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チビ陛下と私の味噌汁ウォーズ  作者: 佐田祐美子
前半、馴れ初め
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忍び寄る影

「がきんちょはがきんちょらしくしなさい」


 そう、私の耳にタコができそうなくらい言っていたのは叔母でした。


 私はそんなことを言う叔母が大変苦手でした。赤い革ジャケットに長い金髪を散らして、大きなバイクを操っている派手好きの叔母。私に子どもらしくと言う癖に、わがままばかりで大きな子どもみたいな叔母。唯一の母方の親戚でしたが、本当に姉妹なのかと疑いたくなるほど母とは似ていません。母は儚げな美しい人でしたので。


 私がなぜ苦手な叔母と暮らしているのかといいますと、私が五つの時――事故で両親を亡くした時まで遡ります。通夜に集まった父方の親戚は、私を引き取ることに揃いも揃って渋面を並べやがりました。母の身元が確かでないことを理由に両親は結婚を反対されていましたし、私は私でなにか言動がおかしかったのです。私の押しつけあいをする父方の親戚をぼうっと眺めていましたら、真っ赤なスーツの叔母が突然現れたのです。


「真理紗、あなた私んとこ来なさい。私があなたを幸せにしてあげる」


 プロポーズかよ、と茶化して突っ込めないくらい真剣な目でした。海外出張ばかりしている叔母に子どもが育てられるか、と親戚一同言いましたし私も思いました。けれど叔母は冷めた目で一睨みするだけで親戚達を黙らせました。


「望まれない所に行くよりよっぽど真理紗のためになると思うけど」


 叔母はそう言って私をかっさらい、わざわざ新しいマンションに引っ越して私と暮らし始めました。私は迷惑にならないようにと家事を手伝いましたが、実はそれが叔母の狙いだったのではと思いました。叔母の生活能力は皆無だったのです。私がどんなに綺麗にしても、次の日には部屋は散らかるゴミは蔓延る。本当に大きな子どもみたいな人です。それなのに私に言うのは「がきんちょはがきんちょらしくしなさい」なのですから笑ってしまいます。


 けれど、叔母の気持ちを私は痛感していました。レンももっと子どもらしく人に甘えたらいいのに。レンと同い年の近所のがきんちょは、ゲームとご飯と学校の話しかしません。政治はゲームではありませんし、ご飯を食べているのかすら怪しい程忙殺され、会議は学校の授業とは違います。


 なにか、欲しいものとかないのでしょうか。味噌汁以外で。そう思った私は目を開けました。夜明けの前兆も窺えない真夜中、味噌汁を作りに行く時間です。久々に叔母の……向こうの世界の夢を見ましたが、ホームシックになることもなく叔母によって部屋がゴミ屋敷と化しているかと想像して、憂鬱になったくらいでした。


 味噌汁を作るついでに訊いてみようと思ったのですが、その日レンは現れませんでした。おかしいとは思いましたが早めに休んだのだろうと勝手に結論づけ、私は部屋に戻りました。真相を知ったのは翌日、リリアンヌがレオンさんを連れずリーンの格好で私の部屋に訪れた時でした。


「陛下が昨晩、何者かに襲われました」


「え……」


「なぜ陛下が真夜中に、全く用事のない一階にいたのか疑問の声が上がりましたが、極秘の仕事があったと仰せでした。そしてその仕事のことを知っている人間に心当たりがあるとも」


 私は全身の血が凍ったかと思いました。それって私じゃん、と。つまりレンは私を疑っているのです。動揺が顔に出たのでしょう。リーンが困った顔になりました。私は慌てて首を振ります。


「私じゃない。そんなことよりレンは怪我してない?」


 訊くと、リーンの表情が柔らかくなりました。


「自身の嫌疑をそんなことと称して、陛下の身を案じる貴女を疑うことなどありましょうか。陛下はご無事で現在七賢会議に出席していらっしゃいます。それと、マリサ様におきましては七賢第三席クレセリア・グランヴェロー様と七賢第七席レオン・グランヌーヴェ様が味方する所存ですのでご安心を」


「え、誰だって……?」


 レオンさんが味方してくれることに覚えはありまくりましたが、知らない名前が出てきて驚きました。七賢第三席のクレセリア・グランヴェローという名はたぶん恐らくきっと、ここで初めて聞いた名でしたので。


「クレセリア・グランヴェロー様です。あの方には特別な情報網がありますので」


 リーンが言うと同時、なんの前触れもなく天井から紙が落ちてきました。拾ってみると『マリサ様は情報漏らしてないよん』と書かれていました。驚いて上を見ても天井があるだけでしたが。


「隠密という者です。マリサ様は馴染みがないと思いますが」


 この世界では当たり前のように忍者が存在していました。常に見られていると意識してください、とは言われましたが本当に見られているとは思っていませんでした。

 しかし、リーンの言う通り私の潔白が確実なのだとしたら、すぐ解決しそうなものです。けれどリーンの雰囲気が掴み所がなく異様なのです。経験値の少なかった私には到底読み解けませんでした。なので私は決めたのです。


「レンに会いに行く。直接顔を合わせて話をする」


 私は部屋を飛び出しました。目指すのは二階の会議室です。出待ちでもなんでもしてやろうと思いました。けれど不思議なことにいつまで経っても辿り着きません。ひょっとしてと思って彼女の名前を呼びました。


「エレーヌ!」


「カルロは会いたくないって言ってるの」


 エレーヌは唐突に前に現れました。龍の翼でゆっくりと羽ばたいて。


「お願いエレーヌ。レンと直接話をさせて。私じゃないの、誤解を解きたいの」


「知ってるの」


 さも当然というようにエレーヌは返しました。


「この国はわたしが守護する国。ましてや王宮のことであれば、わたしにわからないことなんてないの。けれど、王であるカルロの命は絶対なの」


 そこに感情は欠片も存在しませんでした。



あんまり登場人物増やしたくないのですけれどね……

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