恋と彼岸花
「花に興味はあるかい?」
そう言って、彼女は彼岸花を差し出した。
「彼岸花の花言葉は、『悲しき思い出』。きっと君にも、悲しい思い出の一つや二つ、あるんじゃないかな。」
渡された彼岸花を見つめ、静かに答える。
「君の死は、僕にとっては一生の、一番の、悲しい思い出だよ。」
そう告げると、彼女は悲しそうに微笑みかける。
「私の死を悲しんでくれるのは嬉しいよ。でも、そのせいで君が前に進めなくなるのは悲しい。
・・・私のことは忘れて頂戴。でも、それは悲しいから、その花を見たときだけは思い出して。その花は、私の代わり。君は、前に進むんだよ。」
「・・・そんなの、嫌だよ。僕も、一緒に連れて行って。」
「駄目だよ。そんなの、私は許さない。君は生きなきゃ駄目。」
彼女の体が透けていく。静かに、ゆっくりと、確実に。
「・・・僕は、君のことが、」
「それ以上言わないで。その言葉は、きっと呪いになる。」
彼女は悲しそうに微笑みながら、僕に向かって手を振る。
「負けないで。君は、私が居なくても、大丈夫だから・・・。」
彼女は、僕と彼岸花を残して消えた。激しい感情の波に飲み込まれそうになっていた僕の手を取って、正しい道を指し示して。
・・・恋とは、きっと呪いと変わらないのだろう。
「好きだよ。今も、これからも、ずっと。」
僕は、この呪いを一生背負って生きていく。
・・・ごめんね。君との約束を、早速破ってしまった。でも、これが僕にとって幸せなんだ。僕が生きる限り、彼岸花がある限り、君は僕の中に生き続ける。君が生きている限り、僕は前に進めるんだ。