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10.驚異の顔面偏差値

 そうして二人で部屋を出ると、階段のところに二人の女性がはらはらしながら待っていた。たぶんこの二人がミヅキとヒマリだろう。


 そしてなぜかカイとレイトまでそこにいた。こちらは不思議そうな顔をしている。


 彼らの姿を見たサクヤがダッシュで駆け寄った。女性二人の顔が明るくなる。


「よ、ミヅキにヒマリ、いきなり飛び出して悪かったな」


「どうしちゃったのかと思ったわ。いきなり知らない子と叫んでるし、そのまま一緒にいなくなっちゃうし」


「心配しました、でも無事に戻ってきて良かったです」


 ミヅキと呼ばれた方の女性は私たちより少し年上のようで、たぶんカイやレイトと同世代だろう。すらりと背が高く手足も長いモデル体型で、肩までの真っすぐな明るい茶髪がよく似合った美人系の女性だ。


 反対にヒマリと呼ばれた子は私たちと同じくらいかちょっと年下で、暗い茶色の髪をゆるいおさげに編んで、黒目がちの大きな目でちょっと上目遣いにこちらを見てくる、可愛い系の女子だ。


 サクヤは二人と私を交互に紹介する。お互いどう接していいか分からないが、とりあえず友好的に軽く頭を下げる。


 気のせいかな、ヒマリが心配そうな目でこっちを見ている気がする。その意味は色恋にうとい私でも分かる。大丈夫だよー、私サクヤを取っちゃったりしないよー。機会があったらちゃんと言っておこう。


 次は私の番だ。しかしその前にカイとレイトに状況を説明しておかないと。二人を横にひっぱっていき、小声で手短に説明する。


「あの、彼……サクヤが兵器の持ち主で、そして彼は私の知り合いでした」


「知り合いって、君記憶が戻ったのかい?」


「あ、はい。彼を見たら何となく思い出しました。それで彼と話して、だいたいのことは思い出せました」


「それは良かった。それで君たちはどこから来たんだ?」


「……ここではない世界です」


 私がそういったとたん、二人の表情が疑問の形で固まった。まあそうだよね。


「なんと言ったらいいのか分からないんですが……私たちが暮らしていたのは、こことは全く違う世界でした。どうしてここにいるのかは全く分かりません」


 そう説明を加えると、悲しそうな顔をしたレイトがいきなり抱きついてきた。身長差があるので、抱きつくというより覆いかぶさるような形になっている。


「だったら、記憶が戻っても元の場所に戻る方法も分からないんだよね……かわいそうに。俺たちでよければこれからも力になるから、どうか気を落とさないでね」


「レイト、人前で抱きつくな。他の人たちも驚いているだろう」


「だってカイ、アイラちゃんがかわいそうで、つい。カイだってそう思うだろう?」


「……まあ、帰りたくても帰れないというのは辛いことだろう。ただ彼女にはここでもやっていけるだけの強さがあると、俺は思う。だから一方的に憐れむのは違うだろう」


「あの、二人ともありがとうございます」


 二人それぞれ言っていることは違うけど、彼らなりに慰めようとしてくれているのは分かったので素直に礼を言った。もうちょっと気の利いた返しをしたかったけど、私にはこれが精いっぱいだ。


 そうしていると、レイトの肩越しにサクヤが「ハグだ! ハグし返せ!」と身振り手振りで言ってやがるのが見えた。ええい茶化すなこの野郎。


「ねえ、お取込み中のところ悪いのだけど、彼らを紹介してもらってもいいかしら」


 いつまでたってもレイトが離れようとしないのを見て取ったのか、ミヅキが口を挟んでくれた。おかげで自由になった私は、ようやくカイとレイトを三人に紹介することができた。そのまま流れで雑談になる。


「それにしても、わざわざT21からサクヤに会いに来たなんて。びっくりね」


「はい、あの、サクヤさんはそんなに有名なんですか?」


 ミヅキとヒマリが首をかしげると、レイトが笑いながら答えた。


「うーん……有名というか、彼はT21では『兵器の人』って呼ばれてて、色んな噂が立ってるよ。僕が聞いたのでは、ものすごい美形で運動能力抜群で、あと何だったかな」


「おお、それ当たってます! 俺イケメンで運動得意です!」


「あんたの面の皮って極厚よね」


「……アイラ、君は彼に対しては気安いんだな」


 サクヤに間髪入れず突っ込みを入れている私に、驚いたような顔でカイが感想をつぶやいた。私はくるりと彼に向き直り、笑顔で否定する。


「いわゆるくされ縁ってやつなんです。私、サクヤに対してはちょっと口が悪くなってますけど気にしないでください」


「仲、いいんですね」


「そうでもないから、大丈夫だからねヒマリちゃん。心配しなくていいから」


「何が大丈夫なのよ、アイラは面白いわね」


 こうやってわいわいしてると、高校でだべってる時のことを思い出す。思い出すといってもそう昔の話でもないけど。


 ただ高校の時と比べると決定的な違いが一つある。メンツの顔面偏差値が高すぎるのだ。高校ではモテ野郎だったサクヤは置いておくとして、他の四人もみんな読者モデル顔負けの美形なんだよね。


 カイとレイトの二人と組んでいるときはそこまで気にならなかったけど、さらに三名美形を追加されるとちょっと劣等感を刺激される……わ、私だって一応それなりではあるもん……。




 そうやってひっそりとたそがれていると、いつしか雑談はお開きになったらしく、サクヤたち三人が手を振って階下に消えていく。


「それじゃ、僕たちもそろそろ今日の宿に戻ろうか。アイラちゃん、彼と話して収穫はあったかい?」


「はい。彼の兵器は私のものと同じみたいです。といっても、それ以上のことはやっぱり分かりませんでした。ただ、愛を持って兵器を育てるという役目は、彼の方が向いているかなって思います」


 実際にLOVE度をより多く稼いでるのはあいつの方だしな。そう考えていると、カイが首を横に振った。


「そうとも限らない。君は自分を過小評価しがちだ。もっと自信を持っていい」


「確かにね。カイの戦闘訓練を耐え抜ける人ってあんまりいないんだよ。あれを最後までやり遂げたってだけで君は十分すごいからね」


 ……やっぱりカイのスパルタ訓練って、こっちの世界基準でもやばかったのか。そしてまた一瞬現れた「発動中:世界を救う愛」ウィンドウ。二人はいつも親切にしてくれるけど、私ってこんな簡単にときめくちょろい女でしたっけ。


 私はそんなことを考えながら、今日の寝床に向かったのだった。






 次の日の早朝、空き部屋を一人で占領して寝ていた私のところに、朝からテンションの高いサクヤが訪ねてきた。「朗報だ朗報!」と騒いでいる。


 眠い目をこすりながら「朝から元気だな、さすが農民」と言ったら「農民じゃねえ!」と叫んでいた。うるさい。私は朝は弱いんだ。


 そんなやりとりの後、何が朗報なのか改めて聞いてあげた。私的には聞かなくてもよかったんだけど、サクヤのやつが聞いて欲しそうな顔をしていたから仕方なくだ。


「俺さ、兵器持ちになったお陰である程度わがままが通るようになってさ」


「朝っぱらから自慢か」


「お前も公表すればいいだろ、そしたらお前もわがまま言えるようになるぞ」


「それでもやだ」


「っと、話がそれたな。それで俺、他にもこの世界に来てるやつがいないかなーとか前から考えてたんだよ」


 脳筋サクヤにしてはいい発想だと思う。というか私は、自分以外にこの世界に来ている人がいるなんて考えもしなかった。だからこの点については、こいつのほうが考えが上だったのだろう。認めるのはちょっとだけ悔しいけれど。


「で、そういうやつは俺と同じように突然この世界に現れてるはずなんだ。だから俺は、他の拠点にもそんな風に突然現れたやつがいないか聞いてもらってたんだ。その答えが来た」


「私がいるT21以外に?」


「そうだ。T8についこないだ現れた人がいるって。しかも未登録」


「それは有力かも」


「お前もそう思うか。その人についての詳細は分からないけど、せっかくだから会ってみたいよな」


「まあそう思うけど」


「という訳で行くぞ」


「いきなり何よ!?」


「だってさ、T8ってお前の本拠地のT21のが近いんだよ。だから俺もいったんT21に行く」


「行くって……拠点間の移動ってそんなに簡単にできるもんなの? 私は今回輸送部隊の護衛としてきたんだけど」


「そこも俺のわがままで押し通せる。便利だろ」


「便利だねー。だったらそのわがままを使って私も連れていけ。兵器持ち様の護衛って名目にすればいけるでしょ」


「りょーかい。じゃまた後で」


 来た時と同様に騒がしくサクヤは出て行った。次はT8か、面白くなりそう。



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