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6.施設の使い方ハンドブック

 無事にセンターでの登録を済ませた私たちは、また拠点のビルに戻っていた。そのまままっすぐ通信室に向かう。


 二人はそこで私に通信機の使い方を教えてくれた。通信機の横にぶら下がっているレジの読み取り機みたいなのを登録印に当てることで起動し、薄型テレビみたいなモニターに操作用の画面が表示される。あとはタッチパネルで捜査していけばいいとのことだった。


 起動の仕方以外は割となじみのある感じで簡単そうだった。しかしこれだと人前では通信機使えそうにないなあ。なんてったって私の登録印、レアな金色だし。見られただけで騒ぎになりかねない。


「そういえば、君の登録名を決めておかないとな」


「登録名?」


「うん。登録印を持つ者は、まず登録名を決めるんだ。通信機を使うための識別用の名前だね。年配の人は昔ながらの苗字を使ってるけど、僕たちみたいな若い連中は名前とナンバーの組み合わせにしてある。君、苗字はあるかな?」


「ナンバーでお願いします」


 即答した。色々あってフルネームはできる限り名乗りたくないのだ。


「分かった。君の登録印を読み込むぞ」


 そう一言断ると、カイが読み取り機を私の首に当ててきた。ピッと音がして、モニターに「新規登録開始」と表示が出る。カイがさらに操作すると、「アイラ・T21-327」と表示された。どうやらこれが私の登録名らしい。おお、なんかかっこいいかも。


 ちなみにT21というのがこの拠点の名前で、327が固有ナンバーなのだそうだ。同様にカイが「カイ・T21-65」で、レイトが「レイト・T21-412」だ。


 レイトの固有ナンバーが私のものより大きいが、これは「新規登録時に空いているナンバーにランダムで割り振られるから」とのことだった。




 通信機の操作を終えたカイとレイトは、センターへの道中で手に入れたエネルギー晶石を抽出器に放り込んでいる。しかしナイト・アルファのものだけは放り込まずにそのまま持っていた。


 どうするのか聞いてみると、「珍しいものだから技術班に渡してくる」という答えが返ってきた。昨日ポーンを解体していた三人組も技術班なのだそうだ。


「そういえば、昨日は技術班のところまで案内できなかったね。良かったら君もおいでよ」


「君の武器も一度見てもらうといい。見たところ何もカスタムされていない基本的なハンドガンのようだし、改造の余地があるかもしれない」


 そう言われては断る理由はないので、私も彼らについて技術班のところに向かうことにした。




 技術班の仕事場は、ビルの裏手に建てられた数棟のプレハブだった。昨日のショウとかいう落ち着きのない男子が、私たちを見つけて元気よく近寄ってくる。


 彼の姿を見ながら、その名前がLOVE度のところに表示されていなかったことを思い出す。彼は私と同年代だし恋愛対象になり得るとみなされてもおかしくないと思うけど。表示される基準って何なんだろう。


「どうしました? 整備ですか? 改造ですか? それとも何か掘り出し物が?」


 ショウが一気にまくしたてる。そんなご飯かお風呂か聞くようなノリで聞くようなことだろうか。


「全部だ。俺たちの武器の整備、できれば彼女の武器の改造、それとこれを持ってきた」


 カイが淡々と答え、ナイト・アルファのエネルギー晶石を差し出す。ショウはそれを見つめると、小声で「あれ? これって……ポーンじゃない?」と呆然としながらつぶやいていた。


 そこに通りがかったゲンタさんが「おう、ナイト種か珍しいな」と笑っている。ショウはびくりとしてエネルギー晶石を取り落としかけたが、カイが冷静にキャッチした。


「危ないな、こんなレアものを落として割っちまったら、技術班の連中がみんな激怒するぞ」


「だってゲンタさん、驚いたんですよ俺」


「まあお前は技術班に来て日が浅いからな。年に一個くらいは入ってくるんだよ、こういうのがな」


「年に一個……ほんとにレアものだった……危なかった」


 ショウが胸をなでおろしている。この憎めない感じ、親しさは感じるんだけどなあ。まあ彼がLOVE度と関係ないのなら、ある意味気楽に付き合えるかもしれない。クラスメイトみたいな感じで。




 私たちはショウの案内で一つのプレハブに入った。カイとレイトが得物を大きな机の上に置く。


 カイが出したのは大きくて分厚いナイフが二振りと、私のものより一回り大きなハンドガンだった。レイトのは細長い銃、こっそり鑑定してみたらスナイパーライフル(L)って出た。あとはカイのより小さなナイフ。二人とも銃と刃物の両方を持ってたのが意外だった。


 私も彼らに続き腰のハンドガンを机に置く。ゲンタさんがそれを手に取って向きを変えながらじっくりと眺めまわしている。


「ふーむ……素のままのハンドガンだが、物はかなりいいな。製造元を表す刻印が入ってないが、どこで作ったやつだ?」


「いえ、それが私、記憶がなくって。それもどこで手に入れたのか分からないんです」


「ええっ、そうなんだ!?」


 そう言えば技術班には私の記憶喪失設定を言ってなかったっけ、と思いながら説明すると、なぜかショウがすっとんきょうな声を上げた。彼の目線が服で隠れた私の首元に向かう。


「でも、登録印を調べれば君の身元は分かるんじゃない?」


「登録印もなかったんだよね。それでさっきセンターで登録してきたところなの」


「本人も持ち物も刻印なしってか。謎に満ちてるな」


 私とショウの会話に、ゲンタさんがしみじみとうなずいている。いや、私の身元は別に謎じゃないんだよね、異世界出身だなんてここのみんなには通じなさそうだから黙ってるだけで。私からしたら謎に満ちてるのはこの世界の方だよ。


「ショウ、あなた何大声上げてるのお。あらカイにレイトにアイラちゃん、ごきげんよう」


 その時プレハブの戸を開けて入ってきたのはリカお姉さまだった。ゲンタさんのところまでくねくねと腰を振りながら歩いてくると、私のハンドガンに目を落とした。


「あらあ、改造しがいのありそうな銃じゃない。今まで見たことないやつだし、もしかしてこれアイラちゃんのかしら?」


「はい、そうですけど」


「ねえこれカスタムしちゃいましょ? あなたのお望みどおりに、私が念入りに手を入れてあげるからあ。ね?」


 リカお姉さまは甘い声でささやきながら上目遣いに見上げてくる。長い髪がさらりと肩にかかってしなやかに揺れ、豊かな胸元に滑り落ちる。


 あ、世界を救う愛って女同士でもオッケーですか、と思わず誰かに聞きたくなってしまうほどのものすごい魅力だった。過剰な色気は心臓に悪いです。


「あ、はい、そのつもりで持ってきたんですけど……」


「あら素敵。だったらどういじっちゃう? 威力を上げる? 精度を上げる? それとも連射速度?」


 本日二回目のご飯かお風呂か構文。技術班でこういう言い回しが流行ってるんだろうか。


 しかしこうやって具体的な改造方針を挙げられても、正直どうしたらいいのか分からない。だって私戦闘初心者だし。ここはベテランの先輩に聞いてみよう。


「あのー……カイさんとレイトさんはどう思いますか?」


「ん? そうだな……精度か連射速度を上げた方がいいと思う。君は筋力がなさそうだし、下手に威力を上げると扱いづらくなりそうだからな」


「僕もその二つに賛成。あとは君がどう立ち回りたいかだね。僕みたいに隠れて狙撃するなら精度を上げればいいし、カイみたいに前に出て撃ちまくるなら連射速度だね。昨日君がポーンの攻撃をかわし続けてるのを見たけど、結構いい動きをしてたし前に出ても十分やっていけると思うよ」


 二人の答えを聞いて私は悩んでしまった。さっきのレベルアップで元々高めの素早さが上がってるし、「おとり」とかいうスキルも手に入れた。レイトが言うように前線でもやっていける気がしなくもない。


 ただなー、やっぱり怖いものは怖いんだよね。ナイト・アルファのボディプレスくらいかけた時は本気で死んだと思ったもん。実際カイがいなかったらたぶん死んでたし。


 この異世界ではゲームみたいにステータスとかが表示されたりするけど、ゲームみたいに復活できるとは限らない。できる限り慎重に行きたい。となれば答えは一つ。


「でしたら、まずは精度を上げてもらえますか。まだ前に出るのは怖いので」


「わかったわあ。きれいに仕上げてあげるから楽しみにしててね」


 リカお姉さまは魅惑的な笑みを浮かべると、私のハンドガンを胸にしっかりと抱きしめた。そういえばお姉さまはいつも色気全開だけど、技術班もカイもレイトも全く動じていない。慣れなのか。慣れってすごいな。


 そうして私たちは武器を技術班に預けると、三人でのんびりとプレハブを出た。こうして武器が戻ってくるまで、しばし休息を取ることになったのだった。



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