とりあえず名前を教えるところから。
ふわふわの雲の中で寝ている感覚があった。
ミカン?柚子?レモン?柑橘系の匂いのする雲なんだろうか・・
額や、頰、唇を匂いが掠めていく。
いい匂いだなぁ・・
さっぱり系って好きなんだよね・・
あ、そういえばコンビニで出てた季節限定柚子アイス食べてない。
いや、その前に大事な事を忘れている気がするぞ・・
ええと・・・、確かコンビニ・・でなく、黒い竜・・・
「黒い竜!!!!」
ガバッと起き上がった途端、「うわっ?!!」と声がする。
食べられて・・・ない、みたい・・・と、自分の体を見つめると、腕も足も感覚があったので、ホッとした。あれ?見慣れない白いワンピースみたいなの着てる・・?
周りをさっと顔を上げて見回すと、ものすごく大きなフカフカのベッド、
トルコっぽい綺麗な青の壁、白い大理石みたいな床に大きな木枠の窓、
重厚な家具やキリムみたいな絨毯が置いてある大きな部屋に、私はいた。
「ここ・・・・・・・どこ・・・・・・・?」
頭はパニックである。
当然だ、私はまだ18歳の乙女なのだ。
乙女ったら、乙女なのに、森に来て、黒い竜に出会い、この部屋だ。
異世界って、中世ヨーロッパが主じゃなかったっけ?とか呑気なこと考えてる
余裕はあったけど、くどいようだが乙女なのでパニックである。
「なんだ、結構元気だな」
少年のような声がして、と振り返ると、枕の方に人が座っていた。
いや、人っていうか・・
艶々とした黒いショートの髪、褐色の肌、蒼い綺麗な瞳をした美少年が。
うわぁ・・・、文字数・・・とか呟いた。
モデルさんですか?ってくらい、綺麗な顔なんだもん。
歳は、私より2つくらい下かなぁ・・
とにかく美少年であった。
「・・・ええと、ここはどこでしょうか?あ、その前に助けて頂いたんです・・・よね?あ、ありがとうございます・・・・・・?」
美少年が美少年すぎて、言葉がうまく出ない・・。
あわあわしながら訊ねると、美少年は小さく笑い、
「俺は、セレム・ドゥ・フォンタム。ここは俺の城だ。気を失ったお前を拾って、
ここへ連れて来た。」
簡潔に教えてくれた。いい子だ。
飴ちゃんあげたいけど、何も持ってない。ごめん。
「た、助けて頂いてありがとうございます。私は田名城カエです。
あ、カエと呼んでください・・。」
ペコっとお辞儀する。礼儀は大事だしね。
「ところで、私・・自分の家に帰りたいのですが・・・、帰り方・・とか知っていますか?」
ドキドキしながら、訊ねるとセレムは目をすっと伏せて、
少し言いにくそうにしつつ
「カエは、別の世界から来た異人だろ?・・・恐らく薄々感づいていると思うが、
異人は、自分の世界へ帰ることはできない。」
いきなり大事な事を告げられた。
ハッキリ言われた瞬間、言葉が詰まって、頭の中でやっぱり・・と思ってしまう。
真っ暗なスマホを見た時、帰れないかも・・と、薄っすら思っていた。
手が震えて、ふかふかの布団の中にいるのに、体はガクガクし出した。
「な、泣くなよ?!カエはここにいて、この世界を少しずつ知っていけばいい!こ、ここも良い所だぞ?」
セレムは、焦ったように涙で決壊寸前の私の手をぎゅっと握ると、
背を撫でてくれた。
「・・・・・・いてもいいの?」
「いろ!!!!他へ行くのはダメだ!!!」
いや、他って・・、他を知らんがな・・と、思いつつ、慌ただしく背を撫でる手つきに思わず笑ってしまった。美少年の焦った顔、可愛いなぁとも思った。悲しい割に、まだ余裕あるなぁと自分でも思ったけど、とにかく居場所は確保されて
一安心だ。
「・・・うん。じゃあ、よろしくお願いします・・・。」
またもペコっとお辞儀すると、セレムは安心したのと、照れ臭いのか、ボソッと
「・・おぅ。」と返事してくれた。
美少年は、どんな表情もいいわぁ・・と、感心した。