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3.小難しい話って眠くなるよね

「マーキノイドは三十八年前、地球に現れた機械生命体だ。ある日世界各地の都市部に突然現れ、人類を殺し始めた。しかも奴らは周囲の機械を取り込んで増殖する性質もあった。ものの数年で人類は危機に追い込まれたんだ」


 硬直から立ち直ったカイとレイトは空いた部屋に私を連れて行くと、そこで一から解説を始めてくれた。どうやら記憶喪失の私が記憶を取り戻すきっかけになれば、と考えたらしい。二人とも親切だ。


「その状況を打破したのが時の天才、機械工学の専門家であるクライスター博士だよ。博士はマーキノイドが取り込めない機械を作ることに成功したんだ。その新しい機械を用いて、人類は安全な拠点をいくつも作り上げ、生き延びたんだよ。ここもその一つだね」


「その新しい機械の動力源として、マーキノイドの心臓部であるエネルギー晶石を採用したのは合理的というか、何というか」


「そのおかげで人類の長年の課題だったエネルギー問題が解決しちゃったんだから、なんとも皮肉な話だよね」


 レイトがうんうんとうなずいている。なんでも、先ほど洗濯機もどきに放り込んだエネルギー晶石二つで、このビル一棟の数日分のエネルギーを賄えるのだそうだ。ただ、エネルギー晶石の使い道は山ほどあるので、いくら集めても足りないらしい。


 ちなみに洗濯機もどきを鑑定してみたら、『エネルギー変換器:エネルギー晶石からエネルギーを抽出する』と出てきた。そのまんまだった。


「そうやってクライスター博士の偉業により人類が滅亡の危機から救われた後、彼は次の手を打とうとした。分子生命学の天才と呼ばれたパルフェット博士と協力し、マーキノイドを一掃する方法を探し始めた」


 突然現れた侵略者とそれにより滅びに瀕した人類、そしてそれを救う天才たち。うーん、すがすがしいほどベタな流れだ。きっとその天才たちは何か最終兵器的なのを作り上げたんだろう。で起動に失敗したか、あるいは未使用で眠っているか、そんなとこだろうな。


「そして彼らは一つの兵器を作り上げた、と言われている」


 ほらビンゴだ。しかし「言われている」ってどういうことだろうか。


「その世界を救うための兵器はどこかに隠されていて、資格のある者の前にだけ姿を現すようにしてあるとかいう話だね。なんでも、誰にでも使える兵器じゃないらしい。……ああ、そう言えば、センターで登録印を書き込むときにその資格の有無を判断しているっていう噂もあるね」


 さっきまでSF感全開だったのに、ここで一気に伝説の勇者感が出てしまったか。うーんファンタジー。それにしても兵器を使う資格って何なんだ。


 ……世界を救う、か……私のステータスにある謎スキル「世界を救う愛」が一瞬頭をよぎったが……まっさかねー。ないない。嫌な予感がするのは気のせいだ。


「まあ、その兵器を血眼になって探している拠点もあるらしいがな。俺たちにはそんな余裕はないし、こうやって日々マーキノイドを狩りながら暮らしている」


 そう言ってカイが話を締めくくった。少し話し疲れたのか目をつむっている。まあ、改めて語ると結構重い話だもんね。一方のレイトはけろっとした顔をしているけど。


「それでカイ、アイラちゃんをセンターに連れて行くの、いつにしようか? 僕は今からでもいいけど」


「いや、明日にしよう。彼女はそこまで戦えないようだし、守りながらだと時間がかかるかもしれない」


「それもそうか。じゃアイラちゃん、ここを案内してあげるよ。ついてきて」


「俺はほかにやることがあるから。じゃあ、また明日な」






 そうして私はレイトに連れられて部屋を出た。彼はいったん私を屋上に連れて行くと、全フロアを端から順に案内し始めた。それはもう丁寧に。いっそ粘着質なレベルで。そんなに一気に説明されても覚えきれないってば。


 とりあえず屋上で野菜育ててることと、上の方のエリアは偉い人がいるから近づかない方がいいってことだけは分かった。


 下の方のエリアは居住区になっていて、私たちが歩くとあちこちから声がかかった。「レイトにいちゃん、また遊んでね」と言っている子供とか、「カイさんは一緒じゃないの」と聞いてくるちょっとませた感じのお嬢ちゃんとか、「かわいい子連れてるね」と冷やかしてくるおばちゃんとか、「この間のあれは助かったよ」とレイトにしか通じない話をしているおじいちゃんとか。あれ、年齢層がやけに偏ってるな。


 私の疑問を察したらしいレイトが言うには、「若いのはみんな仕事だよ、上のフロアとか他のビルとか。僕たちみたいに外でマーキノイドを狩ってる戦闘部隊もいるけど、数は少ないね」とのことだった。なるほど、私がたまたま彼らに助けてもらえたのはかなりラッキーだったんだろう。


「……あの、さっきは本当にありがとうございました。あなたたちが通りがかってくれなかったらどうなっていたか」


「ふふ、どういたしまして。あのときは驚いたよ、拠点の外で女の子の叫び声を聞くことなんてまずないからね。戦闘部隊に女性がいるのは珍しいし、登録しにセンターに向かってる子がいるのかなって一瞬思ったけど、君がいたのはセンターとは真逆の方向だったし」


 ……本当に彼らに出会えたのはラッキーだった。というかかなり危機一髪だったな私。まあこうやって彼らと知り合えたのだし、ここからは比較的安全にやっていけるだろう。


 そんなことを考えていると、レイトはビルの外に出た。今度はビルの外を案内してくれるらしい。親切なのは分かるんだけど、もう一日に詰め込んでいい情報量をオーバーしてるんだよなあ。テストの一夜漬けでももうちょっとマイルドだったってば。




 どうにかそろそろレイトを止めたいなあなどと思いながら歩いていると、不意に予想外のものが目に入った。


 ビルの向こうに見えたのは、植え込みとベンチ、そして地植えにされた数株の薔薇。こんな廃墟だらけの世界には不釣り合いな、美しい緑の公園。


 私が驚いて立ち止まっていると、それに気づいたレイトが引き返してきた。私の目線の先に目をやり笑う。


「ああ、あれ? きれいだよね。あそこは元々公園だったから、ああいうのも残っていたんだよ。ほら、マーキノイドって人間以外の生き物は攻撃しないから」


「なんか不思議な感じですね。……みんな生きていくので精一杯に見えるのに、そんなところにこんなものがあるなんて」


 私が素直な感想を述べると、レイトはほんの少し切なそうに笑った。そのまま私を連れて公園に入りベンチに一緒に座り、ふくよかな香りを漂わせながら咲き誇る薔薇を指さした。


「確かに僕たちは生きるのに必死だよ。でもだからこそ、ああいったものは大切なんだ。心が生きるためにね」


 意味深に笑うとレイトは黙ってしまった。私は何か返事をしようとしたけれど言葉が見つからず、沈黙が流れる。


 あーまずい、今気づいたけどこの状況はちょっとどうかと思う、若い男女がベンチで二人きりでって。変に意識してしまうのはやっぱりあれが悪い。LOVE度。


 とにかく今の状況から気をそらそう。元の世界ならスマホでもいじってるところだけど、今の私が見ていられるものなんて、せいぜいステータス画面くらいなものだ。といっても特に何も変わっていないと思うけど。


 そう思って開いた三ページ目に、ちょっと変化があった。


『PAGE 3』

(LOVE度)

 カイ 1/100

 レイト 2/100(UP!)


 いつの間にかレイトのがちょっとだけ上がっていた。それに気づくとさらに彼を意識してしまいそうになる。うう、気をそらそうとしてステータス画面見たのに、これじゃ逆効果だ。


 そう思った瞬間、鼓動がどくん、と一つ大きく打った。視野の隅に一瞬だけウィンドウが現れてすぐ消える。一瞬のことだったが、何が書いてあるかは読めた、確かに『発動中:世界を救う愛』って表示されていた。


 えっ、このタイミングで謎のスキルが発動するって、一体どういうことなんだ。しかも一瞬だけって。




 ……もしかしてさあ、このスキルって私がときめくと発動したりするの? もしそうだとしたら発動条件のハードルは結構高い気がする。今は単にムードに流されかけただけだし、普通に生きてればそうそうときめくことなどなさそうだ。少なくとも私はそうだ。


 それにスキルの名前から推測すると、ちゃんと発動させれば世界が救えちゃいそうな気配がするけど、具体的に何がどうなるというのか。


 うん、やっぱり謎だらけのスキルだね。放置決定。




 幸いそこでレイトの案内ツアーはいったん終了し、その日私は居住区の空き部屋で休むことになった。


 やっと一人になれる……と思ったけど、新入りが来たというのが既に拠点中に広まっていたらしく、入れ代わり立ち代わり人がやってきては挨拶したり雑談したり……。どうやら私は、娯楽に飢えていたらしいここの人たちの格好の餌食になってしまったっぽい。


 夜も更けたころやっと一人になれた私は、疲れ果てて眠りについた。知らない世界に来てしまった不安はほとんど感じなかった。みんなフレンドリーすぎて、それどころじゃなかったよ……。



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