春が来る。6
久々に出た熱は、なかなか下がらなかった・・。
そういえば、こっちへ来てから色々あったもんな・・。
熱のためにあんまり頭が回らなくて、ぼんやりとそんな事くらいしか考えられなかった。
セレムが心配して、日中は側にいたけれど、風邪を移しちゃったらいけないからと、夜だけは別にしてもらった。すごく渋ってたけど、大丈夫・・ローニャさんも見に来てくれるし・・。流石に夜中は寝てるし・・。
ラナさんからもらった香り石を枕元に置いておくと、良い香りがする。
熱でちょっと鼻が詰まっているけど、これは良い香りがする。
不思議だな・・と、思いつつ、良い香りにホッとするので、ちょっと気が紛れるので助かっている。
4日目の夜。
流石にララの花・・散っちゃったかな・・と、思いつつ熱も大分下がってきたけど、今日も早めに寝ることにした。
ああ、やっぱりまだ怠いなぁ・・。
熱が出ると、お母さんがりんごをすり下ろしてくれたな。
弱っていると、急に家族を思い出す。
帰りたいとは思わないけど、会いたいなとは思う。
セレムが悲しくなっちゃうかもだから、言わないけど。
ほんのりとランプが灯った部屋で、ポツリと呟いて寝る。
「・・・・・・・お母さん・・・」
目を瞑ると、香り石からいい香りがする。
あ、お母さんの匂いがする。
そう思ったら、涙がほろっと出てくる。
いつも寂しくないように、セレムがいてくれて、私は幸せだよ。
でも、今日はちょっと会いたい・・そう思ったら、頭を撫でられる感触に気が付く。あれ・・?誰もいないはず・・。
そっと目を開けると、お母さんが枕元に座って、私に向かって微笑んでる。
「え???お母さん・・・??」
お母さんは、口に指を当てて、シーっと喋らないように・・と、合図するので、私は口をつぐむ。
優しい手つきで、風邪の時にいつもしてくれるように頭を撫でられて、胸が苦しくなって、涙がボロボロ出てしまう。今は風邪を引いてるけど、元気だよ・・、セレムがすごく優しくて、いつか会わせたいと思ってるの、あと帰らないけど、お母さん達にも会いたいの・・、大好きなの・・・。
何一つ言葉にならなくて、言葉にならない思いを涙がこぼれる代わりに伝えてくれるようだった。
お母さんは、ちょっと困ったように・・でも、いつものように笑いかけてる。
そうして、目元の涙を拭ってくれた。
「大好きよ」
お母さんの声だ・・・。
そう思ったら、嬉しくて、切なくて、せっかく拭いてくれた涙が一つ流れた。
ゆっくりと、お母さんの手が目元に置かれる。
・・寝ろってことかな?急に眠気がやってきて、私はそうっと目を瞑ると、いつの間にか眠ってしまった。
翌朝、明るい光で目が覚める。
・・お母さんの夢?でも、本当にいてくれたみたい・・・。
と、足元がずっしりと重い。
・・あれ?
足元の方を見ると、安定のセレムさん・・。
あ、でも珍しく寝ている。
静かな寝顔に、嬉しいのに、どこか胸が締め付けられる。
心配で結局、ここへ来てくれたんだろうな。
体を起こして、綺麗なセレムの髪を撫でると、セレムがゆっくり顔をこちらへ向ける。
「・・大丈夫なのか?」
「うん、熱は下がったみたい。ごめんね・・心配かけちゃって」
なんだか小声で話してしまう。
セレムは首を振って、体を起こすと、私をベッドの上で体を抱きしめる。・・・うん、照れるけど、今は落ち着く。
はぁ・・・と、肩に頭を寄りかからせると、息が出る。
ずっと寝てたから、ちょっと怠いけど、熱がない分・・ずっと楽だ。
「・・・お母さんの夢、見たの・・。頭、撫でてもらった」
「・・・そうか・・」
そう言ったら、セレムが頭を撫でてくれる。ふふっと笑ってしまう。
「もしかしたら夢ではないかも・・」
「え?」
「母上がくれた香り石は、会いたい人に会わせてくれる力がある・・」
「・・・え?」
「会えたんだと、思う」
セレムがそう言って、私に笑いかけるから・・私は胸がぎゅうぎゅうに苦しくなって、せっかくお母さんが拭いてくれた涙がまた流れてきた。
ギュウッと抱きしめて、頭を撫でるセレムの優しさが切なくて・・・でも、嬉しかった。
大好きだよ、小さい声でセレムに、そして遠くにいる家族に呟くように伝えた。
今回は、ちょっと家族の話。
ずっと書きたかったの・・。