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19.真剣な話なんだけどね

「俺たちは、兵器を完成させるのに必要となる特定の相手が誰なのか分かっている」


 サクヤが凛とした声で言った。ここまではまだ大丈夫だ。ここで止めておいてくれ。


「そしてそれが誰なのか、きっとみんなも薄々気づいているとは思う。けれど指摘しないでいてくれると助かる」


 お? うまい具合に話をそらしたか? 私と意見が一致しているぞ?


「この兵器の完成に必要なのは俺たちの愛情だ。それってさ、とてもデリケートなんだよ」


 デリケートとは縁のなさそうな脳筋サクヤにしてはいいことを言っている。たぶん、現状では絶望的としか言いようがないシロカさんへの恋心がなせる業なんだろう。


「だからもう少しの間だけ、このまま見守って欲しい。俺たち、きっと兵器を完成させてみせるから」


 そう言ってサクヤがみんなを見渡すと、全員が神妙な顔をしてうなずいた。どうにかこの場は乗り切ったらしい。ナイスだ、サクヤ。


 とか安心していたら、その場の空気をぶち壊したやつがいた。シロカさんの連れのイケメンチャラ男ことマサキだ。


「けどさ、ただお前らを放っておいていいわけ? あんまり消極的だと、愛情とかってうまく育たなくね?」


 あろうことかマサキはそう言ってにやりと笑う。彼はちらりとシロカさんの方を見ると、意味ありげに付け加えた。


「お前ら三人は三人でゆっくり愛情とやらを育てる。俺らは俺らで攻めていく。それでもいいよな?」


 この言葉にヒマリが小さくうなずいているのを私は見逃さなかった。肉食勢による宣戦布告だな、これは。うちは二人とも草食系っぽくて助かった……。




 なんだか微妙な空気の中、この日の話し合いはここで解散となった。まだロシェ博士のデータベースを記録する作業も終わっていないし、それを読む作業も残っている。


 まだ日が落ちるまで時間があったので、昨日と同様に私とカイ、レイト、それとレンがセンターに向かって記録の続きをやることになった。


 私に宣戦布告しているシロカさんもついていきたいと熱心に頼み込んでいたが、「ポーン以外のマーキノイドが出るかもしれない現状において、この少人数で君を守ることはできない」と当のカイに断られていた。


 その場にいたレイトとレンはどうやら彼女の意図に気づいていたようで、二人とも苦笑していた。シロカさんには申し訳ないけれど、ちょっとだけ嬉しかった。






 そうしてセンターに向かう道中、レイトがふとつぶやいた。


「カイも苦労するよね」


「? 何のことだ?」


「たぶんこの中で分かっていないのは君だけだよ」


「俺だけ? ということはアイラ、君も何のことか分かっているのか?」


「ええと、まあ一応」


 一応どころか全部知っているけれど、そんなことをばらす訳にもいかないのでお茶を濁した。そんな私たちの会話に、レンも苦笑しながら加わった。


「これはあくまで私の意見でしかないけれど、彼女はきっと今まで求めて得られなかったものなどなかったのだと思うよ。だからあそこまで強気でいられる」


「拒絶されるなんてかけらほども思ってなかったって顔してたよね」


 シロカさんは元の世界ではたくさんの人にちやほやされていて、彼女の願いをかなえようと躍起になっている人間も数知れずだった。それはこっちの世界でも同じだったし、二人の指摘は当たっていると私も思う。


 けれどカイはまだ私たちが誰の話をしているのか分からないようで、しきりに首をかしげていた。


「彼女? 誰を指しているんだ?」


「いいよ、カイは分からないままで。君は昔からそうだったし」


 一人だけ話についていけていないカイを囲んで、私たちは笑いあった。兵器がどうとかそういうことに関係なく、ただひたすらに心地いい時間だった。




 センターについてからの作業は昨日と同じだった。データベースにアクセスする時以外に私の出番はほとんどないので、私はまたみんなに断って外に出た。昨日と同じ物陰に同じように座る。そうしたら昨日と同じようにカイが来て横に座った。


 と言っても特に話すことも思い浮かばなかったので、そのまま並んで景色を眺めていた。




「……今日はもう、泣かないのか」


 しばらくそうしていると、不意にカイがとんでもないことを言い出した。昨日のことは結構恥ずかしかったので、できればそっとしておいて欲しい。


「はい、大丈夫です。昨日のでもうすっきりしましたから」


 それに、カイと二人きりだとシロカさんの宣言が頭をよぎりまくってそれどころじゃないっていうのもあるけど。


「そうか。辛くなったらいつでも言ってくれ」


「……ふふ」


「どうした?」


「いえ、レイトさんも前に同じことを言ってたなあって」


「レイトが?」


「はい。カイさんもレイトさんも本当に優しくて、私がこの世界に来て最初に出会ったのがあなたたちでよかったなあって思ってます」


「……そうか」


 カイが少し笑っているのが声で分かった。そしてまた沈黙。カイは元々口数が多い方ではないし、私も無理に話題を探す必要を感じなかったのでそのままでいた。


「あの、カイさん」


「何だ?」


 ふと、彼に尋ねたいことがあったのを思い出した。


「さっきの……シロカさんのことなんですけど、どうして同行を断ったんですか? 彼女は確かに戦えませんけど、それは最初の頃の私も同じでしたし」


 自分から彼女の話題を振るなんて自爆してるなとは思ったけど、それでも気になって仕方がなかったのだ。どうして彼はT19に行きたいといった私の望みをかなえてくれたのに、センターに同行したいという彼女の申し出を断ったのか。


 私がこう聞くと、すぐにカイは短い答えを返してきた。


「君は彼女とは違う」


「違う……って、どういうことですか?」


「最初の頃の君は確かに弱かった。けれど俺がナイト・アルファと戦っているとき、俺を助けようとして物陰から飛び出すくらいの気概はあった」


 言われてみればそんなこともあった。あれは私が登録しにセンターに行く途中のこと。カイが足をもつれさせたのを見て、反射的に飛び出したんだった。


「あ、あれはカイさんが危ないと思ったらつい勢いで」


「勢いでもなんでも、君には戦う覚悟があった。彼女にはそれがない。だから断った」


「戦う、覚悟?」


「ああ。ビショップ・アルファと交戦したとき、彼女は技術班であるレンの陰に隠れたまま動かなかった。彼女は俺たち前衛がビショップ・アルファを何とかしてくれると思っていた。そんな相手に背中は任せられない」


 ……えーと。前からカイって戦闘に関してはスパルタ系だと思ってたけど、まさかここまでシビアだったとは。この情報、シロカさんには黙っとこっと。


「……これで答えになっただろうか?」


「はい、ありがとうございます。……これからも頑張りますね」


「ああ。応援している」


 私がそう答えると、カイが微笑みながら励ましてくれた。




 それからしばらく無言で過ごした後、私たちは一緒にセンターの中に戻った。レンはそろそろ作業を切り上げようとしていたところで、レイトは暇つぶしにデータベースを読んでいた。


 レンが作業を終えるのを待って、みんなでのんびりとT8に引き返した。帰りの道中またビショップ・アルファに出くわしたけど、いつものコンビネーションであっさりと倒すことができた。さすがに三回目ともなれば慣れたものだ。それにたぶん、私のレベルも大分上がったと思う。


 ……実のところ、ステータスウィンドウを開けたくない。うっかり開けちゃったら三ページ目のLOVE度見たくなるだろうし、そうやって数値を確認したらきっと彼らのことを余計に意識しちゃうし。いや兵器のためには意識しないといけないんだけどね?


 サクヤとシロカさんはどうしてるのかなあ、と一瞬考えたが、そもそもこの二人は悩みようがないんだった。サクヤはどうにかしてシロカさんを振り向かせようと必死だし、そのシロカさんは私に宣戦布告してるし。


 私もあの二人みたいに誰かに向かって一直線に走っていけたら簡単だったのに。ほんと、恋愛って難しいね。






 こんな風に拠点とセンターを行き来する生活を数日続け、やっとデータベースの全てを記録することができた。そしてそれらの解析も進んだことで、マザーが封じ込められた場所も特定できた。


 かつてこの辺りの拠点を束ねていた中枢拠点であるT1、そこにあるネットワークの中。そこがマザーが封じ込められた場所だった。

 前に拠点の通信機で調べたとき、T1は徐々に人が減っていき今では無人のまま閉鎖されていると書かれていたけど、それはマザーがそこに封じられたからなのだろう。


 こうして兵器についての詳細と、倒すべき相手とその居場所が全て判明した。あとは兵器を完成させるだけ。……個人的にはそこが一番難関だ。ここはサクヤの頑張りにかけるしかないだろう。もしくはヒマリの根性に。おそらく現状では、その二人が一番兵器の完成に近いところにいる。


 そんな風にのんびり考えていた矢先、それどころではなくなる程のとんでもない事態が起こったのだった。



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