007
「いや。お恥ずかしいところをお見せしました」
二人のやり取りを無言で見つめていたシルフィとふと目が合って、フェリン神父は照れくさそうに笑いながら頭を撫でた。
「いえ」
彼女は静かに首を振って応じた。
「良い子ですね」
そう言ったシルフィの顔は相変わらずの仏頂面だが、声音はわずかに柔らかい。
「あの子の御両親は?」
「あの子が幼いころに、二人とも流行り病で。それ以来、この教会で面倒を見ています」
フェリンの返答に、彼女は納得したように頷いていた。
フェリンとラクトのやり取りが、街の神父と一介の信徒の子供というにはあまりにも親密なものだったからだろう。
「亡くなった両親のためにも、敬虔な信徒として育てようと神に誓ったのですが……いやはや、あの通り。どうにも、奔放な性格になってしまいまして」
「けれど、優しい子です」
反省するように肩を竦める神父に、シルフィが間髪入れずに言った。
「神への信仰はまず、他者を愛することから始まる。誰かを思い遣ることができるというのは、敬虔な信徒になるため必要不可欠な資質でしょう」
飾らないその言葉に、神父はああ、いや、それはどうもとはにかんだ。
それから。はて、それは先ほど、自分が彼女に説こうとしていたことではなかったかと首を捻る。
「ところで神父様」
そんな彼に、シルフィが声を掛けた。
その口調は先ほどとは打って変わって、硬く、真剣なものだった。
「少年を襲っていた呪骸についてなのですが――」
と、そこで。
「あ! 聖騎士の姉ちゃん! やっぱり夢じゃなかったんだ!!」
顔を洗って戻ってきたラクトがシルフィを見つけるなり大声を出したせいで、彼女は質問を最後まで口にすることができなかった。
どうやら、目を覚ました途端にフェリン神父の説教が始まったため、今の今までシルフィがそこにいることに気付いていなかったらしい。
ラクトが目を輝かせながら、シルフィへと駆け寄る。
その脳天に、フェリン神父の拳骨が落ちた。
「まずは。助けて頂いたお礼を言いなさい」
「ぐっ~~……た、助けてくれて、ありがとうございました」
殴られたところを痛そうに押さえながら、ラクトが頭を下げる。
その横で、フェリン神父がよろしいと頷く。
「……君の祈りを、主が聞き届けられた結果だ。感謝をするならば、そちらに頼む」
だが、やはりシルフィはそう言って。
先ほど、フェリン神父がそうしていたように、少年からの感謝を受け流すような手つきで聖壇を示した。