言葉の中に、色々な思いを込めて告げた。
夜、仕事をしていてふと温室の植物が目に入る。
穢れの中でも生きていける植物を育てようとしていたものだ。
朝、一緒に水やりをしていたカエの横顔を思い出す。
「葉っぱの色、おもしろ!」「これ形が可愛いな」誰に言うでもなく、ポツポツ呟いて水を上げていたな・・。そういえば、「花はないのか」と言ってたな。
「・・・明日、花を持っていくか」
ポツリと呟く。
知らない世界へ来たカエが、笑顔になるように・・花を用意しよう。
そう思って仕事を終え、ベッドへ入る。
明日が楽しみなんて・・・久しぶりだ。