01
初作品です。
度々、変更が加えられると思いますが、エターせずに頑張ります。
以後、宜しくお願いします。
魔導師とは―――魔法の存在と仕組みを解明し、科学との融合により産み出された、新たな学問群の総称である魔導学。それを学び活用し、進歩させ文明の更なる発展へ、繋げる事を掲げた者達の事である。
日々鍛練、研究、依頼の解決、異空間である魔界への資源の回収を行い、社会の為に力を奮い必要ならば実戦にも赴く、弱きを助け強きを支える誇り高い職業でもある。
正に英雄と称えられる彼等に続く後進を育て上げる為に、そして、本土のどこよりも充実した設備群を利用し魔導師として高みへ達する為に―――国土の大きさに準じて各国1つから複数の―――専門の学校が作られた。
外部と一本の橋を境として、外部と隔てる為の物理的な位相をずらす結界の中にある巨大な人口島。そこに建てられた、最高の設備や機材が揃い、更なる高みを求める研究や鍛練と学習の最適な環境を兼ね備え、様々な叡智の圧倒的量を蓄え保管する最重要施設かつ、異空間での魔導植物・鉱石群と魔物や魔獣素材の回収、探査を行う最前線。
日本が世界に誇る、最高最強の魔導師一族の歴代の次期当主達が院長を務めて続けほぼ独立状態にある、魔導師の魔導師による魔導師の為の専門機関。
それが―――魔導学術教導院天原極東第二支部である。
◇◇◇◇
「―――という名目ですがぁ……実際の所、月一の納品ノルマと出席数さえクリアしていれば、残りの時間は自分のお好きなように使って構いませんしぃ、高等部の最低修業年数であるの四年間は兎も角、卒業資格はあるのに研究や鍛練の為に四回生を続けている子や…卒業しても籍と住所を置き続けて、面倒臭い手続きや諸々を教導院を理由に遮断している子もいますー」
二、三十人なら余裕を持って各自のスペースが確保出来る、ある程度の広さを持つ教室。
その壇上から、だらけた様な張りの無い話し方だが不思議と最後列まではっきり聞こえる声が響く。
「まぁ、外の人達が面倒臭いというのは同感ですがぁー……せんせー思うに、皆はやりたいことを存分にやり終わって未練が無くなってから、お花畑の人達が待つ外に籍を置くんですよー」
壇上にある教卓の上に教育者なのに靴のまま堂々と立ち、外の能天気な人達など無視して自分の好きなように過ごせと、教育者の癖に言ってのける………幼女。
上下赤いジャージでコーディネートされた服装はただひたすら楽な格好を突き詰めた様に、袖と裾を捲っている。
マイクの様に口元に展開された小さな魔導陣の大きさを弄りながら幼女は更に続ける。
「ほんとー困っちゃいますよぉー。本土の人達は魔導学の恩恵だけ得てのうのうと暮らしてる癖にぃ、お偉いさん達は力は正しき事の為に使えだとか正しい管理の元で正しく運用されるべきだとか監視だ情報を開示しろだとか……ド素人とが生意気言ってんじゃねぇよ自分達の都合だけだろうがナンも正しくねぇよ魔力を持っていただけのガキが体と命と人生を張ってんのに豚みてぇに肥え太りやがってスカスカの頭に穴ぁ空けて皺一つ無ぇ脳味噌を引――――」
「ミミ先生ー! 出てます! 黒い方が出てます!」
「辞めて下さい! 可愛さが台無しです!」
「やめろぉぉぉ! 幼女の見た目で毒吐くじゃねぇ!汚れるだろうがエセ幼女ぉ! キツいんだよあんたの所作一つ一つがよぉ! 年齢考えやがれ!」
「同士よ、私が思うに夜な夜な屋台で缶ビール片手に焼き鳥数本まとめてかっ食らう年増が可変式幼女とかマジファンタジーであるな? 昨日酔ってアルコールを服にぶちまけたからジャージであるのに?」
「そんな風に言っては駄目だナ同士。服装の時点で幾ら見た目が良くても台無シ、年甲斐も無くうわキツって思ったりするけレド、あんなのでも教導院の皆を心から愛している大人の1人なんだカラ…可哀想ダ?」
「あ、ごっめ~ん! ついつい代案を出さず外から批判しかしない足を引っ張るだけの老害どもの事を思い出しちゃったの~………後ろ三人は後で絶対埋めちゃうぞ~?」
授業の途中で黒い部分が出てしまい、同じように口元へ魔導陣を展開した生徒達にツッコミされてしまった、邪悪な顔をしていたミミと呼ばれた幼女は、先程の闇を誤魔化す様に笑顔を作りポーズを取るも、内包された暗黒はまだ収まっておらず、ミミを痛烈に批評していた三人に向けて睨み付ける。
「「「ごめんなさい(申し訳無い)」」」
「いいだろう……いじわる言っちゃせんせー悲しいよぅー」
殺意に近い圧力を当てられ、三者三様の動揺を見せる姿に満足したか幼女として振る舞う。
不意に威圧されたのにすぐに切り替えて体勢を整えようとしているのは流石と言うべきか呆れるべきか。
「もー三馬鹿ちゃん達のせいで連絡事項忘れちゃったよぉー」
「先生、質問良いであるか?」
「はいー三馬鹿2号アルク君、なぁにー?」
「それはただの老化では?」
「言い遺す事はそれだけかなぁー?」
「おっと済まないね、間違えたよ。―――それよりも、何故空席が3つなのかな?」
圧力が消え直ぐに体勢を直した、アルクと呼ばれたスーツベスト姿の男は挙手した姿勢を取ったまま、悪びれも無く皆が気にしつつも言葉に出さなかった質問を重ねる。
「彼が最低限の授業にしか出ないのは常だが、だとしてもこの空席の数は些か不思議である。このクラスは20人。今この場には15人。授業にあまり出ないのが1人いる訳で、彼女が休んでいたとしても空席は2つの筈だが、何故空席が6つもあるのか分からなくてね。これの詳細が連絡事項の一部では?」
「そうだったそうだった、それを言わきゃいけなかったね……はぁー…何でこういう時は頭と気が回るのに日頃はエクストリーム馬鹿なのかなぁー?」
「ふっ、愚問を。先生よ遂に老化しきったかね? 素手で林檎を砕くゴリラの如き女性であった故に、いつかはそうなると思っていたが、真のゴリラになったのならば……仕方無い、教えて差し上げるとしよう。いいかね?こんな言葉があるのだよ………」
「おう、言ってみな」
「馬鹿と天才はなんとやら、とね…!」
「今この場に限って確実にてめぇは単なる馬鹿だ馬鹿野郎!」
一々気取ったポーズを取って見せるアルクに呆れ果てるミミ。
しかし、ため息と共に表情を整え全体に向く。
「はぁ……アイツはいつもの事だから放っておいて…実は転入生が来るから三葉弟が迎えに行ってますー」
「「「転入生!?」」」
ザワつく教室内、皆さまざまな反応をするが、全体的に好意的な反応だった。
それを見てミミは心なしか表情を和らげる。
皆は転入生について、男子かな女子かな賭けるかよし一口500円からだ男子に6口なんの女子に10口賭ける胴元は任せろ等の、学生らしからぬ思い思いの言葉を交わすが、その和気藹々とした雰囲気も、騒ぎの中でも常に本を読んでいた一人の少女の質問で、喧騒が静まる。
「……先生」
「なぁに?」
「……この時期に今?しかも……このクラスに?」
その言葉に込められた意味を知っているから、先程まで好き勝手に騒いでいた皆は押し黙る。
だからこそ、ミミはその少女に優しく微笑んだ。
「うん、そうだよ。仲良くしてあげてねぇ?
「そう」
それだけ、と会話を切り、読んでいた本に目を下ろす少女。
「まぁなんだ。最後にせんせーも賭けには参加するから後から変更は無しな。」
その言葉で静かだった全体が、答え知ってるだろうが不正だとまた騒ぎ立てる。
「(さぁて、彼はどう反応するかな)」
ミミは横暴だ不正だこれだから年増は等と、騒いでいる生徒達を放って窓の外を眺め思考する。
『君のクラスに新しく生徒を1人追加したいが構わないよね。あぁ、心配は無い。君なら、君達なら新しく輝ける素晴らしい可能性を彼女にも見出だせるだろう』
魔導学術教導院天原極東第二支部第四回生山吹組。
途中加入を含め、殆どのメンバーが小等部、中等部、高等部と、常に同じ組で同じ担任である。その為か、皆が孤独の身である故か、兄弟姉妹と迄はいかないが、家族に対する親愛の情の様な物を皆が抱いている。
しかし、なぜ孤独の身である彼・彼女等を半ば隔離の様に組単位で隔てているのか。島外は勿論、島内ですら僅かな者しか理由を知らない。
様々な理由で、島外では生きれない、又は、生き辛くなった者達を集めた、最も優秀で、ある意味で最も危険な訳有り問題有り達の巣窟である。
ならば、このクラスに送られるであろう生徒は漏れ無く―――。
「って、うるせぇぞ!さっきから暴君だの独裁だの年増だのとぉ!良いのか?本当の暴君とはなんなのか思い知らせてやろうか!?」
「年甲斐もなくハッスルして次の日筋肉痛で動けない等は、やめてくれたまえよ?」
「おぅ、てめぇのゴリラ発言は消えてねぇからなコラ」
◇◇◇◇
本土と隔てられた島と唯一往来が可能な――視覚情報を圧縮し、空間を拡張しているため実際はとても長い――橋の上を走る影が一つ。
?「走ってもッ……!走ってもッ……!着かない……!長過ぎるッ……!」
橋「……………………」
?「しかも、初日から遅刻ッ……!有り得ない……!評価……印象……悪過ぎるッ……!不良……圧倒的不良ッ……!橋……お願いします……!着いて……着いて下さいッ……!お願いしますッ……!」
橋「が……駄目ッ……!」
?『ぐにゃぁ~~~!!』