改善結果。
サワサワと木々の葉擦れがする森になった場所を、しゃがんでいた私は立ち上がって見上げた。
まさかお願いしてみたら、こんな一瞬で戻るなんて聞いてない・・。
「カエ!体は大丈夫か?」
セレムが慌てて駆け寄り、心配そうに顔を覗き込んでくる。
アップになった美少年のが心臓に悪い。
「だ、大丈夫・・ありがとう。試しに力が送れるかなって思って、お願いしつつやってみたんだけど、こんな一瞬で戻るなんて思わなくて・・かなりびっくりしてる・・・。」
「だろうな・・俺もだ。まさかここまでとは・・」
セレムは、キュっと私の手を握る。
その手の温かさに、強ばっていた体から力が抜けた。
ハーリカさんも、私達のそばへやって来て、
「お話では聞いておりましたが、ここまでとは・・。いやはや驚きです・・。」
周囲を見渡して、嬉しそうにニコニコしている。
「いやぁ・・私も初めての事で驚いてます。これで川下のハーリカさんの畑に栄養が行けばいいんですが・・」
そういえば、この近くに流れる川から栄養が流れていくはず・・。
川はどこかな・・
「ハーリカさん、川はどの辺りにありますか?」
「すぐそこです。5分ほどなので、歩いて行きましょう」
そう言って、ハーリカさんが案内してくれる方へと、皆で歩いていく。
さっきまで鳥も見かけなかったのに、木の上に止まってチチチ・・と鳴いている。
新緑・・といった色合いの木々は綺麗で、歩いていて気持ちよかった。
「綺麗・・・気持ちいいねぇ」
「ああ、こんなに綺麗な森はこの国にはない」
「え?!そうなの?」
「ああ、カエの言ってた、土の問題もあるかもしれない・・。今後調べる必要がある。」
どこか遠くを見つめるセレムの横顔は普通の少年と違って、大人びて見える。やっぱり国を守る王子様・・なんだなぁ。私の中学生の頃の男子なんて・・・まぁお子ちゃまだったな。私もだけど。
「着きました。こちらが川です。」
河原に着くと、ハーリカさんが教えてくれる。
辺りには白い平べったい小石があり、その奥にキラキラと日の光が反射している川があった。
「わぁ・・綺麗!」
うちの近くの川はお世辞にも綺麗ではなかった。
それでも昔よりは綺麗になったって、近くに住むばあちゃんが言ってたけど。
セレムに川の土を触ってみても大丈夫かと聞くと、一緒に川のそばへ行って、土が取りやすい所へ案内してくれた。
少し冷たい水の中から、土を落とさないようにすくいだし、そっと耳に当てる。
小さいけれど、高い囁くような声が聞こえる。
キモチイイ・・
ココ・・アタタカイ・・
良かった・・どうやら大丈夫そうだ・・。
川の土に「教えてくれてありがとう」と囁くと、土はわずかに笑うように光る。
そっと手を水の中に落として、土を戻す。
そばにいたセレムに、
「とりあえず、大丈夫そう。観察も兼ねて森の手入れもしていけば、畑も実っていくかもだけど・・。土にもお願いできそうだし、テュダに戻って畑にも力を送ってみたいな。」
セレムに言うと、後ろでハーリカさんは、心配そうに
「しかし、お体は大丈夫ですか?あれほどの力を使ったのに・・」
「体は大丈夫です。特に疲れも感じてないし・・、少しでも力になれるようなら、
早い方がいいかなって・・。」
セレムは少し考えていたようだが、
「わかった・・・一旦戻って、実験してみよう。ただし、今日はそれで終了だ。カエの体調も様子を見た方がいいだろうし・・。」
そう言って、セレムは腰につけていたポーチから、包みに入ったモルの実を出した。
「お前が大きくしたモルの木から取ってきた。念のため食べておけ。」
そういうと口を開けろとばかりに、セレムが私の口をトントンと指で指す。
え、まじですか?公衆の面前であーんですか???
あ、でもさっきから土を触って確かに衛生的ではないか・・・と思い直し、目線を逸らしつつ、口をそっと開けると、モルの実をセレムがそっと入れてくれた。
うあぁあ、はっず!!!
セレムからふわっと香りがする。
目線を戻すと、セレムの目元がちょっと赤い。
「・・・・・・・セレム・・、今、ちょっとこっち見ないで・・・・・・」
きっと私も顔が赤い。
さっと目線を逸らすと、セレムがふっと笑った気配がした。
く、くそ・・・・!!!セレムのくせに!!!
モルの実は、マスカットの味がして美味しかった。
帰ったら、取って食べよっと。