夏の終わり。その7
撮影会という名の夕食会が終わって、一息つくと、ラウラさんが屋上へと案内してくれる。
長い大理石の階段を登って、扉を開くと、そこは円形の屋上で、360度・・ぐるっと周囲が見えた。
セレムの城と違って、森の中に城があって周囲は木々に覆われている。
その木々から、森の精だろうか・・淡く光って浮いている。
「なんだか、星光が森の中にいるみたい・・」
「ああ、カエさんはバシェの浄化を手伝ったそうですね!星光の虫は確かにあんな感じですね!」
キリルさんが、ニコニコと答えて、森の写真を撮る。さすがや。
そうして、用意されていた椅子に座る。
ちょっと傾斜が深くて、空がよく見えそう・・。
「今月はね、この国では星落ち月なのよ〜。だから、とても空が綺麗なの」
「星落ち月・・・?」
「カエ、空を見てみろ」
そうセレムに言われて、空を見てみる。
そういえば、下の森ばっかり見てた・・・、上を慌てて見てみる。
満開の星空に、一本・・スーッ・・・と星が流れ、突然ふわっと光る。
花火のように、光って、光があちこち飛んで行く。
そして、またすぐ次の星が流れ、また光って、今度は弾ける。
光はパチパチと煌めき、辺りを照らす。
「・・・・・花火みたい・・・・」
私は目を丸くした。
「カエの国でも、星が落ちるのか?」
「ううん!流れ星はあったけど、こんな風に光らない。・・花火っていう、火薬を詰めて打ち上げて、今みたいに光らせるのはあったけど・・・。え、すごい・・・すごく綺麗!!」
私は感動して、セレムの手をぎゅうっと握ってしまう。
キリルさん、ラウラさんがそれを微笑ましく見ているのに、気付いて慌てて手を離そうとすると、セレムに阻止されてしまう。・・・・うぅ、は、恥ずかしいから・・・手を離してぇ。
「そうですか・・、カエさんの国は美しい物を作るのが好きな国だったんですね」
キリルさんに言われて、遠い自分の故郷を思う。
「・・・はい。美しいものは好きでした・・。ここと同じく夏によく見ていたんです・・そんな所が似ていて、嬉しいです」
「そうなの〜?ここも毎年夏の終わりの時期に星が落ちるのよ。またぜひ見に来てくださいね〜。一緒に見たいわ」
「あ、はい!ぜひ!」
・・と、よく見るとラウラさん・・何か飲んでらっしゃる・・?
目が合うと、にっこり笑って
「カエちゃんも、何か飲む〜?」
「姉さん・・・、お酒以外で」
「セレムは厳しいわよね〜」
ラウラさんは、クスクス笑うとキリルさんがそっと頬を撫でる。
そうすると二人でにっこり笑い合うので、見ていてちょっと照れる。
お、おう・・ら、ラブラブですな。
私が思わず照れてしまう・・。
セレムは私をチラッと見て、
「・・カエ」
「飲みませんってば・・・」
今日もセレムセキュリティは万全だ・・。
と、目の端で大きな光が見え、空を見る。
「・・・・・・・わぁ・・・・!!!」
落ちてきた星の光が、ものすごい大きさで広がっていく。
広がった光一つ一つが、輝いて、森全体を明るく照らす。感激していると、下の方でも声がする。エルフの人も、この景色を楽しんでいるのかな・・・。
「カエに見せられて良かった・・」
「これ・・知ってたの?」
「そろそろ時期だとは思っていたんだ・・。話し合いもあったけれど・・見せたくて」
「あ、ありがとう・・・」
いつも忙しいのに、こうやって考えて色々考えてくれるセレムの優しさに、胸がジンと暖かくなる。・・・私も、セレムが喜ぶこと・・したいのに・・。なんだかいつも喜ばされるばかりだな。
うーん・・なんかお礼したいな。
そう思っていると、また星が落ちて、今度は淡く光って、ゆっくり落ちていく。
ラウラさんと、キリルさんは、写真を撮りに行く・・と、席を立ち、二人で何やら話しながら撮影会をしていた。リファートさん・・・、カメラを夜でも撮影できるようにしたのよ。すごくない?
「カエ」
「ん、何?」
隣で座るセレムを見ると、さっとキスされて、思わず固まってしまう。
顔が一気に真っ赤になると、セレムがそれを面白そうに見る。
「み、見られ・・」
「星だけだ」
そう言って、そっと手を握る。
・・これで十分だ、そう言ってセレムが笑う。
私からのお礼にしては、お手軽すぎない・・?そう思ったけど、手を握りかえして、流れる星を見た。
星だけが見ているなら・・、今だけいいか。
そう思って、私もセレムにそっとキスした。




