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愚者への栄光~終わりなき旅の始まり~  作者: 猫のまんま
序章、はじまりのはじまり
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はじめての外

 そうだ! 冒険はしない! ……と言ってしまえば異世界で人生を再スタートしている意味が薄くなる話だが、人生とはそんなに甘くないのは世の常だ。前世では読み物として流行りありふれた『転生もの』、しかし実際に現実でそんなことが自分自身に起きたらどう対処するのが正しいのか考えてほしい。周りのことなどお構いなしに、自分に備わった強過ぎる能力(チート能力)で傲って最強を謳歌したり、はたまた前世の経験や知識を使って無双したりと……簡単にできればいいものだが、俺が思うにそういうお決まりはだいたいは上手くはいかないだろう。……だからと言って、俺がチートがほしくないってワケじゃないぞ? むしろ、今すぐくれ!(懇願)

 何故、俺ってヤツは前世で勉強をしなかったのだろうか? 車の仕組みから電化製品、薬品、食品加工や建築技術からマダム達のお化粧まで、多岐にわたるあらゆる前世の現代知識はこの世界では宝の山だろう。科学知識の一つでも完璧に覚えておけば、あとはお分かりの通り、異世界無双シリーズの出来上がりである。もちろん、俺は物理で殴ることはできるが物理を誰かに教えることはできない。人に教えるほど、社会人になって覚えているやつなんてどれほどいるものだろうか。人生は常に勉強だ、と偉い人が言っていた気がするが、当時の俺からすると、やなこった! の一言で終わるな。うん。


 そんなため息が吐き出しそうな話は置いといて、ふと前世の記憶でも思い返してみるようか。

 そう、それは毎日が何気ない日常だった。ごく普通の家庭に生まれ、ごく普通に小中高とよくも悪くもないような学校を卒業してからは、特に夢も希望も、さらには金も無かった(もっと言うとやる気もなかった)ため進学はせずに就職の道を選んだ。俺にしては真面目に就活をして自分でも入れそうな会社に入社。伴って、一人暮らしも開始して自由を謳歌していた。社会人デビューは最高に思えた。しかし、その会社のいろいろな内容の業務(時間外労働など)が割に合わず半年で退社。そこからずっとバイトを、とっかえひっかえ。いろいろなことをやったけどどれも長くは続かず、自堕落な日々を過ごしていた。


 そんなことだから内心、いろんな事がバカらしくなってきた頃だった。生きる意味とか人生のやりがいとかそんな大切だと思えそうなものは一切もってなかった。

 すでに精神的にも肉体的にも限界寸前。こんなことを他のみんなは当たり前のようにやっているのか、おかしいとは誰も思わないのか。生きるだけでお金がかかり、息をするだけで誰かに気をかけながら生きなきゃいけない毎日。才のないものは下働き、金のない者は泥水を啜って生きるような毎日。大人になったらできることは確かに増えたが、俺にできることは逆に減った。イチを聴いてジュウが出来ないと意味のない世界だった。前世の世界は正直、マジムリゲー。残機は常に1機である。

 そんな世界で、はたして何がやりたいだろ俺。そう思いながらもただ生きるためだけに働いて夢もなければ希望もない。人生甘くない。実家に帰ろうにもいろいろ考えたら面倒くさく、ひさびさに両親に会おうにも、俺は正直どういう顔をすればいいかわからない。


 だからと言って、俺は特別何かがやりたいとかじゃなくて、逆に何もしたくないんだよなー。誰もいない場所で一人、畑などしながらのんびり暮らしたいなーとも思っていた。しかし、ネット社会を生きる現代人の俺にはそんな生き方はもっとやれる気がしない。ムリムリ。

 そんな事だから、俺の脳は考えることをやめていたんだと思う。ボーっと毎日生きる俺に、不意に向かってきた光に対して反応もできず、光に当たった衝撃と共に俺の体は吹っ飛び、ついでに意識も吹っ飛んでくれたので、嬉しいことに痛みはあまり覚えていない。向かってきたのが車なのか、はたまた隕石だったのか、そんなこともわからないまま死んでしまった。そうあっさりと。


 そして、今があるんだろう。多分。

 俺は相も変わらず自分自身をバカだなと思う。あっさりと死んで、特に何も思わないなんて。まぁ、こんな何もない前世の記憶を思い出しても何の意味もない。やはり、価値のある知識は俺の中には存在していない。スポンジのような脳だったらよかっただろうが、俺の脳はところてん方式で記憶は上書き保存、容量はキロバイトだ。レトロゲームのソフトの方が俺よりマシかもしれない。


 という愚痴は、さておき。今は異世界の俺だ、ラードだ。

 え? 油? 油じゃない。俺も最初は息子にこんな名前をつけるなんてって思ったがどうやら違うらしい。前世と違って呼び方や意味合いが微妙に違うようだ。しばらくは俺も違和感を感じながら生活をしていたが、悪気のない笑顔で毎日、名前を呼ばれたら慣れてくるものだ。ある意味慣れとは恐ろしい。そして俺は、赤ん坊だからといってずっと寝ていた訳ではない。少しずつではあるがニーナが買ってくる数少ない絵本で文字を覚えたりしていた。まさかこの歳になって勉強をすることになるとは思ってもいなかった。しかし、生まれたときから言葉がわかったのはどうしてだろうか。翻訳ができる何かが存在するとか? まぁ言葉がわかった方が俺的には楽だから別にいいのだが、これに関してはわからずである。


 それでも、この異世界に生まれてから一年経つまでにこの世界のことがいろいろわかってきた。まず、今いる町はオーラストという名前の場所だということや、それからこの世界では一年は365日ではないということ。 

 なんか一年って長いなぁと思いながら日々赤ん坊をやっていたら、ある日壁にかかった黒い石板のようなもの見つけた。時折、人が通る度に数字だったり文字だったりが浮き出る不思議なものだった。人が通るたびにセンサーか何かが反応して起動しているのかもしれない。見た目は機械っぽくはなく、無機質で言うなれば黒い石板のような少し厚みのある物であった。


 ある時、ニーナがいつものように世話をやきに来た際にその例の黒い石板に向かって指をさして唸ってみた。すると、ニーナは俺が指差す方を見て、こう答えた。


「ん? あぁ、あれはね。魔法でできた魔法の石盤。今日が何日だったり今が何時だったり分かるものよ。ラードちゃんにはまだわからないと思うけどね」


 ニーナはそう言うと壁にかかった黒い石盤を取って見せた。大きさは壁掛け時計ぐらい……というかそもそもこの物体はこの世界の時計だと思われる。前世では見たこともない文字が並べられている。もちろん、今の俺には理解できない。っていうか、魔法でできてるのかこれ。


「ここの数字がいっぱいたまると1日で、ここの数字がいっぱいたまると一年になるの。そして、ここ全部がいっぱいいっぱいになるといっぱいになってまたここの数字は最初に戻るのよ。」


 と、微笑むニーナ。マジか、という顔で俺はニーナを見た。その話は俺には理解でき……と、とりあえず、いっぱいになることがわかったが、話は全くわからなかった。ただニーナが教師に向いてないことだけはよーくわかった。

 もう一度、石盤を見てみる。ニーナが指していたいっぱいなる時間は日が進むにつれ数字が増えていることがわかった(当たり前だが)。やっぱり時計だろう。カレンダーも兼ねていることなら時代的には高性能なのかも知れない。ニーナがその時計(仮)を壁にかけ直した後も観察を続けてもっと詳しいこともわかった。秒や分は前世と同じだが時間の数は30まで存在していた。つまり、1日=30時間。均等に朝昼夜と三分割に分けられる日もあった。そしてさらに1ヶ月は50日と、長い日数が設定されていた。1年間の月数も増えているかと思ったがそこは12ヶ月であった。1年間を日数に表すと600日……どおりで1年が長いと思ったよ。暇な時って、時間って長く感じ的なアレかと思っていたが流石に長すぎた。


 季節もどうやらこちらの世界では四季だけではないらしい。

 謎の2ヶ月が二回存在したのだ。前世でいうところの白夜や極夜というもの。全く日が沈まない2ヶ月と、逆に日が全く上がらない2ヶ月が存在した。前世でいうところの8月9月が白夜にあたり、2月3月が極夜となる。その二回を合わせてこの世界では六つもの季節が流れる。イメージで例えるならめっちゃくちゃ暑い真夏日とめっちゃくちゃ寒い真冬。……まぁ語彙力のないのはご愛嬌ってことで無視してくれ。そういう日があるのさ。

 1日中明かりもつけなくいい日や1日中明かりをつけなきゃ何も見えないとは変だなぁと思っていたんだが、そんなことを深く考えるのが面倒くさくなって一年経ってしばらくした頃にはこの世界の当たり前なんだなと思って思考の彼方へ飛ばした。異世界なんだからそんこともあってもいいかなって。


 それと同時に時計のことから魔法など存在することも知った。そして俺は「もしかして魔法が使えるのではないか?」と思い、誰にも知られず特訓しようとした。呪文とか必要かも知れないがそんなの関係なしに使えるのが転生モノの鉄則だし大丈夫だろと思って。だがしかし……そんな甘い考えを抱いていた頃が俺にもありました。

 結果としては――――失敗。生まれたものと言えば俺の新たな黒歴史の一ページだけだった。それっぽいのを思い浮かべて『炎よ』とか、『水よ』とかやっていたら、ニーナに「バンザイしたいの? はい、ばんざーい!」と弄ばれる始末。……もう絶対、俺は前世の(偏った)知識は信じない。ここは異世界、信じられるのは己だけ。


 そこからそんなこんなで生まれてからやっと二年が経った今、ようやく外に出る機会が訪れる。やっと、やってきた異世界の外。

 なんでこんなにかかったかというと、俺がほとんど表情を変えず、言葉を話すこともなければ、歩くこともないことが主な原因だと思われる。まぁ要するに面倒くさくて俺が動かなかったし、しゃべらなかったせいである(つまりは俺のせい)。

 そんな感じで二年も何もしない状態でいたら……まぁ普通のご家庭だったら不気味に映ると思われるんだが、この母ニーナは違っていた。

 何故か過保護に俺のことを心配した。基本的な家事を終わらせたら空いた時間をほとんど俺の世話にあて、どうしても外に用事ができた場合は人に頼むか、なるべく早く帰ることを心がけ、手早く用事を済ませて帰ってきた。はじめての子供ってこんなに過保護になるものだろうか、俺にはよくわからない。

 ドタドタと髪がくしゃくしゃになりながら肩で息を吸っていたニーナを見たときは流石にこの俺でも心配した。ニーナの過保護さを。


「ラードちゃんっ! ママいつまでもママでいるからね! 私を捨てないでねー!!」


 よく抱きついてくる母ニーナ。母以外の何かに変貌する予定でもあるのか。捨てるも何も俺が大人になってもこの調子なんだろうか? 二世帯住宅ってもめ事多いって話だけどこの調子のままだと俺の未来の奥さんとの泥沼バトルが勃発したりしそう。……はたして、今世ぐらいは結婚できる運命が俺にあるのかは謎だが。


 ともかく、外出の話だ。

 はじめての外、両親の格好、容姿から前世の場所とは全然違うとこにいるのはわかっていたが家の中じゃどんなとこなのかはまったくって言っていいほどわからなかった。日々の暮らし方を見ても近代っぽくはない。俺がいた世界よりもちょっと昔ぐらいの生活をしている。家には紙で出来た絵本があるし、浴槽も存在している。中世と近代の間ぐらいの時代じゃないかと思われる。

 外の風景を確認しようとしても、すぐそばの窓から見えるのは隣の家の窓だけだったし、後ろ側の窓からは後ろの家の壁しか見えず、前側の壁に至ってはくもりガラスで外が見えなくしてあった。掃除の時などに窓を開ける際は、ニーナから「落ちたら危ないからきたらダメ」と言われ、窓に近付くことさえ出来なかった。諦めず何度も挑戦すればよかったのだが、最初の一、二回で面倒くさくなってやめた。赤ん坊という職業は基本眠いのである。

 そして今、ニーナの腕に抱えられながら内心妙にわくわくしながら俺は玄関の外の世界を想像をする。実はすごい近未来的でロボットなどが歩いており、尚且つその中に魔法が存在して科学と魔法の夢のコラボレーションが誕生しているのだろうと思う。根拠はないけど、そうあってほしい。SFとファンタジーのコラボレーションとかあってもバチは当たらないだろう。前世の記憶にはいろいろ裏切られたんだ、それぐらいは許されるはずさ。


「いい? ラードちゃん。ママは、本当はラードをお外には出したくないの。でもね、パパがいい加減ラードもお外のこと知らないと馬鹿にされるって言うから仕方なく、仕方なーくママはラードをお外に出さなきゃと思ったの」


 そもそもあの親父は、別の言葉をしゃべれたのか。長文を話すことさえ聞いたことはない。そのこと自体にびっくりだが、まぁ言わんとしてることはわかる。ご近所さんの目とかもあると思うしな。ご近所付き合いというものは大事。


「……そもそもうちのラードちゃんを馬鹿にするようなヤツがいたら、その場で八つ裂きしてあげるわ。フ、フ、フ」


 子供にそんな顔見せていいのかって表情で笑うニーナ。……ご近所さんの目は今のうちに潰しておいてあげた方がいいだろうか? 五体満足で生きるほうがまだましだと思うし。ニーナの過保護さには脱帽だな、ハハハ(他人事)。


「まぁママがラードちゃんを守るから何も心配はないよね? じゃさっそく二人ではじめてのデートに行きましょう!」


 うちの母親は舞い上がってるなぁ。いつも通りだけど。ニーナが鼻歌まじりにドアノブを回し開けるとゆっくり光が差し込んできた。そこには、玄関先があってその先ちょっと広い道があった。そこを知らない人々が右へ左へと行き交っていて前世でいうとこの外国人たちがたくさんいた。金髪だったり、茶髪だったり、まさかの赤髪までちらほらと存在していた。ちなみに、俺の髪色は、母親のニーナと同様金髪である。イケメンかは不明。


「見てごらん、ラードちゃん。世界はこんなにもひろいんだよー!」


 ニーナが俺を抱えてない方の腕を広げてみせた。世界が広いも何もまだ玄関先……さっそくだが通ってる人も変な目でこっちを見てるからやめてくれないだろうか。

 そんなことを気にも留めずニーナはささっと玄関に鍵をしめ、軽快に歩き出した。どうやらSFロボットはやはりなしのようだ。わかってはいたが。


「ふふ、家を出るまで心配でいっぱいだったけど、よくよく考えてみたらラードちゃんとお出かけってだけで心配なんかふっとんじゃったわ!」


 よくよく何を考えたのだろうか。


「あーあ、どこからまわろうかしら? 迷っちゃう~」


 ウキウキ顔で歩くニーナ。仏頂面の俺。どんな目でみたらいいかわからない通行人たち。……なんで外に出てまで羞恥プレイは続いているんだろうか。


▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲


 時間は昼下がり。町には家々が隙間なく建っていて、道通りは活気に溢れているようだった。家の作りは前世ではあまり見たことのないものになっていて、木材ではない別のものを使っているように見えた。見た感じは、前世で写真とかで見た西洋系の町並みにそっくりであった。レンガ? ではないようだが、見たことないもので出来ている。そもそも建築スキルなんてもってない俺にはわからないものだ。

 そこからしばらく歩き続け、俺とニーナは道を歩きつつどこか目的の場所へ向かっていた。もちろん、俺はその場所を知らない。ニーナの思うがままだ。大通りに出たようでさらに人通りが多く賑わっていた。大通りにはぽっつりぽっつりと小さな屋台が建っていて小さな行列を作っていた。串焼きが多いのはどうしてだろうか。異世界の恒例のように何かの肉の串焼きが売られている屋台が多かった。というか、ほぼそればかり。


「ラードちゃんどうしたの? お腹すいちゃったの?」


 じっと見ていたことに気づいたのかニーナが聞いてきた。ルンルン気分で前を見て歩いていたから気づかないと思っていたがこういう時はニーナは気づくのが早い。


「でも、だーめ。あーゆうのはスッゴくしょっぱく作って力仕事の人とか冒険者の人しかあまり食べないんだよ」


 いるんだ冒険者。まぁ魔法もあれば冒険にも出たくなるだろうが異世界感が半端ないな。肉の名前もこちらの文字でカラカイドリという名前だそうだ。鳥? 普通の焼き鳥じゃないのか? 俺は疑問に思うが声を出してまで聞く気はなかった。


「悪いことばかりする鳥さんだから丸焼きされたの。魔獣だから仕方ないんだけどね」


 そこへニーナが説明する。いるんだ魔獣。てか、子供に向かって丸焼きはありなのか。相変わらずのニーナの説明に疑問符を俺は浮かべた。

 ニーナ苦笑いを浮かべつつもとくに気にしてはなさそうだった。


「さ、行こう!目的の場所へ!」


 ニーナは再び歩み始めた。いやだからどこだよ目的の場所って。


「冒険は始まったばかり~」


 はぁ……今日も楽しそうで何よりです。

 またしばらく歩くと大通りの突き当りに辿り着いた。そこに建っている建物はどこか古めかしく西部劇で見るバーのようだった。両開きのアレだ。ニーナはその場所を指差してこう言った。


「ラードちゃん! ここが冒険者ギルド! さっきのしょっぱい鳥さんをいっぱい食べる人がいっぱいいるところだよ!!」


 正直、その説明はどうかと思う。周りの人が微妙な顔でこっちを見ているし、いろいろ偏見が生まれそう。そんな中、冒険者ギルドと呼ばれる建物へいろんな人が入って行くのが見えた。スキンヘッドで『筋肉』の男、イケメンで『筋肉』の男、成人した人にしては背の低い『筋肉』の男、世紀末とかにいそうな『筋肉』の男など。『筋肉』『筋肉』『筋肉』……とてもむさ苦しそうな建物になりそうだな。そんな感じがした。


「困ったことがあればここに来たら大丈夫だよ。しょっぱいおじさんたちがきっとラードちゃんを助けてくれるよ」


 なるほど。しょっぱくて『筋肉』なおじさんがなんでもしてくれるって?――お断りします。


「あぁなんでそんな嫌そうな顔するの~? あのおじさんたちが顔が怖いから?」


 ニーナは落ち込みつつ残念そうだった。

 違う。変な潜在意識が俺を惑わすからだ。誰かさんのせいでな。

 しかし、人以外の人種もやはりいるようだった。筋肉のせいでどれも同一個体に見えそうだが、それぞれ、人間、エルフ、ドワーフなど異世界定番シリーズ人物たちが冒険者ギルドにはいっていくのを見かける。

 

「私、どこか説明おかしかったかな……ま、いいか。だいたい伝わったと思うし」


 すぐに調子を取り戻すニーナ。

 以心伝心で伝わる親子の絆がマジパネェ。……そう思ってないけど。俺は鼻で笑った。


「あ、今笑ったでしょ! よかった連れてきて嫌がられたらどうしょうかと思ったよ」


 ……マジパネェ。


「よし、じゃあ次はパパのところだぁ。さぁ行くぞ~」


 大振りで歩きだす母ニーナ。大あくびで飽きれる息子ラード。……なんか疲れた、もう帰ろ? そんな声聞こえるわけないが。

 冒険者ギルドの角を右に曲がり3つほど曲がり角を越えたところでニーナは立ち止まった。そこはいつの間にか大きい建物が立ち並ぶ町並みへと変わっていた。商業通り、そう近くの看板に書いてあった。


「ほら、あそこがパパが働いてるとこだよ。まわりのほかの建物より大きいでしょ?」


 言われて見てみると、確かにまわりの建物よりも大きくて少し古っぽい……いや年季の入った建物がそこにはあった。

 看板も飾ってあり、ファーべル商店? と文字が刻まれていた。年季が入りすぎて文字が霞んでいる。なるほど、商店ってことはうちの親父は商人ということか。


「ファーベル商店って書いてあるでしょ? ファーベルってうちの家名なんだよ? 知ってた?」


 まじかよ。知ってたもそもそも言ってないだろ。


「うんうん、ラードちゃんも初めてで驚いたみたいだし、さっそくお店に入っちゃおう!」


 あんなに口数の少ない父親が商人なんて職業についてることのほうが驚きだよ。

 商店のドアは、ゆっくりとした音をたてて来客を知らせるベルを鳴らした。


「いっらしゃいませー……って、ニーナ様どうされたんですか? 何かありましたか?」


 すぐにやってきた女性はニーナを見た瞬間ちょっと驚いたようだった。


「いやー、カーベラ。ラードちゃんにちょっと外の世界を見せてあげようかなってね」

「なるほど」


 納得がいったようだ。カーベラという女性は、背が少し高めで黒髪のロングでスラッとした体型の女性だった。細目でにっこりとしていて優しそうなイメージを感じる。


「ニーナ様は、お子さんが出来る前は毎日のようにいらっしゃったのに最近は全然来られないので何かあったのかと思いましたよ。久しぶりにお会いできて、私安心しました」


 毎日来てたの。マジかよ、ラブラブだな奥さん。


「うん、ほらさ子供出来たら旦那よりも子供が可愛くてね。毎日眺めていても飽きないくらい」


 旦那<息子、になってしまったのか。いい迷惑だ。


「でも、あの人のこともちゃんと好きだよ? ひげがモジャモジャなところもいいんだよ~」

「あはは、ご馳走さまです。ニーナ様が店長の事を愛していらっしゃることは店の誰もが知っておりますので大丈夫ですよ」


 これにはカーベラも苦笑い。

 何故か、息子の俺が恥ずかしい……店の誰もが知っているってどれだけデレデレで会話してたのか。


「だよねー」


 当の本人は恥ずかしくないらしい。ニーナの羞恥心は成長とともに忘れ去られたのかも知れない。


「あ、ということはニーナ様が抱いているこの方が?」


「そうそう、息子のラードちゃんだよー。ほら、ラードちゃんも挨拶して(俺の手を振りながら)僕ラードって言うんだー、二歳になったのー(ふりふり)」


 ニーナが俺の手を掴み、カーベラに向かって手を振らす。やめてくれ……恥ずかしさで殺す気か。


「なるほど、お話は聞いていましたが本当に達観したようなお顔していらしゃいますね」

「そうなんだよねー、あまり笑ってくれないの~。男の子ってみんなこうなのかな?」


 物語とかの転生者って赤ん坊の時はどうするんだろうか。普通に笑ったり泣いたり出来るんだろうか。それが出来たら俳優とかになれそうな気がするが、俺は一生かかってもなれる気はしないな。


「ははは、子育ては大変そうですね。店長にお会いに来られたのなら二階の部屋にいらっしゃると思います。在庫確認と発注準備かと思いますので」

「りょうかーい!」


 ニーナは俺の手を使ってバイバイいう風に手を振っている。それに対してカーベラも笑顔でかえしてくれた。なんとも、いい人そうである。

 ニーナは俺を抱えて駆け出すように、奥へ進んだ。店内って走って大丈夫なのか? と思っていたがカーベラは笑っていたのでいつものことなんだろう。

 店内にはいろんな商品が置いてあった。ショーケースに飾ってあるもの、壁に立て掛けてあるもの、大きい置物など様々だ。その商品たちを横目で見ていたがいまいち何に使うものかは分からなかった。そもそも、ここは何の店なんだ?

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