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18/42

18.方向性の違いで解散しそう

 私たちセンター残留組はもうしばらく記録作業を続けた後、暗くなる前にT8に戻った。夜間に拠点の外にいるのは自殺行為だからだ。


 マーキノイドは暗視スコープにはほとんど映らないのに、どうやらあちらは暗視機能を持っているらしく、暗闇でも的確にこちらを追いかけてくるんだそうだ。不公平だ。


 T8で私たちを出迎えてくれたサクヤとシロカさんは、まだ沈んだ様子ではあるものの平静を取り戻しつつあった。


 そしてその日はそのまま休むことになった。夜に深刻な話はするもんじゃないしね。ゆっくり寝てたっぷり食べれば自然と心も落ち着くはず。いや、今回の問題ってかなり大ごとなんだけどね。でもメンタルやられそうなときは基本これでオッケーなはずだ。


 そう考えながら毛布をかぶった。幸い、昼間の疲れが一気に襲ってきて、私は夢すら見ずに泥のように眠ることができた。






 そして次の日。みんなで集まる前に、私はサクヤとシロカさんを集めて三人だけで話すことにした。兵器を宿す当事者である私たちの意思は、先にはっきりとさせておくべきだと思ったからだ。


「それで、二人はどうするの?」


 私がそう問いかけると、サクヤは昨日の沈んだ様子はどこへやら、胸を張って答えた。


「俺は世界を救いたい。お前は?」


「私は流れに任せようと思ってる。万が一もし兵器が完成しちゃったら、その時に改めて考える」


「消極的だなあ」


「仕方ないでしょ、私は恋愛弱者なのよ。お前ら肉食系と一緒にするな」


 ここで私たちの目線がシロカさんに注がれた。彼女は物憂げな瞳を伏せたまま、こちらを見ずに言った。


「私は、やっぱり世界を救うなんてできない」


 私たちが少し残念に思いながら顔を見合わせていると、彼女は淡々と続けた。


「ロシェ博士も言っていたわよね、君の幸せを優先させなさい、って。私の幸せは、世界を救うこととは両立できないの」


「シロカさん、君の幸せって一体何なんだ?」


 困惑した様子で尋ねるサクヤを無視して、シロカさんは私を真正面から見据えた。こうやって間近で見ると、同性だというのにその美しさに圧倒されそうになる。


 だが、次にその唇から漏れた言葉は、私とサクヤを驚かせるには十分なものだった。


「私は私の恋に生きるわ。LOVE度なんて関係ない。アイラさん、カイさんを私にちょうだい」


 ……は?

 ………はあ?

 …………………はああああああ!?


「え、ちょうだいってそんな物みたいに」


「あなたが駄目だって言っても、聞く気はないわ」


「ちょ、ちょっと待ってシロカさん、アイラたちはT21所属だからT8所属の君とは長く一緒には」


「そこは兵器持ちの特権を使わせてもらうわ。マサキたちに頼めばT21まで行ける。サクヤ君、あなたたちもそうしてここまで来たのでしょう?」


 彼女はどうやっても自分の意見を変えるつもりはないようだった。珍しく恥じらっているような様子を見せながらも、止まることなく語り続けている。


「……一目惚れだったのよ。本当はずっと悩んでいたの。私のステータスには彼の名前は書かれていない。兵器を完成させるためには、彼のことはあきらめないといけないんじゃないかって」


 言われてみれば、思い当たる節はあった。彼女は最初から、カイのことを遠くから見つめていることが多かった。でも、だからってこうくるか!?


「けれど、昨日のロシェ博士の言葉で吹っ切れたわ。それに世界はサクヤ君が救ってくれる。アイラさんにはまだレイトさんもいる。何も問題はないわ」


 そうかもしれないけど、私の心境的にはかなり問題あるんだってば! カイは私のものとかじゃないけど、でも何故かシロカさんには取られたくない、ああでももしカイがシロカさんを選んだら止めたくない、あああああ。


 そうやって一人わたわたする私と、青ざめつつも何とかしてシロカさんを止めようとするサクヤ。そんな二人に挟まれて、シロカさんは一人平然と座っていた。






 とりあえずさっきの話し合いの内容についてはみんなには秘密にしておくことにした。下手に公表すると色々混乱しそうだったし、シロカさんに「カイさんにはまだ秘密にしていて」と頼まれたのもあったからだ。


 今度は昨日のメンバー全員で集まり、昨日センターで集めた情報を検討することにした。データベースの内容はかなり多く、読むだけで大変そうだったので手分けして読み込むことにしたのだ。


 ビルの一室に十人が集まり、手元のタブレットでひたすら映像データを読み続ける。みんな自然と無言になっていて、ちょっとシュールな空間だ。


 私も割り当てられたデータを黙々と読んでいたが、ついこっそり目線を上げてシロカさんを見てしまう。彼女は手元に集中しているようだった。彼女がカイを、か。




 正直な話、彼女が本気でカイを落としにかかったら、私なんてとても太刀打ちできないだろう。そりゃあカイにも好みというものはあるだろうけど、彼女の魅力はそんな好みの違いくらい余裕でねじ伏せていきそうだ。


 ……なんで私、こんなにへこんでるんだろう。シロカさんの告白は、その衝撃の大きさから言ったら昨日の帰れません宣言とどっこいどっこいだ。


 別にカイのことが好きだとかそういうんじゃないのに……あちょっと待って今「世界を救う愛」ウィンドウが一瞬出たぞ。なぜにこのタイミングで。


 こんなんじゃ駄目だ、ちゃんと目の前のデータに集中しなきゃ。私は周囲をうかがいたいという衝動と戦いながら、改めてデータを読みこんでいった。






 それから数時間後。私たちは戦闘とは違う疲労感にうんざりしながら、それぞれが読んだ内容を要約して説明していった。……異世界に来てまで勉強する羽目になるなんて……。


 データベースの内容は様々な分野にわたっていて、今の技術をさらに進化させる可能性があるらしい物理の理論もいくつか記されていた。レンはよだれでも垂らすんじゃないかってくらい幸せそうな顔をしている。研究者からするとものすごいお宝なんだろう。




 その中には、私たちにとって有益な情報もあった。まずは「マザー」についての情報だ。


 マザーはマーキノイドの指揮官たる存在であり周囲のマーキノイドを強化し操るとともに、クライスター博士により開発された新型の機械であっても、時間をかけることで取り込みマーキノイドに変化させてしまうという性質がある。さらにマザーは実体を持たない情報体であり、ネットワークを経由して移動することもできる。


 これらの性質から、マザーは他のマーキノイドのようには倒すことができない。現在では独立したネットワークに無理やり閉じ込めることで、ぎりぎり封じこめに成功した状態なのだそうだ。ただ、このマザーを倒すことができれば、マーキノイドは指揮官を失い大幅に弱体化するだろうとも書かれていた。


 私たちに宿る兵器はこの「マザー」の機能を模倣しているというから、マザーについては覚えておいて損はない。というか、私たちに期待されてるのってこのマザーを倒せってことなんだろうなって思う。かなり危険みたいだし、普通には倒せないって話だし。




 そしてもう一つとんでもない情報が出てきた。私たちの兵器は前述のようにマザーの模倣品であるため、兵器を宿す者は周囲のマーキノイドを引き付けやすくなる可能性があると書かれていたのだ。それも大型のものを。


 これで、やたらとナイト・アルファに出くわしたり、名前しか分かっていなかったビショップ・アルファにこの短期間で二回も出くわしたりしたことの説明がつく。


 この情報を見つけたのはヨウだったが、彼は眉をひそめるとこう言った。


「この情報は伏せておいた方がいいだろう。兵器を持つ者がマーキノイドを引き寄せるかもしれないとなったら、シロカたちが爪弾きにされるかもしれない」


 この意見に全員が同意した。すると、サクヤが前のめり気味に手を挙げる。


「でもさ、マザーとかいうのを倒せばこの辺のマーキノイドは弱くなるんだよな? そうなれば俺たちがマーキノイドを引き付けたって、大した問題じゃなくなると思う」


「ただ、そのためには兵器を完成させる必要があるよね。三人ともめどは立っているのかな? ロシェ博士は『特定の相手と愛情を育め』とかすごいことを言っていたけど」


 レイトがいつもの調子でゆったりと指摘した。私たち三人は顔を見合わせる。どうしよう、これはもうLOVE度について白状するしかないのか。シロカさんはほんのわずかに首を横に振っている。私もやっぱり恥ずかしい。


 二人して口をつぐんでいると、サクヤが唐突に口を開いた。やつがいるところは私の座っているところからは離れているので、物理的にやつの口を塞ぐわけにもいかない。大声を上げて止めようかと一瞬思ったが、そうすると私たちが隠し事をしているのがばればれになってしまう。


 頼む、頼むから余計なことを言ってくれるなよ。私にはそう祈ることしかできなかった。



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