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9.勇者たちの秘密会議

 どうにかビルの一室に逃げ込んだ私たちは、改めてお互いをじっくりと観察した。


「で、部友。なんでお前がここにいるんだ? 見た感じお前も戦闘組っぽいけど」


「アイラでいい。登録名もそうしてるから。なんでって、兵器を手に入れた人を探しにはるばるT21からやって来たんだけど」


「じゃ俺もサクヤで。サクヤ・T19-125な。で、その兵器ってパフェ博士のアムーレ何とかってやつ? だったらお前が探してるの、俺だよ」


 サクヤは胸を張って答えた。少し癖のある生まれつきの茶髪がぱっちり二重の目にかかる。ほんと、黙ってればイケメンと言えなくもないんだが。てか博士の名前くらいちゃんと覚えとけ。私は頭を抱えながらサクヤに尋ねた。


「あのさ、私突然この世界にこの格好で突っ立ってて、しかもなぜかステータス画面とかいうのが見えるんだけど、あんたもそうなの?」


「俺も同じ。通学中にピカッと光って、気づいたらこのオンボロ世界にいた。ステータスも見られるぜ。ゲームみたいで楽しいよな、これ」


「はあ……どうやら私たち、おんなじ境遇みたいね。仲間がいたのは嬉しいけど、その仲間があんたなのはちょっと微妙だわ」


「人を微妙呼ばわりすんなよ。俺はお前で良かったと思うぞ、お前頭脳派だからこの世界の考察? とかいうの任せられそうだしな」


「自分でも少しは考えな脳筋。で考察といえば一つ聞きたいことがあるんだけど」


「やっぱり考察してんじゃん」


「あんたが考えてなさすぎなの。それで、あんたの持ってるスキル教えてくれないかな」


「スキル? いいぜ。えっと『世界を救う愛』『アイテムボックス』『機動力強化』『近接攻撃強化』だな」


 その答えを聞いて私はまた頭を抱えた。やっぱりこいつも「世界を救う愛」持ちか。


「つかアイラのスキルは何なんだ?」


「私は『世界を救う愛』『鑑定』『ハイディング』『おとり』『回避強化』ね」


 実はカイのスパルタ戦闘塾を経て、レベルもスキルも上がっていた。上手く倒せなくてわんこそば的に増えまくったポーンから逃げまくってたら、いつの間にかスキルが増えていたのだ。


 私の特訓だからってカイはぎりぎりまで手を貸してくれなかったし、レイトにも手出し無用って言い切ってたなあ……あれは大変だった……。


 そんなことを思い出して遠い目をしている私をよそに、サクヤは興味深そうに目を見開いていた。


「おっ、お前もその愛スキル持ってんだな。これだけが何のことか全然分からなくってさあ。お前は分かる?」


「……分かんないけど、たぶん兵器と関係あるんじゃないかなって思ってる。あんたも兵器もらったときに聞いたんじゃないの? 『愛で兵器を育てる、愛で世界を救う』とかいうの」


「おう、聞いた聞いた。……って何でお前がそのセリフ知ってるんだ?」


 ちっ、そこに気づかれたか。脳筋のサクヤならスルーしてくれるかと思ったんだけど。私は首元にある金色の登録印を見せながら言った。


「……私も兵器持ちなのよ。秘密にしてるけど」


「おおっ、お前も金色か! なんで秘密にしてるんだ?」


「だってそんなもの持ってるってばれたら、絶対みんなにもてはやされちゃうじゃない。そんなの恥ずかしくて無理。実際、うちの拠点だとあんたすっかり英雄か勇者様みたいに言われてるわよ」


「俺が勇者様か……かっこいいぜ」


「お気楽でいいわね、あんたは。とりあえず、あんたも私の兵器のことは秘密にするように。勇者様はあんた一人でいいでしょ」


「うーん、なんか納得いかないけどまあいっか」


 なんとかサクヤの口止めには成功したようだ。しかしこいつにはもう一つ聞いておかないといけないことがある。


「でさ、もう一つ聞きたいんだけど……あんたのステータス画面、スキルの次にもう一ページあったりしない? よく分かんないパラメータの載ってるやつ」


「ああ、あのギャルゲっぽいやつ? LOVE度とかいうやつな」

「そう、それ。そこら辺はどんな感じ?」


「どんな感じって言われても……この世界に来た時に最初に出会った二人の名前と、なんか数字が書いてあった。ちょっと見てみるか」


 最初に出会った二人。そんなところまで私と一緒なのか。そういえば私もLOVE度は最近チェックしてなかったな。ちょっと見てみるか。


『PAGE 3』

(LOVE度)

 カイ 12/100(UP!)

 レイト 14/100(UP!)

 サクヤ 28/100(NEW!)


 ……は?

 ………はあ?

 …………………はああああああ!?


「「何だこれは――!!」」


 私たち二人分の叫びが、他に誰もいない部屋に響き渡った。






「なんで……なんでこいつの名前が……しかも数値高いし……」


「うっわ驚いた。なにこれ、お前攻略対象だったのか」


「攻略対象言うな。ということはそっちには私の名前が追加されてたのね……」


「されてるな。『ミヅキ 32/100』『ヒマリ 35/100』『アイラ 19/100』ってなってる。もしかしてお前の方には俺の名前が追加されてたりするのか?」


「残念ながらね」


 んー、さすがモテ男、私より全体的に数値が高いね。愛されてるね。


 と、ここであることに気づく。この数値って「相手から自分への好感度」を表すものだよね、たぶん。ゲームとかだとそんな感じだし。


 そうすると私からサクヤへの好感度が19、サクヤから私への好感度が28ということで……微妙な気分。あいつにそれなりに気に入られてたのか私。こんなところで知りたくはなかったぞ。


「ま、まあ気を取り直して。そのLOVE度ってのが『世界を救う愛』、そして兵器と関係があるんじゃないかって私はにらんでる。全ての鍵になるのは『愛』ね」


「自分で言ってて恥ずかしくねえ?」


「恥ずかしいに決まってるでしょうが! とにかく、LOVE度と『世界を救う愛』の発動には注意しといて。分かったわね」


「おう。って、あの愛スキルって発動とかするのか?」


「私は一瞬だけ発動してるのを見たことがある。視界の端の方に『発動中:世界を救う愛』ってウィンドウが出たのよ」


「へー、そうなんだ。まあ気をつけとくよ」


 サクヤがのんびりと言う。これで大体確認したいことは聞けたかな。ああそうだ、もう一つ聞きたいことがあったんだ。


「ところで私は記憶喪失ってことにしてるんだけど、あんたはその辺どうごまかしたの?」


「素直に異世界から来た、って言ってるよ」


「ガッデム!」


 私は三度頭を抱えた。何堂々と素直に喋ってるんだこいつ。どうしよう、こいつと私の関係について聞かれたらどう答えたらいいんだ。


 そんな私の悩みなんか全く気にしていない様子で、サクヤがのほほんとさらに言いやがった。


「お前もカミングアウトしちまえば? 私、実は異世界人でしたーって」


「そうしたら注目されちゃうでしょうが。うっかり注目されて、そのまま芋づる式に兵器持ってるのがばれちゃったら大ごとでしょうが!」


「ばれてもいいと思うけどなあ。ちょっとくらい勇者扱いされても」


「絶対にやだ! 目立ちたくない!」


 サクヤに怒鳴り散らした私は、あきらめ混じりに一つの答えを出した。


「……うん、私は記憶喪失だったけど、あんたの顔を見たとたん異世界人だったことを思い出したことにする。た・だ・し! 『世界を救う愛』についてはまだ伏せとくことにする! あんたも黙っといてよね」


「お前隠し事多いなあ。疲れないか?」


「変に目立つよりは百倍マシ」


 そりゃサッカー部のエースなんてやってりゃ目立つことにも慣れてるだろうけどさ、私はごくごく普通の帰宅部の陰キャですよ? 勉強は多少得意かもだけど、基本自分のペースで目立たずのんびり生きていたい生物ですよ?


 ともかくもサクヤからの事情聴収と口裏合わせが済んで一息ついた私は、そのまま雑談を持ちかけてみた。


「それより、あんたもマーキノイド狩りやってるの? 近接? 遠距離?」


「おう、最前線だな。銃器より直接殴る方が性に合ってるみたいで、ナイフ持って暴れてる。お前は? 見た感じ銃しか持ってないみたいだけど」


「私も割と近距離。力が低すぎてナイフが向いてない。でも物陰から狙って撃つのも苦手だったみたい。だから前に出て攻撃を避けながら至近距離で撃ってる。一緒にいる人が結構スパルタで、こないだ鍛えられたとこなの」


「その一緒にいる人って、LOVE度の人?」


「うん。この世界に来て最初に会った二人と、そのまま一緒に行動してる」


「俺もそうだな。この世界に来て最初に会ったのがミズキとヒマリで、その二人と今でも組んで狩りをしてるよ。あ、後で紹介するよ」


「うん。私の連れはカイとレイトっていうんだ」


 ここまで話したとき、何かに気づいた。私たち何か忘れてない? あ、そういえばサクヤは狩りから帰ってきたばかりで、連れの人たちに何も言わずにここに駆け込んだんだった。


「……あのさ、あんたの連れの人たちあんたのこと探してるんじゃない?」


「あ、そうだな。だったらそろそろここから出るか」


「だね。ちょっと長話しすぎちゃったし。いい、色々秘密の件忘れないでよ」


「はいはーい」


 こいつ、本当にちゃんと秘密にできるのか。こいつの性格と知能からすると、ついうっかり秘密漏らしちゃったりしそうでとっても怖い。


 異世界での再会が頭痛の種になるなんて誰が思うだろうか、まったく。



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