そんな時もある。その4
野菜も籠いっぱいになったので、ルカ君に元の場所へ戻ろうと言われて、戻ろうとすると、
「籠、持つよ・・危なっかしいし」
「ええ・・、大丈夫だよ」
そう言った瞬間、蹴躓く・・。
慌ててルカ君が受け止めてくれて、助かった・・・。
「はい」
ルカ君が呆れたように笑って、手を出すので籠を大人しくお願いする事にした。うぅ・・・情けない・・。
背の高い野菜の葉っぱを掻き分けつつ、ルカ君がハーリカさんに天幕へ戻る・・と、声を掛けると、おう!と返事が来る。目の前が草だらけで、ハーリカさんが見えない・・・。
「ルカ君、ありがとね。出会えなかったら、私は今頃、畑で行方不明になってたよ・・。」
「カエ、ちっちゃいもんな〜。いくつ?」
「18です」
「え?!嘘、俺と同じくらい??小さすぎない?」
「・・それは、小さい事がコンプレックスの人に、言ってはいけない言葉ですよ・・・?」
「へ〜、そうなの?悪い」
悪びれずに話すルカ君に、思わず笑ってしまう。
ああ〜、高校時代が懐かしい・・。こんな風にダラダラ話したりしてたなぁ・・。
「・・・カエは、またここへ来るの?」
「え?ああ、そうだね・・。また来るかもだけど・・」
「ふーん・・、じゃあ、また来いよ。畑、案内してやるから」
「ありがと〜。絶対迷うからお願いするわ・・」
この背の高い畑を迷わずに歩くのは、無理だな・・。
いや、低い野菜達ならいけるかも・・・?そう考えていたら、草の間から天幕が見える。
天幕の前に、セレムだろうか・・立っているよう・・な?
早く戻ってこれたのかも・・!
そう思って、草の間から顔を出して、確認しようとすると、今度は葉っぱに足を取られて、転びそうになる。
「わぁっ・・!!」
「カエ!危な・・」
ルカ君が咄嗟に腕を掴んで、土に顔をダイブしそうだったのを止めてくれる。
「あ、ありがと・・」
「気をつけろよ・・」
体制を整えようとすると、ものすごい圧を感じる。
ん??顔を上げると、目の前にセレムがいる。
気のせいか、後ろから真っ黒いオーラが出てる気がするんだけど・・
「うわ!!せ、セレム!!?」
「セレム様?!!」
私とルカ君、同時に呼んじゃったよ・・。
「・・・・・・・・・・・・カエ」
「うん・・?」
ハッと、セレムの笑ってるけど、怒ってる顔を見て、冷や汗が出る・・。
あ、奥さん・・控えめにって言ってたのに・・めっちゃ収穫してますね・・。
私は、目がウロウロ泳いで・・、観念するように謝る。
「・・・うぅ、すみません・・・。収穫したくて、ハーリカさんに無理を言いました・・。ハーリカさんは一切悪くないから絶対責めないでね?!」
ハーリカさんの身の安全だけは保証せねば・・!!
そぉっとセレムの顔を見ると、小さくため息をついて、そっと私の頭を撫でる。
「・・・まったく・・」
「・・・すみません・・。あ、仕事大丈夫なの?」
「ひとまずな・・。収穫は終わったのか?」
「あ、うん!ルカ君、手伝ってくれてありがとうね!」
後ろを振り返ると、ルカ君はなんというか・・微妙な顔でうなづいた。
・・・・ん??さっきまでの元気はどうした???
ハーリカさんと、ローニャさんが、笑いを堪えている姿が見えて、私が不思議に思っていると、セレムが手を繋いで天幕まで連れていってくれた。
すぐ芝生だったので、さすがに転ばないぞ・・そう思いつつ、ちょっと早足のセレムに急いでついて行く。
「・・・カエ」
「うん、何?」
「ルカと仲良くなったのか?」
「うん、畑で迷ってたら助けてもらったの。野菜の背が高くて・・前が見えなくて・・。あ、ねえ!セレム、私も魔法が使えないかな?」
「なぜ?」
「セレムが見つけられる魔法とかあれば、何かあっても大丈夫そうじゃない?」
ピタッとセレムが止まるので、私は勢いよく背中にぶつかってしまう。痛い・・。背中の筋肉も痛い・・。
「・・・どうかした?」
鼻をさすりながら聞くと、ちょっと目元が赤くなって拗ねたような顔をしたセレムがこちらを見る。あ、ちょっと可愛いかも・・と思っていると、私の鼻をキュッと綺麗な指で摘む。
「ンな・・!」
耳元にセレムが顔を寄せて、
「可愛いことを言うと、キスするぞ」
と、囁いてくる。な、何で???
鼻から指を離され、ちょっと赤くなっているであろう鼻と頬をさすると、セレムは満足したような顔をする。何なの〜〜?不意に笑い声が聞こえて、後ろを振り返ると、ハーリカさんがルカ君の肩を叩きながら笑っていた。
いや、だから・・何かあった???
不思議にそうにしている私に、ローニャさんが生暖かい微笑みで肩を叩かれた。
ハーリカさんは、お詫びです!と言って、抱えきれないくらいの野菜をくれ、複雑そうな表情をしたルカ君と共に見送ってくれた。ひとまず秋の収穫は無事終わった!・・・と、思う事にする。