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20.そんな設定もありました

 その日も私たちは全員T8にいた。そろそろT21に戻るべきかなと思いつつも、何となくだらだらと滞在が延びていたのだ。まあ、愛を育むだけならどの拠点にいてもあんまり変わらないしーとかのんびり構えていたのもある。


 思えば、T19に行ったのはサクヤに会いに行くためだったし、T8に来たのもシロカさんを探すためだった。けれど今のところ、急ぎで会いたい相手はいない。


 それに、こうやってみんなで一緒にいるのは楽しかった。三角関係やらなんやらはあるけれど、それを差し引いてもみんなでわいわいしていると、元の世界で友達とはしゃいでいる時を思い出せたのだ。


 私たちがT21に戻るのなら、T19組やT8組ともいったんお別れになってしまうかもしれない。そう考えると、帰ろうとは中々言い出せなかった。


 それに、私たちはただだらだらしていた訳ではない。ちゃんと毎日狩りに出てエネルギー晶石を集め、滞在費代わりにT8に納めていた。


 しかもサクヤが兵器持ちとしての特権を行使し、というか兵器の人としてちやほやされたりしたので、私たちはT8に長く居座ってはいたけど、別に肩身の狭い思いはしていなかった。態度のでかい居候だと自分でも思う。






 そんなある日唐突に、T8内にサイレンのような音が鳴り響いた。今まで一度も聞いたことのない音だった。続いて、辺り一帯にアナウンスが流れる。


『大型の未確認マーキノイドが拠点近くに出現しました。戦闘部隊は迎撃態勢を整えてください。その他の者は屋内に避難してください』


 私はその時カイとレイト、それとミヅキと雑談中だった。アナウンスを聞いた三人は、そのまま立ち上がり走り出す。私も後を追った。




 建物の外にはサクヤたちも全員集まっていた。私たちは顔を寄せ合うと、小声で話し合う。


「ねえ、大型の未確認が出たって、これってもしかしなくても……」


「兵器はマーキノイドを引き付ける、っていう、あの……」


 ミヅキとヒマリが遠慮がちに切り出すと、他のみんなも深刻な表情になった。


「やっぱり、そうだよなあ……」


「失念していた」


「三人がずっと一緒で、かつ同じ場所にい続けた、というのも大きかったんだろうね」


 マサキとヨウが頭を抱えながら肯定した。レンも額に手を当てながら付け加える。


 一方でサクヤは鼻息が荒い。一人だけ空気を読まずにやる気満々だ。


「いいじゃん、大型だろうが何だろうが倒せばいいだけだし。アイラがいれば種族とか弱点とかもすぐに分かるしな」


「俺もサクヤに同意見だ。既に大型は来てしまったのだし、今原因をどうこう言っても始まらないだろう。俺たちにできることは、一刻も早くそいつを排除することだ」


「ええ、私もそう思うわ」


 サクヤがそう軽く言い切ると、意外にもカイがあっさりと同意していた。そしてそのカイに、シロカさんがほんの少し頬を赤らめながらうなずいている。


 なおシロカさんはカイしか見ていない。同じようなことを言っているのにサクヤはスルーされている。ちょっとかわいそうになってきたかもしれない。


 真剣な目で話を聞いていたいたレイトが、ふっと肩の力を抜いてシロカさんとレンの方を見た。


「確かに、今はあれこれ考えるよりも大型を倒すのが先だね。シロカさんとレンさんは戦えないから、ここで待っててもらおうか」


「お願い、私も連れて行って」


 レイトの言葉に、顔色を変えたシロカさんがすぐに反論した。彼女はどうあってもカイの近くにいたいらしい。


「そ、そうだよ。シロカさんだって全く戦えない訳じゃない……はずだよ。それに、何が出てきても俺が守るし」


 シロカさんに良いところを見せたいらしいサクヤが口を挟んだ。しかし微妙にフォローになっていない気がする。


 しかし未確認の大型を相手にするという時に、自分の身すらまともに守れない人間がいるのは非常に危険だ。非戦闘員の二人には何が何でもここにいてもらわなくては。


 どうにかして彼女を説得しなければとみんなで困った顔を見合わせていると、いつもよりずっと険しい顔をしたカイがシロカさんをまっすぐに見つめ、はっきりと言い放った。


「君が何を考えているかは分からないが、君は足手まといにしかならない。これから相手にするのは戦いなれたポーンやナイト種ではなく、未確認の大型だ。俺たちには、君を守りながら戦うだけの余裕はない」


「…………」


 思えば、カイがここまでしっかりとシロカさんを見つめているのは初めてかもしれない。シロカさんはその迫力に圧倒されたのか、血の気の引いた顔でうつむき、唇をかみしめている。


 二人以外の全員が、無言で事の成り行きを見守っていた。マサキが何か言おうとしてまた口をつぐんでいる。


 しばらく沈黙が流れた後、シロカさんが振り絞るようにして小声でつぶやいた。


「……分かったわ。私はここに残る」


 誰からともなくため息がもれた。これでやっと、大型マーキノイドの討伐に向かえる。誰も言葉に出してはいなかったけど、そう考えているのは互いの表情から丸わかりだった。




 そして私たち八人は何とか戦闘態勢を整え、真顔のレンと仏頂面のシロカさんに見送られながらT8の外に出たのだった。「こんなことなら、面倒でもちゃんと戦っておくんだったわ……」とうなるような声でシロカさんがつぶやいているのがかすかに聞こえた気がするが、怖いので聞かなかったことにしておく。






 拠点を出てすぐ、レイトが全員に注意をうながした。気配察知のスキルを持っている彼は、マーキノイドに気づくのが誰よりも早い。


「近いよ。たぶんポーンも一緒にいる」


 それを合図に、私たちは全員武器を構え陣形を組む。カイとサクヤを先頭に、そのすぐ後ろに私。ヒマリはミヅキやレイトと一緒に中央にいる。さらにその後ろでマサキとヨウが背後を守っている。敵がどちらから来るか分からないので、全方位を警戒する態勢だ。


「来た、右後方!」


 レイトが短く叫んで物陰に身を隠す。言われた方向を振り向くと、ポーンが数匹こちらに向かっていた。一番近くに立っているマサキとヨウが応戦する。


 ヨウが器用にポーンの首を落とすと、マサキが一撃で撃ち抜いて仕留める。まあ、このメンバーならポーンごとき何体来ようが敵ではないな。


 そんな彼らを見ていた時「左前方!」とまたレイトの声がした。こっちもポーン数体だ。こっちはサクヤとヒマリが飛び出して迎撃している。こちらも中々いいコンビネーションだ。二人に任せておいて問題ないだろう。


 カイ、私、ミヅキの三人は元の位置から動かずに、周囲を警戒し続けている。襲ってきたポーンは四人に任せ、近くにいるはずの大型の気配を必死で探る。


「二方向から同時にポーンが来たというのが、どうも気になるな……」


 カイがつぶやいている。私も同感だ。ポーンは二、三匹で連携して動くことはあるけど、こんな風に二つの群れが連携しているのを見たことはない。


「まさかとは思うけど、今回出た未確認の大型って、指揮官みたいな役割をしていたりするのかしら? ほら、マザーはマーキノイドの指揮官のようなものだという話だし、高度な機能を持つ大型なら、似たような機能を持っていてもおかしくないと思うの」


「あり得るな」


 ミヅキも同じことを考えていたらしい。とすると、そろそろ本命が奇襲をかけてくる頃合いなのかもしれない。ポーンをけしかけて私たちを分散させ、人数が減った今。


 そんな不吉な考えが頭をよぎった瞬間、レイトが「上だ!」と叫んだ。私たちはとっさに上を見、そしてすぐに散開した。




 舞い上がる砂ぼこりの中、さっきまで私たちが立っていたところに、異様な姿をした大きな機械の像が立っていた。



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