1日の始まりは挨拶から。
朝である。
爽やかな朝である。
昨日、手の甲にキ、キスとかされちゃって、あれから生温かいローニャさんの微笑みで、羞恥心となんとも形容しがたい気持ちでいっぱいになった私は早々に寝た。
今、真っ白でスベスベな手触りの布団の中で、朝食の時に会ったらどんな顔をすればいいのか悩んでいる。・・けど、忙しいはずなのに枕元の花瓶にセレムが飾ったであろう花束を見ると、枕に向かって叫びたい気持ちに襲われる。
枕を掴んで、頭の上にのせる。
完全にパニックしてる自覚はある。
やばい!!!何がやばいかわからないけど、やばい!!
どこか、片翼だけど・・まぁ、セレム優しいなぁって思ってたくらいだったのに、
かなり、いや、結構私の中で大きく存在感を増してる気がする。
・・・いや、気がする・・だけだと思えばいいか?
「カエ?なぜ、枕に埋まってる?」
今、一番聞きたくない声が、なぜ頭上から聞こえる・・・・・。
咄嗟に枕を両手で握って、頭をカバーする。
今これを取ったら、私は死ぬ気がするからだ。
「・・・・ちょっと、ふわふわ具合を確かめたくて・・・」
「確かにふわふわだな」
枕の上から、ポンポンと感触を確かめるセレム。
やめて、今、私の心臓が破けそうだから。
少し間があったので、あれ?・・・出てった?と、思って確かめようとすると、枕を持っていた左手が不意持ち上げられ、チュッと音がする。
「・・・・・・・・・・・・・・・!!!!!!」
この感触・・・・、あれ、昨日と似てる気がする・・・?
「・・・すごくいい匂いがする。」
セレムがクスクス笑う声が聞こえるが、それはお互い様だ。
枕で頭を覆っているはずなのに、柑橘系の匂いがすごくする。
誰か・・・助けてぇ・・・・
「おはようございます。」
天の助け!!!昨日、無表情で散々からかってきたローニャさんの声がする。
「お邪魔でしたか?あと1時間ほど席を外しておきましょうか?」
「お邪魔じゃないので、起きます!!用意します!!」
真っ赤な顔で、起き上がると、すぐに枕で顔をガードした。
「手がガラ空きだぞ」
セレムが、ククッと笑う声が聞こえて、勢いよく体を反転する。
「ろ、ローニャさん着替えます!!!可及的速やかに!!」
「かしこまりました。セレム様、大変残念かと思いますが、一旦お部屋を・・」
「確かに残念だな」
「コントみたいなやり取りはいいからーーー!!!!」
朝から叫んだ私は、悪くないと思う・・・。
セレムが部屋を出ていってから、ローニャさんに「本当にでてった?!」と確認した私は、ようやくもそもそとベッドから這い出した。ローニャさんが、すっっごくいい笑顔で誰かさんの瞳と同じ色のワンピースを差し出したが、「白で!」とせめてもの抵抗をした・・。
この生活に果たして慣れることがあるのだろうか、いやない!(反語)
白のワンピースを着て、髪を編み込んでもらい、緊張しながら朝食のためセレムの部屋へ行く。そういえば食堂ってないのかな?徒歩10歩であっという間に着く。
心の準備ーーー。
全くできてないーーー。
そう思いつつ、ローニャさんがドアを開ける。
と、セレムの左隣に誰かが座っている。
濃紺の髪をして、少し薄い褐色の肌に、眼鏡をかけた20代半ばくらいの美青年だ。
めちゃくちゃ美青年だけど、どこか見た事ある・・・そう思っていると
「おはようございます。カエさんですね?
私は、セレムの2番目の兄のバリス・ドゥ・フォンタムです。」
「お、おはようございます!カエ・タナシロです。」
おぉーーーーい?セレムさん?朝一でお兄さんが来てるって知らなかったけど?
目を丸くしつつ、後で絶対ホウレンソウの事を話して覚えてもらおうと思った。思ったけど・・・いきなり兄の訪問で、朝食の味は、まるでわからなかった。




