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21.これって中ボスで合ってるよね

 その機械の像はビショップよりも一回りほど大きく、けた違いの威圧感を放っていた。けれど横幅はずっとほっそりとしており、そして足元はすそが広がっていて、まるでドレスのような形状をしていた。


 しかしよく見るとその裾には大量の切れ込みが入っていて、ひも状の裾がうねうねと動いていて大変気持ち悪い。イソギンチャクっぽい。


 まずは鑑定だ。こいつの情報をつかまないと。現れたウィンドウにはこう書かれていた。


『クイーン・デルタ:クイーン種のより高度に進化した個体。他のマーキノイドを呼び寄せ、さらに指示を出すことができる。弱点は底部中央』


 うっそ。なんかすごく強そうな名前なんですけど。しかもその弱点、どうやって狙えっていうんだ。


 とりあえず私が鑑定結果をそのままみんなに伝えると、一気に緊張が走った。


「他のマーキノイドを呼び寄せる、か。ある程度作戦を立てないと、物量で押し負けかねないな」


「まずは私があいつの気を引きます。そうやって行動パターンを調べましょう」


 険しい顔で考えているカイにそう言って、私はおとりとなるべくクイーン・デルタの前に進み出た。いつものようにスキルを発動する。


 ……あれ、スキルが前と違う。前は「おとり」だったのに、「オフェンシブ・デコイ」になってる。何かよく分からないけど、これってスキルが進化したとかそういうのだよね、きっと。……劣化していないことを心から祈る。


 まあ今はそんなことをのんびり考えてる暇はない、さあどんとこいクイーン・デルタ!


 そうして私が身構えながらクイーン・デルタの前に立ったとたん、クイーン・デルタがこちらを向き、口らしき場所をぱかっと開いた。ビショップ・アルファみたいなビームか、それとも何か吐き出すとかか? よく見て避けないと。


 しかし予想に反して、クイーン・デルタが発したのはただの叫び声だった。電子音と人の叫び声の中間のような、妙に生々しい叫び声。


 たぶん、これって増援を呼び寄せてるんだよね、ポーンと同じ感じで。カイたちも同じように考えたらしく、さらに警戒を強めている。




 こいつが増援を呼ぶのはいいとして、本体はどうやって攻撃してくるんだろうという私の疑問は、この後すぐに解決することになった。


 クイーン・デルタはひも状の裾の一部を持ち上げると、それを伸ばしてこちらに切り付けてきたのだ。意外によく伸びるので射程範囲も長め。そしてたぶん切れ味も良さそうだ。裾の向こうにちらりと見える本体はもろそうだし、あっちを狙えればいいんだけどなあ。


 私は腰に下げていた刺突ナイフを手にし、クイーン・デルタの攻撃をさばいていった。こいつは見たところ攻撃後の隙が大きめなので、刃物で受け流した後そのまま裾を切りつける方が効率良く戦えそうだ。


 T21を出るときにショウが言っていたように、非力な私でも突き刺すようにすればそれなりにダメージが通るようだ。もうこのままじわじわと削っていった方がいいんじゃないなあ。


 一瞬そう思ったものの、やっぱりそれは無理そうだと思い直す。さっきの叫び声に反応したらしいポーンがわらわらとやってきているのが目の端に映った。最初にやって来たポーンの群れを片付けてこちらに向かおうとしていたサクヤとヒマリが、新しく来たポーンに向き直っている。


 そしてそれとほぼ同時に、後ろからマサキの叫び声が上がった。


「こっちも増援だ、ナイト種二体! よく分からないがアルファじゃないぞ、こいつら」


 どうやら長期戦はこちらに不利みたいだ。次々と仲間を呼ばれてしまったら、そのうち戦えなくなってしまう。いつまでもこうやって避け続けられるものでもないし、持ってきた弾丸にも限りがある。


 マサキの叫びを聞いた私は数歩下がると、新たに現れたナイト種を鑑定した。さすがにクイーン・デルタの相手をしながらでは鑑定は難しい。新しく現れたそれは確かにナイト種だったが、細かい形状がナイト・アルファとは大きく違っていた。


『ナイト・ベータ:ナイト種の進化型。機動力と耐久力が強化されている』


「それはナイト・ベータです! 機動力と耐久力が強化されている以外は、アルファと同じみたいです」


「サンキュ! 俺とヨウでこいつら抑えとく。片付いたらそっちに合流するわ」


「ベータだと僕でもすぐには倒せないから、それまで気をつけて」


 私が増援の情報を叫ぶと、マサキとヨウから返事があった。この間にもクイーン・デルタが私の方に向かってきている。もう彼らの方を見ている余裕すらない。ああ、忙しい。




 さて、これでクイーン・デルタとやりあえるのは四人。私、カイ、ミヅキ、それとレイトだ。どうにかして底の弱点を狙いたいところだけど、どうしよう。


 クイーン・デルタの攻撃を避けながら必死で考えていると、カイが叫んだ。


「レイト、ミヅキ、手伝ってくれ。あいつを転倒させる。アイラ、君はそこでそのまま攻撃を回避していてくれ。俺たちがあいつを転ばせたら、弱点を狙い撃ってくれ」


「え、私が、ですか?」


「ああ、君ならやれる」


 どうやらカイは何か作戦を思いついたようで、そして何故か私ならやれると確信しているらしい。だったらその信頼に応えたい。しかし何をするつもりなんだろう。


 カイはミヅキを促してクイーン・デルタの後方に回り込んだ。着ているジャケットのポケットから持ち手がついたワイヤーのようなものを引っ張り出し、一つをミヅキに放り投げる。


「ミヅキ、首を狙え。タイミングを合わせて同時に後ろに引く。レイト、俺たちの動きに合わせて頭を狙ってくれ!」


 カイが大体何をやろうとしているのか私にも分かった。まずはカイとミヅキが首にワイヤーをからめて後ろに引っ張り、同時にレイトが頭を狙撃することで後ろに転ばせる。


 そうすればクイーン・デルタの正面にいる私からは弱点が丸見えになる。そこを至近距離で撃ち抜けばいいのか。クイーン・デルタは縦に細長い体形をしているし、タイミングが合えばうまく転ばせることができそうだ。




 私はクイーン・デルタの気を引きながら、辛抱強くその時を待った。カイとミヅキが放ったワイヤーがクイーン・デルタの首にからみつく。


 一瞬クイーン・デルタが彼らの方に向きそうになったが、一発撃ってやったらまたこっちを向いた。よそ見しないでよ、あんたの相手は私なんだからね。


 二人はワイヤーをたるませたまま機をうかがっている。私もクイーン・デルタの気を引きながら、ハンドガンをしっかりと両手で握った。今は反撃とかは考えない。回避に専念しながら、その一瞬をひたすら待つ。


「今だ!」


 カイの掛け声と共に二本のワイヤーがぴんと張られ、ひときわ大きな銃声が後ろから響いてきた。目の前のクイーン・デルタがゆっくりと傾いていき、……倒れた。


 私はその底面の中心に狙いをつけて、至近距離から銃弾をありったけ撃ち込んだ。






 私のハンドガンに装填されていたのは威力を強化した改造弾丸、数は六発。その全てがクイーン・デルタの弱点に命中した。私だって訓練は積んでいるし、この至近距離で動かない的を外したりはしない。鑑定スキルのおかげで弱点の位置も正確に分かっている。


 クイーン・デルタは倒れたまま動かない。ずっとうごめいていた裾も、力なく垂れ下がったままになっている。




 倒したか、そう思って警戒を解いたのが甘かった。


 クイーン・デルタは最後に一撃を加えてきた。最後の力を振り絞ったのか、刃物のようになった裾の一部を、真っすぐに私の方に伸ばしてきたのだ。


 油断していた私は避けきれず、右足を大きく切り裂かれた。



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