何事も丁寧に。
アイシェさんという、体に沿ったデザインのドレスを着たプロポーション抜群なモデルのような美女さんは、優雅に微笑みながら、私とセレムの前へ歩いてくる。
「久しぶり〜!あら〜〜、可愛い子!よろしくね、私はアイシェよ。」
「あ、カエ・タナシロです。よ、よろしくお願いします。」
と、なぜかセレムの腕の中で自己紹介する。
あの・・・セレムさーん、私・・とても恥ずかしいのですが。
身じろぎするも、びくともしない。そういえば戦争で戦って、一番強かったって言ってたな。くそ・・美少年のくせに・・顔がいいくせに!強いとか!!
「姉上・・、転移してくるのは構いませんが、確認してからいらして下さい。いきなり来られると敵襲かと勘違いします」
敵襲・・・・。
あ、だから即臨戦体制だったのね・・と、納得するけど、いや、だから守られるのはセレムさんでーす。そっとセレムを見上げて、
「せ、セレムさん?・・・あの、そろそろ離して頂けると・・・」
美少年と美女に挟まれて気まずいうえに、私のライフゲージはすでにマイナスなんだ。
あのですね・・、若干抱きしめられて、もう・・息も絶え絶えなの・・。
ハッとした顔をしてから、少し赤くなって気まずそうにそっと拘束を解くセレム。やめてそんな顔しないで、私が恥ずかしすぎて、もう死にそう・・・。
「うふふ〜〜、かぁわいい〜〜〜!」
アイシェさん、目がキラッキラだな!恋バナとか大好きそうだな?!
私もセレムも、気まずいうえにお互い赤い顔をしてるのを、面白そうに見てるし・・。
「・・姉上、今回は困った事があったから、こちらに来ると伺いましたが?」
セレムが一つ咳払いをして尋ねる。
「あ、そうだった!え〜とね、飼っている幻獣が調子を崩しちゃって・・、セレムが育ててる植物の中に、薬になるのが確かあったなぁ〜って思って・・。確認したいんだけど、お部屋にあるかしら?」
「ああ、あの幻獣か・・。今度は何を食べたんです?」
「お医者さんがいうには、叫ぶマンドラゴラかなぁ〜ですって。」
おぉ・・・ファンタジー・・・。
一人、会話に聞き耳立てて、ちょっと異世界を堪能してしまう。
マンドラゴラを食べる・・・・聞いただけでお腹壊しそう。
「カエ、ちょっと一緒に来てくれるか?ちょうどいいから、薬草の説明もしたい」
「あ、はい」
部屋を出ようとする二人の後ろへローニャさんと一緒について行く。
セレムの温室にある植物は、本当に色々あって常に湧き水が流れているコーナーに浮かんでいるスイレンみたいな植物もあれば、エアープランツみたいに水をほとんど必要としない植物もある。私は155センチくらいの身長だけど、2メートルくらいの観葉植物みたいのもある。花は庭園で、こちらは植物のみ・・といった感じだ。
セレムは、いくつか置いてある植物を鉢ごと持ってきて、私を呼ぶ。
「薬草にはいくつかあるんだが、この5つは大体何にでも効くんだ。今回は腹を壊してるんで、この葉の裏側が黄色のやつを使う。葉の裏が白いこっちのは、火傷や切り傷に効く。こっちの丸い葉っぱのは、滋養強壮、風邪とかにも効く。どれも人間から、動物まで使えるやつだから、覚えておくと便利だぞ。」
葉を確認しながら教えてくれた。優しいねぇ。
「葉っぱは、上の方が効果が高い。量は人間でも動物でも大体2.3枚あれば大丈夫だ。熱にも強いから、煮て食べやすくしてもいいし、一刻を争っていれば、口に突っ込んでおけばいい。」
「突っ込む・・・。」
思わず突っ込みたくなるワードが・・。
そう呟いている横で、3枚葉っぱをもぎ、ローニャさんが持ってきた白いハンカチに置くと、綺麗に折り畳み、小さな布の袋に入れて、アイシェさんに手渡される。
「セレムが色々育ててくれてるから本当に助かるわ〜」
「でも、ここの植物は俺でなく、カエが水やりしてから随分元気に育ったんだ。異人の力かもな」
「え??私??!」
不意に話を振られてギョッとする。
植物係は、この異世界にとってちょうど良いポジションだったって事?
そういえばスックスク育つな〜大きくなれよ〜〜〜。なんて思ってたけど、本当に大きくなってたのか。この世界で私って、何かできるのか?って思ってたから、ちょっと嬉しい。農家とか目指すか?
「異人ちゃんって、すごいのね〜!じゃあ今度うちへもいらっしゃいな!うちも温室があるのよ!咲かない花がいくつかあるから、試して欲しいわ!」
「あ、私でよければ・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・姉上」
ちょっと座った目のセレムがアイシェさんを睨む。
なんなんだよーー。姉弟仲良しなんだろー。美女と美少年に挟まれ微妙な空気をローニャさんがお茶でもしましょうと、一掃してくれた。できるメイドは空気をも変える。よし、お茶でも飲もう。