008
「でも、でもさ! 神父様、この姉ちゃん、本当にすごいんだぜ!」
感謝を受け入れないシルフィの態度に、妙な空気が礼拝堂の中に流れる中。
ラクトが興奮したようにフェリンに言う。
「俺を襲っていた、でっかいムカデの化け物を真っ二つにしたんだ!」
「なんと……呪骸を?」
その言葉に、フェリン神父は本当に驚いた顔をシルフィへ向けた。
「では、本当に聖騎士様なのですか?」
「いえ。先ほども言いましたが、私はただの流れ者です。たまたま、この街の近くを通りかかったというだけで」
期待に満ちた神父の視線から逃れるように顔を逸らして、彼女は答えた。
「あれ? そういえば、もう一人いたよね? あの兄ちゃんはどこ行ったの?」
その話を聞いているのか、いないのか。
少年らしい奔放さでラクトが尋ねる。
「なんと。お連れ様がいらしたのですか」
それを聞いたフェリンが、どこか納得した様子で口を開く。
考えてみれば、貴族の娘が一人旅などしているわけがない。
当然、従者がいるはずなのだ。それも相当、腕の立つ。
「では。その方にも是非、お礼を」
神父がそう口にした途端だった。
「“アレ”にこそ感謝など不要です」
唐突に、シルフィがそう吐き捨てた。
明確な憎悪の籠ったその声に、フェリン神父とラクト少年はぽかんとした顔を浮かべる。
「失礼」
二人の視線に気づいたのか。
シルフィは取り繕うように、こほんと咳払いをした。
「アレならば大方、そこらの屋台でも冷やかしているのでしょう」
答えた彼女に、神父と少年は顔を見合わせた。
フェリンが小さく、首を横に振る。
何やら事情がありそうだが、聞かない方がいいでしょうという意味だった。
「それは。その方にとっては残念な時期に来てしまいましたね」
「そうだね……今、屋台巡りなんかしても……」
「それはどういう意味でしょうか?」
軽く流して、話題を変えようとした二人にシルフィが訊いた。
「少年を襲っていた呪骸と、何か関係が?」
「ええ。それが……」
尋ねた彼女に、フェリンはため息を吐くように口を開いた。