王子の独り言3
なんとか水やりを終えると、カエは腕を振りつつ、
「なんでこんなに植物を王子様自らが育ててるの・・・?」
不思議そうに植物を見ながら聞いてくる。
「ああ、この国は山や谷が多いから、どうしても緑が育ちにくいんだ。
できれば、もっとこの国を緑豊かにして、農作物をもう少しとれる環境にしたくて、ここで実験してるんだ。」
まぁ、地形だけの問題ではないが・・。
コルト国だけでなく、この世界は30年前の大戦で、穢れが広まってしまったから。
「私が最初にいた森は、どう見ても緑が多かったけど・・?」
「あそこは、国の中で結構緑は多いが、魔物も多くて・・、竜族が住むにしても、環境がいいとは言えない。出来れば、住民が安全に住める場所に緑を増やしたい。」
そうだ・・・。
シューレの森・・。
あそこも穢れが酷い・・。だが、そのお陰でカエに会うことができた。
「あ、そう言えば私を運んでくれたのセレムだった・・んだよね?あの、ありがとう」
「・・・・別に。」
お礼を言われた・・。
それだけなのに、ものすごく嬉しい。
片翼に会えなくても、別に・・と思っていたのに。
言葉一つで翻弄されてる・・・。
ギュッと右手を握り返すと、カエからもいい香りがする。
ああ、ずっとそばにいたい。
香りがするだけで嬉しいなんて、おかしいのか・・?
ぼんやりとカエを見つめつつ考えていると、
カエが不思議そうな顔をして
「セレム・・、香水とかつけてる?なんか柑橘系の匂いがする。」
瞬間、自分の気持ちを見透かされたようで、慌てて離れる。
「いや、臭くないよ・・・・???」
慌てて説明してくれたが・・・。
そうだよな、これだけ好意を抱いているんだから、匂わない方がおかしいよな・・。わかってる・・わかっているけれど、気恥ずかしくて、思わず顔を隠す。くそ・・・絶対顔が赤い・・・。
なんとか不思議そうな顔をしたカエを、ローニャが城を案内したいからと、連れて行ってくれる。
二人が部屋を出ると、「・・・まずい・・・」と呟く。
何もこの世界のルールも、歴史も、片翼の事さえも知らない相手なのに、まだ会ってわずかな時間しか経っていないのに・・・。こんな自分に動揺する。それでも、扉の向こうへ行ったカエが早く帰ってきて欲しいと思うほど、いつの間にかカエという存在が心を占めていた。
少し落ち着こう・・・。
ゆっくり息を吐いて、シューレの森の状況を兄達に伝えようと手紙を書く。
夕食までに仕事を終わらせないと・・と、思うとカエが思い浮かび、手が止まりそうになる自分を叱咤激励する。
早く夕方になって欲しい・・と、思いつつ。
どこか悶々としながら仕事を終えると、夕食の時間になった。
濃紺のワンピースを着たカエが緊張した顔で部屋へ入ってきた時、可愛らしくて・・マナーとして素敵です・・くらい言わなければならないのに、言葉に詰まって何も言えなかった・・不甲斐ない。
今度は自分の瞳の色の服を用意させておこうと決めた。
恐々・・といった様子で、サラダを食べて、美味しかったのか瞬間、
パっと顔が明るくなるカエを見る。
・・・わかりやすい・・・。
ローニャがざっくりと俺が竜族の王子だという事を説明してくれたらしく、この世界の事、自分の役割の事を話すとすぐに理解していた。幼いのに、カエが来た世界は随分と教育が行き渡っているんだな・・と感心した。
「そういえば兄弟とかいるの?」
「5人兄妹だな。兄が2人、姉が2人、俺は一番下。今は1番上の兄と2番目の兄がこの国を治めてる。姉達は他国に嫁いでるけど、たまに遊びに帰ってきてる。」
そろそろアイシェ姉様がカエの事を嗅ぎつけるだろうな・・。
あの人は恋愛ごとが大好きだから・・なぜか自分の城の事をよく把握してるから、怖い・・・。
ローニャに、注意しておいて貰おう。そう思いつつ、水を飲もうとすると
「お姉さん達は結婚してるってことは、お兄さん達もしてるの?っていうか、セレム達も人間みたいに、18歳くらいになると結婚するの?」
「ぐうぅっ・・」
・・・・・吹き出さなかっただけ、自分で偉いと思う。
思いきり動揺した心臓を宥めるのに、とにかく必死だった。