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11.ただで帰れると思うなよ

 T19からの帰りはとてもあわただしく、そして騒がしいものになった。帰り支度を済ませたT21の輸送部隊と戦闘部隊のところに、サクヤがミヅキとヒマリを連れてきて「俺たちも一緒にT21に行く」と何の前置きもなく言い出したのだ。


 どうやらT21勢の中で事情を知っているのは私だけらしく、「サクヤが兵器を完成させるのにT8に行く必要がある」と事実を改変しまくった説明をして、ようやくみんなを納得させることができた。


 だって、兵器持ちの特権を使いまくって異世界からきたかもしれない仲間を探してます、なんて説明されてもみんな困るだろうし。それに、T8にいるのが異世界組であれば、私やサクヤのように兵器を宿せる可能性があるかもしれない。


 だから私は別に嘘は言ってない。かなり苦しい言い訳だけど。




 もっとも、サクヤが噂の兵器持ちだと判明した時点でT21勢はみんな彼に興味津々だったし、女性で戦闘部隊であるミヅキやヒマリの存在も好意的に迎えられていたから、私がそれ以上気をもむ必要はなかった。


 問題になったのはマーキノイドだった。行きはポーンだけだったのに、T19を発ってすぐに、ナイト・アルファと出くわしてしまった。幸いこっちは人数が多いし、ナイト・アルファの討伐経験がある者も多かったということもあって、さほど苦も無く倒すことができた。やっぱり数の暴力ってすごい。


 そんな風にナイト種も大したことがないわーと舐めきっていたら、とんでもないものが現れてしまったのだ。






 それは縦に細長いマーキノイドで、人間より二回りくらい大きなものだった。ぱっと見た感じは立っているタイプの仏像に似ていて、それが斜め前に滑るようにしてものすごい勢いでこちらに近づいてくる。ポーンでもナイトでもない。全員に緊張が走った。


「おい、あれは何だ?」


「見たことがない種類だぞ」


 そんな風にざわつく皆を尻目に、カイは冷静に一歩前に出てナイフを構えた。レイトも手近な物陰に移動している。私はカイのすぐ後ろでハンドガンを構え、周囲を見る。この人数での戦闘では、狙いの甘い私は近接射撃に徹した方がいい。


 T19組はどうしてるかなとそちらを見ると、こちらはサクヤが一番前、その隣に二丁拳銃のヒマリ、すぐ後ろにショットガンを下げたミヅキという陣形を組んでいた。どうやらあちらは威力重視の編成のようだ。


 謎のマーキノイドはどんどん近づいてくる。細かいところまで見えるようになってきたので、私はこっそりと「鑑定」を発動させた。


『ビショップ・アルファ:ビショップ種の最も一般的な個体。斜めに滑るように移動し、正面の広範囲にビームで攻撃する。弱点は額』


 鑑定スキルのレベルが上がったことで、表示される情報も増えている。今この場でこの情報を持っているのは私だけだろう。だから大声で叫んだ。


「あれはビショップ・アルファです! 斜めに移動し、正面に攻撃してきます! レイトさん、弱点は額なのでそこを狙ってください!」


 T21のデータベースでは名前しか載っていなかったビショップ種、それが実際に現れたことにみんな驚きを隠せていない。けれど彼らは戦い慣れているだけあって、すぐにビショップの動きに対応するべく陣形を変えた。


 私はレイトが潜んでいる位置とビショップ・アルファの位置に注意しながら、「おとり」を発動させてビショップ・アルファの前に立った。私の腕では弱点を狙えないので、レイトが撃ちやすいように手伝うことにしたのだ。さんざん戦闘訓練をこなしてきたおかげで、カイとレイトの二人となら連携して戦えるようになっている。


 ビショップ・アルファは狙い通り私の方を向き、ビームを放ってきた。まだ距離があるおかげで楽に避けられたけど、ビームに薙ぎ払われたコンクリートの塊が真っ二つになった。なにあれ、威力高過ぎ。


 そうやって私がビショップ・アルファの気を引いているすきに、カイが後ろに回り込んだ。足を狙って切りつけている。足は弱点ではないが、ダメージを与えることで機動力を削げる。


 サクヤもカイを追いかけるように後ろに回り込んでいった。ヒマリとミヅキは様子を見ながら控えめに援護射撃をしている。まあ彼女たちの武器は乱戦にはあまり向かないだろうし、仕方ないのだろう。


 他の戦闘部隊の面々も、それぞれビショップ・アルファと適宜距離を取りながら交戦している。近接武器を使う者は足を、銃撃できるものは首から上を、集中的に狙い続けているようだった。




 私は細かくステップを踏みながらビショップ・アルファのビームをひたすら避け続けていた。頭の動きを見ていればビームの向きは分かるので、あとはビショップ・アルファとの距離に気をつけていればいい。


 回避強化のスキルがあるとはいえ、一瞬たりとも気は抜けない。たぶん一発でも食らったら足が消し飛ぶ。回復アイテムらしきものは持っているけど、部位欠損を治せるかは分からない。


 そうやって避け続けていた時、不意に一発の大きな銃声が鳴った。もうかなり動きが鈍くなっていたビショップ・アルファが、後ろに傾きながら崩れ落ちていく。


 ズン、と鈍い音が響いた後、辺りに静寂が訪れた。誰も何も言わない。サクヤがそろそろとナイフの先でビショップ・アルファをつついた。それはもう動かない。


「倒せた、か……?」


 誰かがそうつぶやいた。つぶやきは戸惑いの声になり、そして歓声になった。


「倒したぞー!」


 みんな喜びながら肩を組み拳を突き上げている。死闘を共に乗り越えた者同士の結束感。あー、クラス対抗球技大会で優勝した先輩のクラスがこんなだったなあと、こっそり場違いなことを考えていた私だった。






「アイラ、聞いていいか。どうして君はあれがビショップ・アルファだと分かったんだ」


「そういえば君、前にもポーン・アルファとポーン・ベータを見分けてたよね。マーキノイドが何かすら知らなかったのに」


 ひとしきり喜んだ後に待ち構えていたのは、みんなからの質問攻めでした。ま、それはそうだよね、データベースにすら載っていないマーキノイドをなぜ断定できたのかって、普通は疑問に思うとこだよね。


「それは……見ればなんとなく分かるんです」


 スキルという概念を知らない人たちにどう説明すればいいのか私が困っていると、意外なところから助けの手が差しのべられた。


「なあアイラ、それって前に言ってた『鑑定』のスキルだよな?」


「うん」


 その返事を聞いたサクヤは、とんでもないことを言い出した。


「アイラは俺と同じ異世界の生まれなんだ。そして異世界のやつは特殊能力を持っているんだよ。俺が兵器持ちになったみたいにさ。こいつの場合、見たものが何か分かるっていう能力なんだよ」


 強引な説明だと思ったが、意外にもみんなそれで納得してくれたようだった。兵器を宿しているという規格外の能力持ちの人間の発言だったのが効いたらしい。


「しかし、マーキノイドの種類が分かるというのは便利だな。先ほどのビショップ・アルファとの立ち回りといい、君はT21の主戦力になり得るかもしれない」


「うん、ビショップ・アルファの気をひきながら、同時に僕の射線をふさがないようにしていたよね。あれだけの攻撃を避け続けるだけでも大変なのに、さらに気を遣えるなんてすごいな」


「私も見習わなくちゃ……」


「ヒマリ、人それぞれの戦い方ってものがあるのよ? あなたはあなたらしくしてればいいの。今回はたまたま相性が悪かっただけ」


 いまいち活躍できなかったヒマリをミヅキが慰めている。そんな二人にこっそりと「鑑定」を使ってみた。こないだ気づいたんだけど、このスキル、普通に人にも使えるのだ。


『ミヅキ

 レベル 9

 スキル 近接射撃 Lv.5

     回避強化 Lv.2

     急所攻撃 Lv.2』


『ヒマリ

 レベル 8

 スキル 速射 Lv.7

     機動強化 Lv.7

     高速リロード Lv.4』


 二人とも、見た目通りのスキル構成になっている。考えたら、この世界の人にはスキルという概念がないから、自分の得意な行動を取り続けることで自然とその行動に応じたスキルを習得してるだけなのかもしれない。みんな無駄がないスキル構成になってるし。


 そういえば、私もいい加減レベル上がってるかもしれない。ちょっとチェックだ。


 アイラ

 レベル 9(UP!)

 HP 70/82(UP!)

 力 5

 知恵 16(UP!)

 体力 10(UP!)

 素早さ 17(UP!)

 器用さ 13(UP!)

 運 11(UP!)


(スキル)

 世界を救う愛 Lv.1

 鑑定 Lv.5(UP!)

 ハイディング Lv.2

 おとり Lv.6(UP!)

 回避強化 Lv.7(UP!)


 うん、ぼちぼち上がってる。けどパラメータの上がり方にも行動が関係あるのかなあ。力がびくとも上がらん。これはもう射撃一本でいくしかないか。




 こうやってなんとかビショップ・アルファを倒した私たちは、その残骸を積み込んでT21に戻ることにした。技術班に飛び切りのお土産ができてしまった。



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