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愚者への栄光~終わりなき旅の始まり~  作者: 猫のまんま
序章、はじまりのはじまり
3/30

歩き出し

 奥の階段を上がったら少し大きめの部屋に出た。その部屋は少し薄暗く、番号の書いてある箱がキレイに積み上げられていた。


「やっほー、きたよー」


 ニーナが箱の奥の方へ呼び掛けるとゴトゴトという音を少しさせ、箱の陰からひげの人が出てきた。父、ラルフだ。少しホコリ臭い。


「あぁ」


 いつも通りの返事だった。外でも家でも口数少ないのは変わらないみたいだな。ニーナは嬉しそうだが。


「ここは散らかっていて少し危ない。そこの部屋でちょっと待っててくれ」

「わかったよー」


 ラルフはそう言うとまた作業に戻ったみたいだった。ニーナは俺を連れて慣れた道のりを進むかのように、箱たちに隠れた扉を見つけて部屋の中へと入った。ニーナは前はずっと来ていたって言ってたしな、場所がだいたいわかるのだろう。俺にはここら辺は箱の山にしか見えない。俺たちが入った場所は応接室みたいな場所でソファーとソファーが向かい合わせで置いてあった。


「ふぅ……やっと着いたねー」


 ニーナは俺をソファーに座らせるとその隣へと自分も腰かけた。ふかふかと少し弾むソファーの座り心地は悪くなかった。


「ラードちゃんも大きくなったねーここまで来るのも私でもちょっと腕が痺れちゃったよー」


 そういえば、ニーナは家からずっと俺を腕に抱いて移動していた。おんぶ用の紐とかはないのだろうか。


「まぁ、私は腕で抱いてる方がラードちゃんの顔が見れて幸せなんだけどねー」


 ……ニーナには特に必要ないらしい。心配した俺が馬鹿だった。


「体なまってきたのかな?」


 なまってるのは、別のものな気がする。

 ニーナが軽くストレッチを始めてしばらくするとラルフが部屋へ入って向かいのソファーに腰掛けた。片付けが少し疲れてたのか、ラルフは息を吐きながら座っていた。表情はあいかわず、無表情に近い。


「あれ、もう終わったの?」

「あぁ」

「そうなんだーじゃあ今からいろいろ話せるね! まずは、家を出たところね!」

「あぁ」


 ラルフがソファに座ったのもつかの間、ニーナは勢いそのままにここまでの道のりを話始めようとする。

 もしかして、今から俺たちがここまできた道のりを話すつもりか? ニーナの話はちょっとなが……。


「私は出る前に思ったの! ラードちゃんを家に置いた方が幸せじゃないかと! でもしかし、ラードちゃんの幸せを考えたら外の世界を知っておかなければ行けない! だけどもし、万が一何かあった時はどうする……私は考えた、ラードちゃんが一番幸せになる方法を! 自分よがりな考えに縛られず私は一生懸命に考えた!」


 前説からはじまった……始まると長くなるんだよな。ニーナの話って。

 そう思いながら眺めている俺の気も知らず、ニーナは拳を突き上げ目の前の旦那に熱く語り始めていた。


▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲


 ……なぜ、道のり30分ぐらいの話を1時間も話せるのだろうか。それに対してラルフも時折、相槌を打っていた。その光景はどこか懐かしい感じがする。それは前世の記憶かどうかは面倒くさくて忘れてしまったが、今になって思い出す意味はないだろう。

 それからも、ニーナは絶好調だった。ラルフのところで話すだけ話したら満足したかと思ったが、その話は続きがあると言って俺を抱きしめ、俺を今からいろんな買い物へと連れていくと言い出した。聞いてないよ、そんなこと。


「あぁ、気をつけてな」


 父親は、表情は変えなかったが少し柔らかな言い方をした気がした。いや、はじめて外に出た子供にそれは酷だろ。


「うん、アナタも気をつけてお仕事頑張ってね」


 ニーナは笑顔で答える。それに対してラルフはいつも通りの短い言葉を返した。いや、あぁじゃくてさ。もっと言うことないの、今目の前で疲れた表情で息子があなたを見てるんですよ。そそくさと仕事に戻らないでさ、代わろ? 役割。


 俺の気持ちもそのままに、俺とニーナは町に駆け出した。

 どうして女性の買い物ってこれほど時間がかかるのだろうか? 気がついたら外は夕日が沈む光景へと変わっていた。びっくりだ。

 終始、ニーナは楽しそうであったが、俺にしてみたらぐったりである。赤ん坊ということもあるのか、家路につく頃には瞼が閉じかけていた。


「あらあら、ラードちゃんも今日はおねむだねーふふふ」


 そらそうだよ。買い物中、会った近所の人全員に声をかけながら息子のこと紹介したらこっちが疲れるよ。油断するとすぐ変なこと言い出そうとするしさ、ラードちゃん可愛いでしょって言葉が今日は耳から離れそうにないよ。恥ずかしさで穴があったら常に入りたい気持ちでいっぱいだ。


「今日のラードちゃんは大冒険だったねー」


 やはり、俺の気持ちは伝わらない。ニーナは微笑んでいつものように子守唄を歌い始めた。夜、なる前には聞かせるニーナの子守唄。


 それは小さな冒険者が小さな船に乗っていろんな国に旅に出て友達を作って世界を平和にしていく唄。旅立ちの時は、眩しいくらいに輝いた自分の宝物だった剣だけど、唄の終盤には剣は結局一度も鞘から出すことなく、平和になった世界で自分の宝箱に宝物の剣を入れてそこで唄は終わる。世界中に友達ができて、世界が平和になったから剣は使わなくなったという子守唄。


 まさに、夢物語と思うが何故か俺はニーナが唄う子守唄をバカにする気は起きなかった。俺に言い聞かせるように。母という優しさが染み込んでくるかのように。ニーナはいつもこの唄を楽しそう歌っていた。

 今日は、この世界のいろんなところへ行った気がした。この世界のごく一部に過ぎないんだろうが子供の俺にはそれだけでも世界は広く目がまわるほどいろんなものがあった。

 買い物をする際に代わりに計算してくれる魔法の道具だったり、耳の長い人だったり、髭を伸ばした背の低い人だったり、広場で大道芸人がやっていた魔法で出した火の玉のジャグリングだったり。前世では経験しなかっただろう。この世界は不思議なことでいっぱいだった。

 まさに、異世界ライフ。


▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲


 それから更に4年の月日が経った。

 俺は六歳になった。その間にできたことと言えば、弟が出来たことだ。

 ポンと出来た……というのは嘘で、想像するなよ? いろいろ悲しくなるぞ?


 三歳の時だった、俺はいつまで自分が自力で歩いたり喋ったりしないのはおかしいと思ったので、なんも変に見えないように立って見せた(生まれたての小鹿のように)。ニーナは、その光景を見た瞬間、天にのぼるかのような勢いで喜んだ。見せられたラルフは苦渋の顔を浮かべていたが。何故だろうか、ニーナの時よりも多く足を震わせたからだろうか。わからぬ。

 そこからは、自然と歩いて見せた。実はニーナの見てない所では一歳ぐらいから普通に歩いていた。なので、ケンケンパとかもできる。まぁ、これもやったらラルフはまた苦渋な顔を浮かべたが。


 はじめての言葉は、『ニーナ』にしておいた。そしたらニーナは「ママでしょ?」って笑顔ながら喜んでいた。


 ……そうだった。母親だった。


 そんなこともあり、安心したのか二人目ってことだと思うがわざわざ俺に向かってニーナは「ラードちゃんが寂しくないように頑張って弟か妹作るからね!」と宣言してきた。この人は、子供に何言ってんだ。

 弟が生まれた時は、なんとも言えない感情が浮かんだ。前世では、一人っ子だったし兄弟とかいまいちわからなかったがこうして目の前で見たときは自然と触れてみようと思った。俺は指を出してみたらニーナは微笑みながら俺の手を弟の手へと運んだ。

 柔らかい弟の手のひらが俺の指をゆっくりと掴んだ。ふと、心が温かくなる感じがした。そんなのは、気のせいかも知れないがそういう気がした。


「あなたがお兄ちゃんになったのよ」


 弟の名前は、『ライト』。意味はそのまま、光。

 俺は、なぜ俺の名前がラードなのかとても聞きたくなったがやめておいた。なんせ、空気を読める兄だから。


 俺が六歳になった今、弟ライトは三歳になっていた。


「おにぃちゃ! おにぃちゃ!」


 びっくりするぐらい元気に育った弟。髪色は母親譲りの金色。弟は、将来女にモテそうな顔つきをしている。俺は……悲しくなるから止めておこう。前世よりましぐらいだと思いたい。


「はいはい、お兄ちゃんお兄ちゃんね」


 ライトをくしゃくしゃに撫でる。キャキャと喜んでいる。言葉をどんどん覚えておしゃべりになっている。子供って元気だなー。


「おにぃちゃ! おにぃちゃ!」


 ……何回言うんだ。さっきからこの調子だから内心不安になってきたぞ。ニーナ病でも感染したのか。


「ラードちゃんもライトちゃんみたいにお話できたらよかったのにねー」


 ニーナは家事をしながら話しかけてくる。


「やだよ。ライト、さっきから同じことしか言ってないし」


 俺自身がこんなハイテンションでおしゃべりって考えただけでもゾッとするね。


「そんだけお兄ちゃんのことが好きなんだよ」


 そんなことはないだろう。人が本読んでる時に限って邪魔してくるし、家のどこに行くのもついてきて邪魔してこようとする。きっと奴の中には、悪魔が住んでいる。


「悪魔よ、立ち去れ。ハッ」


 ライトの前に手を広げてみる。


「は~!」


 ライトが俺の手に手を合わせてきた。どうやら、通じないらしい。無念。


「ライトちゃんは、お兄ちゃんが遊んでくれて嬉しいねー」


 どっちかというとライトに弄ばれてる気がする。子供ってやっぱり苦手だな、何考えているかわからないし、何話せばいいかもわからない。

 そこへ、ニーナは俺に尋ねてきた。


「そう言えば、ラードちゃん決めたのー? どこの学校に行きたいかとか」


 六歳になったらいろんな学校に行くことができるようになる。この世界は一般的にはもっと年をとってからいくのが普通だが俺がせがんでギリギリの六歳で行かせてもらうようにした。面倒くさいがちゃちゃっと早めに終らせておきたかったからだ。中身は大人なんだから子供の勉強とか余裕だと思っている。


「んー」


 学校といってもこの町にはいろんな種類の学校があった。騎士になるための騎士学校。魔法を使う職業に就くための魔導学校。商人になるための商業学校。ちなみに、魔法の道具つまりは魔道具を作る職業なら魔導学校。それ以外のもの作り系は商業学校に通う事になる。様々な学校があるが赤ん坊の頃から考えていたことがあった。


「――母さん、俺は冒険者になるよ」

「ん? そうなんだ」


 なんか今ニーナが言葉がつまった気がした。これでも結構考えて決めたんだが、やっぱり過保護なニーナにはダメな話だったか?


「……母さんじゃないでしょーママでしょー」


 そこかー。意外と冒険者になることはよかったようだ。


「ママ~ママ~」


 ライトが無邪気に笑う。てっきり、うちは商人を営んでいるから商人になれって言われるかと思ったらそうじゃないんだな。


 冒険者になるだけならすぐなることできる。登録すればすぐに冒険者として働けるらしい。ほかに、遊んであげる代わりと言って近所の子供たちに調べさせた情報では、冒険者にはランクがあってG→F→E→D→C→B→A→Sの順に8段階に区別される。上になればなるほど冒険者としてやる仕事は難しくなって、どんな仕事があるのかはわからないが、命を落とす危険もあるようだ。

 そういう訳で、ダメだと言われると思っていたが、これと言って何も言われなかった。冒険者を選んだのは自由職だからというのもあるが、冒険者のための学校である冒険者の訓練学校は在学期間が2年だからでもある。さらに、卒業時点でランクはEランクへなっていてそのまま冒険者家業を始められる。

 冒険者になるには入学さえも必要ないから、2年間の学費や食費など金銭的なことはすべて、訓練を兼ねた依頼をこなす内に賄えるらしい。


「そうかー冒険者かー」


 ニーナは、家事をしながらそう呟きをながらどこか楽しそうだった。

 近所の子供に、十歳になるロムという男の子がいる。二つ上の兄が冒険者の訓練学校に通っていて来年卒業するらしい。実家は農家だが兄弟はいっぱいいてロムで六人兄弟の末っ子。跡継ぎは長男で決まっており、ロムは二つ上の兄に憧れていて自分も来年訓練学校に入ると言っていた。

 俺は来月、そのロムと共に訓練学校に入るつもりでいるが、また別の近所の子供にハンナっていう女の子がいた。その子は、男の子のようにぶっきらぼう…活発な女の子でいつもロムと俺と一緒にいるせいか自分も冒険者になると言い出した。ハンナは俺より歳は一つ上だが、女の子だし危ないって言ったら、あんたが私に勝てるのって言ってきた。もちろん、勝てるわけない。子供って恐ろしいと思った、加減なくグーパンしてくるんだもの。かといって、男の俺が殴ろうとするととても悲しそうな顔をしてくる。そして、いつも殴れるわけなく殴られるというオチ。


 勝ったことはない。勝つことはないと思ってる。

 ロムにも相談したが、ロムもたじたじだった。元々、内気な性格であったロムはハンナを言い負かすことなんて出来るわけもなく、このことに関しては俺と同様に言い負かされていた。最終的にはいつも、私がいないと駄目ね、あんたたち。の一言で終わる。傍若無人である。

 ハンナは冒険者というのが何かわかっているのか。

 俺の想像だが、やっぱりランクが高ければドラゴンとか戦うこととかあるんだろう。しかし、そこまでランクをあげるつもりは俺にはない。明らかに危な過ぎる。ここは徐々に自分にあったランクを探すべきだろう。そして、自分が暮らして行けるような金額の仕事を淡々とできるように。そして、この世界でのんびりとした生活をしたい。

 それでも場合によっては、そういう魔獣とかと戦うことになったりするであろう。ハンナはそれについて考えているのだろうか? いや、考えてないだろう。あの性格からしてついてきたいだけな気もする。


 はぁ……面倒くさ。


 この前も、広場にいきなり呼び出したかと思ったら遅いとか急げとか言ってきてさ。俺にいつまでもついていくとか言ってズーっとついて来ようとしてくるし、好きな食べ物はなんだとか聞いてきて何か不味いものを食わせてこようとしてきてもう散々な結果だった。

 ハンナは俺のことを嫌っているんだろう。前世では女の友達っていなかったし、女と話したことと言ったら仕事の業務内容ぐらいなもので、学生時代は……止めよう、前世のことは。思い出したら涙が止まらない気がする。

 ハンナは何がそんなに気に食わないんだろうか。ハンナは俺の前では常に不機嫌な気がする。いつも俺のことを見つめて、そんなに俺を殴り飛ばしたいのだろうか。

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